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#1 花粉が嫌い

花粉が嫌いだ。そもそも好きな人などいないだろうが。最初に発症したのは十五歳の時、超健康体だった私に突如訪れた悲劇。それから五年ほど経つが年々春と秋が嫌いになっていく。良い季節であることは間違いないのだ花粉さえなければの話だが。

常に重りを抱えているかのような倦怠感、咬みすぎて粘膜が弱り止まらない鼻血、唾を飲み込むたびに悲鳴を上げる喉。息をしているだけでその全てが体を蝕んでいく。

そのためこの季節は外に出ることが億劫になる。家に引き籠る、だが悪いことばかりではない。今は幸い春休みで時間はたっぷりある、これは間違いなく学生の特権だと思う。普段観ないジャンルの映画に手を出してみる、有り合わせの物でおつまみと冷凍庫で凍らせておいたウイスキーでハイボールを作り部屋を暗くする。時にはストレートで嗜んでみたりもする、ジョントラボルタに近づけた気になれる、そうして観始める。

映画館は特別だ、それは認めざるを得ない。ポップコーンの匂いが漂う空間とあの容器で飲むコーラ、何よりあのちょうどいい硬さの椅子。映画を楽しむためだけに用意された空間。

だがこちらだって負けていない。正真正銘ホームなのだから居心地の良さは敵なしだ。隣の人の寝息を聞かなくて済むし気になるシーンは巻き戻して幾度でも味わえる、酔いが回ってきたら横に寝そべることも小腹が空いたらインスタントラーメンを作ることだって出来る。自分なりの映画の楽しみ方を実践する、これは家に籠っていなかったら確実にしていなかったことだ。

そういったことをしてみると少しばかりは花粉症でも良かったなんて思える。嫌いなもののお陰で得られる恩恵もあることに気づけることもある。気づくことでまた一つ大人になった気がする。嫌いであることに変わりはないが今日も部屋を暗くしてみることにする。

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