人をすきになること1

 感情は止められないのに、なぜ“好きになってはいけない人”がいるのだろうか。世の中の価値観は、国や時代や文化によってかなり変わってくる。誰が誰に文句を言うのも正しくないのに、なぜ、性的思考や恋愛対象に不快感を示したり、自分の考えを押し付けたりしてしまうのか。何が悪くて何が正しいかなんて、極論誰にも分からないのに。

 ネットで「小学生のアニメキャラと〇〇〇したい」と発言していた芸能人がいた。規制音が入っていたので、多分S....だろう。ストレートにキモいと感じたが、堂々とした発言は逆に堂々としすぎていて好感も持った。なんで咄嗟にキモいって思うんだろうね。私が今の時代の日本で育ったからかな。何を積み重ねて、その価値観になったのだろう。不思議。

 大好きな人のその発言に驚いて一瞬ドン引いたが、果たして私には引く権利はあるのだろうか。ない。色々考えていたら、浪人時代の予備校講師の話が思い出された。

 当時19歳だった私は、行きたくもない大学を目指すと公言し、名ばかりの浪人生活を送り予備校に通っていた。予備校には謎のヒエラルキーが存在し、トップに君臨する女子は私を一瞥して鼻で笑った。(ここでモテてどうするんだよ......)と私はモテないパワーを勉強に注ごうとし、机に齧りついた。しかし大学になんか行きたくないので、それも数日で終わった。根性がなくて本当に笑える。私は一体何がしたいんだろう。何もしたくないし、勉強なんか一生したくない。時間はたっぷりあったが、お金がなかった。バイトする気にもならなかった。海外を旅したいと思ったが勇気もなかった。進学校だったので、同級生はみんな大学生活だ。浪人した子もいたかもしれないが、私の知る範囲ではいない。卒業するときの先生たちの悲しそうな哀れむような表情に、目を合わせることが出来なかった。卒業後、完全に友達の話の輪には入れないし、惨めなので連絡も薄くなった。学校で出来損ないだった私は、ここでも弾かれる。

 そんなやる気のない予備校生は授業中もやる気がない。親に大金を出してもらっていたのに、授業内容は何一つ覚えていない。しかし、講師が閑話休題で語った話がとても印象に残っている。

 俺も長いこと予備校教師をしていて、色んな生徒に出会ってきた。ある生徒の話をしようと思う。こいつは男なんだが、めちゃめちゃにカッコ良かった。クラスで一番とか学校で一番、なんてレベルじゃないくらい。芸能人の中に入っても段違いにカッコいい、本物のイケメンだった。しかも背も高いし、何より性格が良い。殆どの女子が好きになっていて、物凄い数の告白もされていたけれど、何故か彼女はいなかった。そして、好きな人がいるという浮わついた話も聞かなかった。

 ある時、そいつが思いつめた顔で「先生に聞いてほしい話がある」と言ってきた。大体この年頃の悩みは恋愛だから、恋愛相談なのかなと思って授業後話を聞いた。……でも中々そいつは話を切り出さない。どうしたんだよ、失恋でもしたのかーなんて言ったけど、それでも何も言い出せない。えーっと......とか、うーん……とかずっと言っている。もしかした同性が好きなのかもしれない。俺、告られるのかもしれないなって思った。予備校講師なんか身近にいる友達みたいな大人だから、俺も女子生徒に何度か告られたことがあってそう思っちゃった。で、1時間くらい経って、やっと話し出した。

「……先生、俺、小さい子しか好きになれないんだ……」

そっちかーーーって思った。俺への告白じゃなかった。

それは、恋愛対象として?と聞くと、そうだと。でも好きだから触れたくなるし、触れればヤりたくなるから、結果、性的対象でもあると。膨らみかけの胸が良いんだってさ。その年代でしかオナニーできないって。俺には分からなかったけども、そうなんだって言うしかなかったよな。

 で、まだ小学生・中学生の時は良かったけれど、だんだん自分が高校・大学と成長するにつれて、恋愛対象の女の子とどんどん歳が離れていって、差が大きくなっていくことに焦ってるって。好きな子に好きとも言えず、彼女も出来ないし結婚もできないまま一生を終えるのかと考えると怖い、意に反して自分はどんどん歳をとっていくから、もうお先真っ暗だと思ってしまう、と。そして今は理性で抑えているが、この状態がずっと続くと、今後犯罪を犯してしまうかもしれない。それをちゃんと止められることが出来るのか自分ではもう分からないと、彼は相当悩んでいた様子だった。

 ......切ないよなぁ。あんなに見た目も中身も完璧な人間なのに、彼女のひとりも作れないなんて。付き合ってみた同級生はいたらしいんだけども、やっぱり“違った”みたいですぐ別れたそうだ。でも、何人も何人も告ってくるから、断るのも心が痛くて、今は同性愛者だと嘘のカミングアウトをして、彼女たちをなるべく傷つけることなく、断っているらしい。……本当に優しいやつなんだよ。でもどうしても恋愛対象は小さい女の子なんだよな。ベストは小5らしい。

 ……私の記憶はここで終わっている。何故その話になったのかも覚えていない。その日だけの選択科目だったし、どこか話を盛りそうな雰囲気の講師だったので、どこまで本当かは分からない。でも実際にそういう生徒がいたのだと思う。好きな人がいて、告白できる状況にあって、付き合える可能性があるなら、どんどん行ったほうが良い。と言っていたような気もする。

 蒸し暑い、夏期集中講座での一コマだった。その話が終わり授業に戻ったら、私は即、窓の外のビル群を眺め、その会ったこともないイケメンへ想いを馳せる作業に入った。

 ......この話は当時強烈に心に響いたのだけれど、いつの間にかすっかり忘れていた。「小学生のアニメキャラとS...... したい」の発言を深く考えるうちに思い出した。

 人の恋愛感情は誰にも止められない。本人ですら無理だ。ダメだダメだ止めようと考えるほど固執してしまう。魅力的な人がいたら、心を奪われてしまったら、その人のことをずっと考えてしまったら、それは恋。恋をすれば近くに行きたくなるし、触れたくなる。それはとても自然な感情で、いけないことではない……と思うのだけれど。日々体に染み込んでいく価値観や文化やルールが、ギシギシと不協和音を鳴らす。

 人を好きになって感情が高ぶったら、相手が何歳でも良いのか。18なら大丈夫。生殖できる年齢ならOKなのか?17なら15なら?10は?5は?3は0は??......やはり年齢が下がれば下がる程、生理的嫌悪感は増す。何がラインなのか分からないし、純粋な感情としての“好き”はとても良いことのように思うけれども。………うーーーん、かなり難しい。相思相愛だったら良いのかなぁ。いや、それでもダメな場合のほうが多そうだな。人によってもジャッジは大きく変わるだろう。

 考えれば考えるほど訳が分からなくなり、答えは全然見つからない。でもまだ考えていきたい。【正しい答えは見つからない】のかもしれない。だから、考えること自体が大事なのかもしれない。
 自分のルールが正しいなんて、思い上がりたくはない。けれどもしっかり芯は持ちたい。……何を書いているのか訳が分からなくなってきたので、そろそろやめる。理解できないからと言って、すぐに拒否したり否定したりはしたくない、とだけは強く感じる。なんてね。無理だよね。

 

 明日も早いんだ。寝るよ。

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