見出し画像

ヘタレ師範 第5話「道場破り(初陣)」

第1話 「出会い」 に戻る


第4話 「道場破り1」に戻る

ーーーーーーーーーーー本文ーーーーーーーーーー
そこは高速道路をバイクで2時間ほど走った街だった。
俺たちは最初の道場破り決行ってわけだ。
こんな遠い場所を選んだのは、足がつかないためさ。
ヤバいことするなら、なるべく知らない人間の土地にこしたことはない。

俺達が選んだのは、寸止め系のかなり有名な道場だ。
すべてリサーチ済みだ。

俺たちは彼らの練習時間が終わるのを待った。練習生があらかた帰宅したころ、
俺たちは突撃した。

俺たちはジオンが準備してくれた真っ赤なコスチュームとマスクをつけ、ガンカクは素顔に歌舞伎メイクといういでたちさ。

俺たちは最初からこんな格好で高速道路を飛ばしてきた訳じゃない。ちゃんと着替えたし、バイクだって見つからないように隠してきたが、その詳細はここでは書かない。

とにかく突入された道場の人間にしてみれば、
あまりに不気味な集団だ。

でも、きちんと挨拶はしたぜ。

ジオン「こんばんは!」
そこにいたのは殆ど黒帯のヤツばかりだったが、俺たち、3人をギョッとした目で見ていたぜ。
そりゃそうだ。上から下まで真っ赤っかな不気味3人組なのだから。

ジオンはあくまで下から目線で
ジオン「私たち、道場破りに来たんです。お相手よろしくお願いしますネ」

そして俺とガンカクがズイと前に出る。

とたんに黒帯たちはワッと立ち上がって身構えた。
でもどうしていいか分からなかったようでお互い顔を見合わせていた。
道場破りなんて事態はまったく想定していなかったんだろう。

ジオンは、あっという間に近くの2~3人を倒していた。ストレートに右足の蹴りだけで倒してしまった。

これには道場の連中もだが、俺だって驚いた。
だって、ジオンが複数の相手を、足一本で倒すなんて。

しかし、道場の黒帯たちを驚かせたのは別の問題だった。

「反則だ!」「ここのルールと違うじゃないか!」
ここは寸止め道場だ。
彼らの抗議はもっともだ。

しかしそんな抗議なんてまったく無視して歌舞伎顔のガンカクが飛び出し、一人を捕まえ一瞬で締め落としてしまった。
連中は青くなった。

しかしこうなると俺だって黙っていられない。手当り次第2人を蹴り倒してやったよ。
彼らは完全に戦意を消失してしまい。
「卑怯だ!反則で攻撃してくるなんて」
文句は言うが、もう何も抵抗しなかった。

ジオンが大声で
「卑怯?道場破りにルールも反則もあるか!」

すると、道場の奥からドスドスと走る音がした。

「ヤマシタさんこいつらです」
黒帯の一人がロン毛の大男を連れて来た。

ヤマシタという男は、真っ黒な空手着。その道着から覗いている胸も腕も筋肉質。他の黒帯連中より貫禄がある。

ヤマシタ「そうか、寸止め道場に押しかけて、フルコンで道場破りとは、考えたもんだな」
ジオン「あんた、ここの責任者? 」       
ヤマシタ「この地区のな。とは言っても最近の話だ。それまではフルコン系でね」

ヤマシタがフルコン系と聞いて、俺は罪悪感がスッと消えた。

「だったら、対等だ。行くぜ!」
俺は、飛び込みながらストレートを放った。これはテコンドー特有のパンチ技だ。
しかし外されたので、二段蹴りをもう一度跳び上がって
、10年ぐらい、リングにも上がってた」     

俺もガンカクも息を飲んだ。フルコン系が相手だということは想定していない。ジオンはどうする気なんだろう?

するとジオンはパパっと二歩ほど飛び下がった。
山下「逃げるな!」猛然と追いかけて気合いとともに、強烈な左ミドルキックをぶち込んできた。

ジオンはそのとき、相手の右ナナメ後方めがけて飛んだ。
そしてすれ違いざま、相手の襟首をつかんだ。
襟首を掴んだと言っても通常とは違う。ジオンは空中を飛びながら、それをしたのだ。

ジオンの体重は、このとき55kg。18㍑のポリタンク約3個分(約54kg)の重量が、山下の襟首一点ににかかったのだ。

山下は、蹴り足の目標を失い、片足立ちのところに、飛んできたジオンに肩をつかまれ、完全にバランスを崩した。
ジオンが着地した瞬間、ドンと音をたて、山下は見事に引き倒された。
山下「汚え、掴んだり投げたりなんて・・・」

山本は最後まで言えなかった。ジオンが襟首を掴んだまま強烈な顔面バンチを喰らわせた。
黒帯たちは悲鳴のような喚声をあげ、山本は意識を失った。

ジオンは立ち上がると、明らかに怯えている黒帯たちにやさしく。
「ごめんね、お宅ンとこは、顔面攻撃もルール違反だったよね?」

数人がウンウンと頷いた。
今度は大声で。

「ルールなんて後生大事に守ってるとな、いつか、そのルールに裏切られるときがくるんだ!よーく、覚えとけ!」

ジオンのあまりの迫力に、黒帯連中ばかりでなく、ガンカクも俺も驚いた。

俺がもっと驚いたのは、ジオンがそういったとき、一瞬涙ぐんだことだ。

俺の視線に気がつくとジオンは慌てて涙をぬぐい。
「ちくしょう、汗かいちまったぜ。看板かカネか、どっちをいただくか?交渉しょうか」

俺は世間もあまり知らない女好きの大学生だ。
だけどそんな俺にもわかる。

このジオンという、歳も俺とあまり変わらない不思議な女は、格闘技がバカ強いだけじゃない。

ルールに裏切られて、涙を流すような経験をきっとしたことがあるのだろう。

それが彼女の男嫌いと関係あるのかもしれない。

ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー


第6話「ゴロちゃん」につづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?