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「Stabat Mater」を歌った日


「Stabat Mater」(スタバト・マーテル)という曲をご存じでしょうか?
「スタバト・マーテル」は多くの作曲家が作曲していますが、特にジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージの「スタバト・マーテル」は大変有名な曲で、名歌手たちが多くの録音や映像を残しているので、クラシック、特にバロックがお好きな方は、一度は聴いたことがあるのではないでしょうか。

「スタバト・マーテル」は、ソプラノとアルトの歌手2人と管弦楽で編成され、12曲からなる声楽曲です。ペルゴレージの遺作となった作品であり、作曲から300年近くたった今でも頻繁に演奏される人気曲です。

「スタバト・マーテル」との出会い

私が一番初めにこの作品を聴いたのは知人から貰ったCDでした。ソプラノがジューン・アンダーソン、アルトがチェチーリア・バルトリ、指揮がシャルル・デュトワ。声楽を習い始めたばかりの高校生当時は、もっと華やかな音楽に魅力を感じていたのか、そこまで大きな興味を引くものではなかったように思います。‘

チェチーリア・バルトリは私が将来的に歌うべきであろう(と高校生ながらレパートリーを模索していました)バロックや古典派の音楽をよく録音していました。最初は単に、お気に入りの歌手が歌っているCDとして聴いていたところ、母が「スタバト・マーテル! 私合唱で歌ったよ!」と。

ピアノ教室をやっていた母でしたが、元は声楽専攻だったので、大学時代に歌ったとのことでした。ペルゴレージのスタバト・マーテルは合唱編成で歌われることもあるようです。

「スタバト・マーテル」に挑戦

私も大学時代から少しずつ勉強をし始め、ワークショップやコンサートで一部を歌う機会がありました。どうやら避けては通れない曲だとは感じていましたが、それをはっきりと自覚したのはイタリア留学時でした。

ミラノでソプラノのマルゲリータ・グリエルミ氏、ローマではカウンターテナーのルイージ・スキファーノ氏に師事したのですが、両氏からもペルゴレージの「スタバト・マーテル」を勉強しなさい! と強くすすめられました。

ペルゴレージはナポリ王国(今のイタリア)の作曲家ですので、地元でも大変愛されており、彼の「スタバト・マーテル」は、演奏される機会も多いようです。特にグリエルミ先生は「音楽だけでparadiso(天国、楽園)を想像できる作品はなかなかないけれど、この曲はその一つです。」ととても丁寧にご指導くださり、私が帰国直前の最後のレッスンでも、いつか必ず「スタバト・マーテル」を歌うことを念押しされて別れました。

一方のスキファーノ先生のレッスンは大変厳しく、曲を歌う以前の発声練習でコテンパン?に絞られたりもしましたが、曲を少しずつ歌うことが許され、特に「スタバト・マーテル」を歌いなさいと言われるようになりました。

帰国直前には、「今日上手くできれば、僕といつか一緒にこの曲を共演しよう」と、嬉しくも、ものすごいプレッシャーをかけられました(笑)。結局先生の納得いく成果を私が出せなかったようで、いつもと変わらぬ厳しいレッスンで終わり、共演の話は消えたようでした。

しかし、帰国した一年後くらいでしょうか、スキファーノ先生が来日し、とあるコンサートで、「スタバト・マーテル」の最後の2曲(inflammatus ~amen)を先生と一緒に歌えることになり、必死で練習しました。ただ、そのコンサートが予定されていたのは2011年3月11日。そうまさに東日本大震災の日でした。

その日はコンサートどころではない状況になり、出演者は全員会場に宿泊することになりました。こちらの詳しいお話は、また別の機会に書きたいと思います。

コンサートは延期になり、スキファーノ先生との共演は未だにお預けとなっています。ちなみに、「もう二度と日本には来ない」と言い残して帰国した先生も、その後2回ほど来日しており、なんだかんだ言いながらも、相当親日のようです(笑)。この先生の来日記もまた別の機会に。

いよいよ全曲通して歌うことに

話はそれましたが、2015年にいよいよこの曲を全曲歌う機会が来ました。東京ヴィヴァルディ合唱団の定期演奏会で、アルトパートは素晴らしいカウンターテノールの村松稔之さんでした。このコンサートの直前に、私は風邪をこじらせ、気管支炎のようになってしまい、しゃべり声も出なくなるほどの重症で、毎日病院に通うことになりました。

連日通院し、どうにか間に合った?というような病み上がりでしたが、コンサートに穴を開けることなく歌い切りました。おそらく男性2人でこの曲を全曲通したのは、海外でもほとんど例がありません。日本でも初めてではないかと思います。

ソプラノって大変なお仕事……と改めて痛感し、歌い終わりにはヘロヘロになりました。反省だらけではありましたが、全曲通せたということだけでも自信になり、一歩前進できたかなと思います。

初心に戻り、一から勉強し直して、いつかまた挑戦できたらいいなと、今も楽譜を近くに置いて、自分にプレッシャーをかけています!

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