キンちゃんがいなくなった
「キンちゃん」は息子が大事にしているぬいぐるみである。
マインクラフトというゲームソフトのキャラクターの、
冬毛の白いキツネ。
息子はキンちゃんが生きていると思っている。
でもぬいぐるみだとも分かっているので
私にキンちゃんを操らせて吹き替えをさせる。
息子の中ではキンちゃんは3〜5歳くらいのちびちゃんだ。
私の住む地域でも昨日は久しぶりに雪が積もった。
夕方になってから息子と雪の散歩をすることになった。
「キンちゃんは雪が好きな子だから、特別に」と
息子は大事そうにコートのポケットにキンちゃんを入れて出かけた。
積もったばかりの雪でキャーキャー言いながら
二人で雪合戦などして遊んだ。
ひとしきり近所を練り歩いて、ようやく帰宅。
息子がコートを脱いで慌てる。
「キンちゃんが…キンちゃんがいない!」
急いでまたコートを羽織り直して、足がもつれそうな勢いで外に出る。
「キンちゃーん!キンちゃーん!」
息子はありったけの声でキンちゃんを呼ぶ。
滑らないように気をつけながら今まで歩いた道を辿る。
さんざん見てまわってもどこにもいない。
最初に遊んだ広い駐車場をもう一度念入りに探す。
キンちゃんは白いので、雪に紛れたらもう見分けがつかない。
「キンちゃーん!」
息子は泣きそうになりながら探し回っている。
地面をつぶさに見ながら駐車場をくまなく歩いていたら
駐車場の端っこにキンちゃんがいた。
横たわっているキンちゃんの上にうっすら雪が積もって
まるで本当に生き物が倒れているようだった。
とてつもなく悲しい光景だった。
「キンちゃん!!ごめんね、ごめんね」
息子は急いでキンちゃんを抱き上げて雪を払うと
ギュッと抱きしめた。
「オレ、泣きたくなっちゃう」と言うと同時に
堪えてた気持ちが堰を切ったように涙と共に溢れ出した様子で
うわーんと大声を上げながら泣いた。
私ももらい泣きを我慢して「よかったね」と言うのが精一杯だった。
寒さでほっぺを真っ赤にして涙と鼻水でずるずるになった息子と
雪と泥で汚れたキンちゃんをまとめてお風呂に入れた。
暖まってようやく落ち着いた息子は
キンちゃんに話しかけながら石鹸で丁寧に洗ってあげた。
キンちゃんはもうすっかり乾いて息子と一緒に眠っている。
キンちゃん、きみは本当に生きているんだね。
今までただのぬいぐるみだと思っててごめんね。