GAME (Goals Activity Motor Enrichment):脳性麻痺のリスクが高い乳児に対する運動トレーニング、親教育、環境エンリッチメントに関する単盲検無作為化対照試験プロトコル

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1.はじめに

脳性まひのリスクが非常に高い乳幼児を対象に、目標指向型の運動訓練・環境エンリッチメント・親教育の3つの要素から構成される介入プログラム「GAME」が、地域ベースの標準ケアと比較して運動予後に与える効果を評価するために企画された研究を紹介します

2.方法

▶︎ GAMEと標準ケアを比較し、2並行群による単盲検RCTを実施し、その有効性を評価する予定
▶︎ 本試験のアウトカムは、介入16週後・生後12ヶ月・生後24ヶ月の乳児の運動機能、家庭での充実度、子どものパフォーマンスに対する親の認識と満足度、親の幸福度

研究サンプルと募集
▷ 30名の幼児をかかりつけの医療機関、地域の医師・セラピストから募集
▷ 募集対象はオーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニー市とその近郊
▷ 保護者には、本試験の目的・デザインに関する施設固有の情報シートが配布され、本試験に同意する前に研究者と話す機会が与えられる
▷ 本試験への同意を希望しない保護者に対しては、地域社会に根ざした標準的な治療が提供される
▷ 同意が得られた後、無作為化の前に研究者が家庭を訪問し、すべてのベースライン評価を行い、人口統計学的データと周産期データを収集する
▷ MRIと医学的データは乳児の医療記録から取得する
参加基準
▶︎ CPと診断された、あるいはCPのリスクが高い生後3カ月から6カ月(修正年齢)の乳幼児が対象
▷ 全身運動に異常がある(そわそわしていない)乳児は、CPのリスクが95%高いため、登録の対象となる
(生後9週間から18週間までに紹介された乳児はGMsを用いてスクリーニングを実施.2名以上で病歴を伏せ、ビデオを評価)
▷ CPの確定診断またはKrageloh-Mann の記述に基づく神経画像異常に基づいて登録されることになる(生後18週以上から生後6ヶ月までの、GMs評価の枠外の乳児)

CPによく関連する画像には以下のものがある
・脳室周囲白質軟化症(PVL)および嚢胞性PVL
・頭蓋内出血
・脳室周囲梗塞
・大脳基底核と視床の病変
・片側実質損傷 例:中大脳動脈梗塞
・皮質奇形
(グループ分けを盲検化した小児神経科医がMRIの特徴を確認)
除外基準
・重度の遺伝的異常を持つ乳児
・退院していない乳児
・研究チームがアクセスできない遠隔地に居住する乳児

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3.介入

GAME
▷ 現代の運動理論に基づいた治療介入
▷ GAME介入は目標指向の集中的運動トレーニング、保護者への教育、子どもの運動学習環境を豊かにする戦略の3つの要素から構成される
▷ GAMEの異なる側面として説明されているが、これらの構成要素はセラピーセッションに完全に統合されており、セッションごとに特定の構成要素に重点を置いている

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GAME part 1
目標指向(ゴール設定)の集中的なトレーニング
①ゴールの設定
セラピストの助言のもと、家族が子どもの発達に関する目標を設定する(基本的には運動面の発達に関する目標を立てるが、発達に影響するとされる睡眠や食事など健康に関する目標が含まれてもよい)
②プログラムの立案
運動学習とダイナミックシステム理論に基づいて、介入を決定する.目標に対してハードルとなる要素をセラピストが評価し、家族と話し合いを経て、解決策を決定する.
* 家族は子どもが自発的に動き出すような遊びの好みについて情報共有する
* 徒手的な介入は必要最小限とし、子どもが運動を工夫したり、上手く動け始めたらすぐに中止される
③環境設定
設定された練習課題の一部分だけでも子ども自身が達成できるように環境を調整する.パフォーマンスが向上するにつれて、課題や環境を変更させ、運動チャレンジを増やしていく
④スケジュールの設定
家族の時間的な制約に合わせてスケジュールを決定する
GAME part2
保護者への教育

以下の項目に関してコーチングを受ける
①子どもの自発的な動きを認識すること
②出現し始めている動きを理解すること
③②の動きを促進させる方法

*また、セラピストは可能な限り予後に関する情報を提供し、睡眠、摂食など育児に関するエビデンスに基づいた情報を提供する
GAME part3
環境の充実
・目的の運動に合ったおもちゃ選び
・目的の運動や動作を繰り返し練習できるよう環境を調整する

*元々家族が購入している家具やおもちゃを可能な限り使用する

運動学習のための環境全体が考慮され、以下の介入も含まれる
(a)認知と言語の発達を高めるためのエビデンスに基づく早期学習刺激とロールモデル(例:本の読み聞かせ、テレビ視聴の制限)
(b)睡眠衛生の最適化
(c)十分なカロリー栄養と摂食介入

兄弟や親戚も積極的に参加(家族の知識・受容・幸福、学習機会の繰り返し、乳児に様々な社会的相互作用を自然に提供することを促進する)
保護者の健康についても確認(必要に応じて適切なサービスを受けられるように支援する)

GAMEの比較対象↓

標準ケア(Standard care:SC) 
「SCとは、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州において、CPのリスクが高いと判断された乳児が退院する際に、現在行われているフォローアップおよび/または治療的介入を示すものである」
▷ 介入の頻度・強度・種類を標準化することは不可能
▷ 使用されるアプローチは様々(神経発達療法、発達技能アプローチ、集団療法、早期介入の文献を反映した運動学習アプローチなど.プログラムには体位変換やハンドリングに関して保護者の教育、家庭での活動の提案などが含まれる)
▷ セラピー頻度は2週間に1回から3ヶ月に1回の割合と様々

標準ケア群とGAME群との間で受けた介入の様式・頻度・強度をモニタリンングするため、「記録簿」を保護者は記載

4.アウトカム指標と手順

①運動技能の評価
Peabody Developmental Motor Scales -Second edition (PDMS-2)

▷ 本試験の主要評価項目
 ▷ 対象は生後から6歳まで
▷ 標準化・規範化され、識別尺度としての使用が検証済み
▷ 乳幼児と幼児のCP集団の変化に反応すると証明されている
▷ GMFM とBayley との並行妥当性が実証されている
▷ 評価はビデオによるブラインドスコアが行われる
PDMS-2の評価は、ベースライン、治療開始後16週間、12ヶ月、24ケ月に行われる
②粗大運動能力評価
Gross Motor Function Measure (GMFM)

▷ GMFM66は副次評価項目
▷ GMFMは、CP児の粗大運動能力評価のゴールドスタンダードとして広く受け入れられている
▷ 臥位・寝返り、座位、四つ這い・膝立ち、立位、歩行・走行・ジャンプの5つの領域が測定される
▷ 乳児は評価中にビデオ撮影され、盲目の評価者は適切なマニュアルを使用してビデオで採点する
▷ 12ヶ月と24ケ月のフォローアップで行われる
③作業の満足度と遂行度の評価
Canadian Occupational Performance Measure (COPM)

▷ COPM は、自分で選択した活動範囲のパフォーマンスを、個人別に基準化して測定するもの
▷ 取り組む問題や作業を特定し、優先順位をつけ、半構成的面接によりパフォーマンスと満足度を評価する
▷ データは評価者による対面または電話によって収集される
▷ ベースライン、治療開始16週後、12ヶ月後に行われる
④家庭環境の評価
Development-Infant Scale (AHEMD-IS)

▷ 家庭環境において子どもが利用できる運動の充実した機会の質と量を測定する尺度
▷ 「家庭内の物理的空間・毎日の活動・遊びの素材」で構成
▷ 3-18ヶ月が対象
▷ 構妥当性と信頼性が実証されている
▷ 質問票を使用し保護者の回答によって評価
▷ ベースラインと12ヶ月に行われる
http://www.ese.ipvc.pt/dmh/AHEMD/pdf/AHEMD-IS_Eng.pdf
⑤家族の精神状態の評価Depression, Anxiety and Stress Scale-21 (DASS)
▷ うつ、不安、ストレスの感情状態を測定するための質問票
▷ 親の感情的幸福を測定するために使用される予定
▷ 21項目の質問票
▷ 全ての時点で評価
⑥全般的な発達の評価
Bayley Scales of Infant and Toddler Development Third Edition (BSID-III)

▷ BSID-IIIは、0~3歳の乳幼児の認知、運動、言語、社会性と情動の発達を測定する
▷ 標準化され規範となる評価
▷ BSID-IIIは、発達に応じた遊びの課題から構成、自宅で実施し、ビデオ撮影して盲検評価者が採点することが可能
▷ 12ヶ月と24ヶ月に評価される

5.統計方法

▷ 分析はSPSSを使用してintention-to-treatベースで行われ、CONSORTステートメントに従って報告される予定
▷ 記述統計(度数、平均値、95%CI)を用いてベースライン時のサンプルを記述し、使用した各アウトカム測定のデータを両セラピー群について要約する
▷ 介入後の群間差は、重回帰を用いて分析し、群割が転帰を予測するかどうかを決定する
▷ MRI分類、SES、および視覚障害やてんかんを含む併存疾患は、分析における共変量として考慮される

6.討論

本論文では、CPのリスクが高い乳児の運動機能の改善を目的に、新規介入「GAME」と標準ケアを比較した単盲検RCTのデザインと背景について概説した

2016年に今回の研究の結果が発表
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27164480/

登録された30名の乳児は、登録後16週目まで、指定された介入を受けた.生後12ヶ月の時点で、n = 26人が評価を完了した.PDMS-2の生得点ではGAMEに有意な群間差が認められ、12ヵ月時のGAMEに有利であった.12ヵ月後のBSID-IIIの認知スケールとCOPMの満足度スコアは、グループ間で有意な差があり、GAME参加者に有利であった.

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