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やすらぎの刻~道

ずっと録画してそのままにしていたドラマ「やすらぎの刻~道」を今更ながら観ている。今作品は「倉本聰氏の遺言」としてテレビの前で正座する気持ちで観ているのだが、思った通りの心に刻まれるドラマである。

人にはそれぞれ「原風景」というものがある。子どもの頃に焼き付いた「心の景色」であると。こういう倉本氏の遺言のような名台詞があるので私の心に刻まれるのだ。

エピソードの間に倉本氏の脚本の書き方の講習がある。倉本氏が一本の脚本を書く前に準備するものがある。

⭐登場人物の背景と履歴を整理する⭐
 今作品の舞台、山梨県西部の山間の集落「小野ケ沢」に点在する26軒の農家の地図を画用紙に描く。次に主人公・根来家の見取り図を描く。間取りまで考えるのである。そして、根来家の人物構成。倉本氏は家系図から考えている。この後に登場人物の履歴。この履歴を考える時、倉本氏特製の巻物が登場!!10数年前に倉本氏が製作した門外不出のアイテム。何か月もかけて作り上げた世の中の歴史(日本で起こった事件や日本政府の法案・世界の歴史・日本のその当時流行ったもの・流行った音楽・流行った映画)が大雑把に書かれている。この巻物に登場人物の生まれた年に合わせると、その人物の生きた背景がたちどころに分かる。例えば、1950年生まれであれば1968年に18歳をむかえる。その年、日本のGNPは自由世界で米国に次ぎ第二位にとなり、三億円事件が起こっている。流行っているテレビ番組は「巨人の星」「ゲゲゲの鬼太郎」「連想ゲーム」「肝っ玉母さん」「男はつらいよ」「キイハンター」。目立ったCMは「大きいことはいいことだ(森永製菓)」「わんぱくでもいいたくましく育ってほしい(丸大ハム)。今作品の登場人物それぞれの生きた背景は、この巻物を参考に脚本を練る。

登場人物の生まれた年から命を全うするまでの履歴を書く作業が重要だと倉本氏は説く。登場人物それぞれの生きてきた背景とその時代、その人物に起こった出来事など細かいことまで考えて書き込んでゆく。その人物が影響を受けた出来事、人格形成に響いたと思われる事、傷ついた出来事、楽しかった出来事、影響を与えた人との出会い、そして別れ。直接ドラマに出てくることではないが、些細な出来事の積み重ねがその人物の性格を作ってゆく。これは重要であり、不可欠な作業だ。一人ひとりのそうした内面が、他の人物と出会ったときに発生する化学作用がドラマを生み出す要因となる。「木は根によって立つ」されど根は人の目にふれず、一見徒労に見えるこの作業がドラマを生み出す根幹なのだ。

このような倉本氏の脚本の書き方を披露するシーンをみると、今作品は「倉本氏の遺言」であるという想いを強くするのである。

日々観た映画の感想を綴っております。お勧めの作品のみ紹介していこうと思っております。