Sくんのこと

この前、高校時代、密かにすきだった男の子が夢に出てきた。Sくんという。
Sくんは、時々私の夢に出てきてくれる。もちろん、高校時代のままの姿で。高校を卒業してからもう10年以上経つので、いまでは、私の中でつくられたイメージのSくん、になっているかもしれない。

Sくんは、高校時代のクラスメイトで、高校3年間、クラス替えも席替えも無かったので、偶然私とSくんは3年間隣りの席だった。(席は出席番号順だった)
Sくんはクラスの中心的存在で、成績優秀、運動神経も良くてイケメンだった。対して私は、地味で目立たない生徒だったと思う。ただ、成績だけはクラスの中では良い方だった。

当時私が通っていたのは、所謂「自称進学コース」だった。特に、私やSくんや他の特待生の生徒たちは、先生たちから「いい大学に入るように」と、期待とプレッシャーをかけられていた。
高校では普通の授業以外の補講が熱心に行われ、成績上位者は特にそれに参加することが多かった。なので、授業以外でも、私とSくんは、何かといっしょになることが多かった。
Sくんは入学当初、医学部を志望している、と言っていた。でも、経済的に私大に行けないらしくて、国公立の理系志望らしかった。
私は文系で、国文科を志望していた。当時の私は、先生たちの期待に応えようと、私なりに頑張っていたつもりだった。というか、いま思うと、先生たちに洗脳(?)されていたように思う。「いい大学に入らなければ」と思って、勉強だけは熱心にやっていた。

高校3年、受験シーズンがやってきた。
クラスの大半の生徒は、推薦やAOで進路が決まっていた。私たち一般入試組は、図書室に集められ、そこで勉強していた。
センター試験が終わる頃、3年生は自由登校になるが、進路が決まっていない者は学校に登校して自習したり、先生の個別指導を受けたりしていた。
私は私大をいくつか受けていたが、国公立も受験予定だったため、学校に通っていて、Sくんと顔を合わせることがあった。

国公立の合格発表の日、私たちは学校で先生たちといっしょに結果を見ることになった。国公立大を一般入試で受けていたのは、私とSくんだけだった。
先に私の受けた大学の発表があり、結果は合格だった。そのあとSくんの発表があり、Sくんも合格だった。
合格発表のあと、Sくんが笑顔で私に握手を求めてきてくれて、手を握り合ったのはよく憶えている。

お互い、地方の大学を受けていたし、卒業後はもうSくんに会うことも無かった。連絡先などももちろん知らなかった。
「理系の人は大学院まで行くのが普通」と言っていたので、Sくんは大学を卒業して大学院に行って、そのあとはどうしているのかなあ…と思う。いまでは、もう知る由もない。

私はいつからSくんのことをすきになっていたんだろう。
多分当時は、「Sくんがすき」という自覚は無かったと思う。
Sくんには高1のときから付き合っている彼女が居て、皆の公認の美男美女カップルだったから、そんなSくんを私がすきになるなんて、とんでもないことだった。
でも私は、隣りの席からSくんを見ていて、手が綺麗だと思ったり、たまに話しかけてくれるのを嬉しいと思っていた。
そして卒業してからSくんのことを思い出したとき、(私はSくんがすきだったのかもしれない)と思うようになった気がする。

そういえば、Sくんの彼女は看護師志望だったけれど、いまは何処かで看護師さんになっているのだろうか…と、いまでも時々思う。
私は大学在学中から心身を病んで、すっかり精神科のお世話になって、患者の立場になったけれど。

Sくんも、いまは何処かで仕事をしたり、家庭を持ったりして、しあわせに暮らしているだろうか。そうだったらいいな、と思う。

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