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藝大の寮を出て10年住み続けた古風なお家

私は、約20年前に、熊本から上京してきました。それ以来暮らしたところは数か所ありますが、今回は大学を卒業後10年間住み続けた、ちょっと古風なお家の話です。

築50年以上?! 木造二階建ての一軒家


大学卒業と同時に大学の寮を出て、友人の紹介により、音出し可の一軒家に引っ越しました。東京の人気下町エリアにある木造の2階建。入居当時で築50年位は経っていたでしょうか。

お隣にお住いの大家さんもご近所の方もとてもよくしてくださり、10年近く住むことになりました。大家さんは今でも東京の母として慕っています。いつも、大家さんのお嬢様たちと一緒に、親しみを込めて「ママ!」と呼ばせて頂いていました。このお家に住まわせて頂いた期間のことを思い出すと、感謝で今でも涙が出そうになります。緊急事態宣言下ということもあり、母の日のご挨拶も遠慮しましたが、早く東京の母に会いたいです!

話は前後しますが、まず音楽家が物件を探すときにぶつかる壁が、「音出し可物件」の少なさと家賃の高さです。この木造のお家は防音設備などないのですが、大家さんとご近所のご理解を得て練習をさせて頂いていました。それどころか、大家さんのお嬢さんが音楽家で、大家さん宅の豪邸内にあるグランドピアノ設置の防音室を、空いている時にはいつでも自由に使って、とお家の鍵まで貸してくださっていました。お家賃も都心ではありえない安さ。駆け出し音楽家には本当にありがたいお家でした。ただし、ちょっといわく付き……

大家さんの話によると、以前この家には年配の男性が一人暮らしをされており、悪徳業者に騙され劣悪なリフォームをされるトラブルがあったとか。その後男性はご家族に引き取られ、お家は、大家さんが土地ごと購入することになったのだそうです。確かに、壁や天井におかしなリフォームされているような。あまり意味のないリフォームだったようで、その古さ故、今では笑い話ですが、珍事件がいろいろありました。

その①洗濯事件


引っ越しをして、洗濯機を搬入。はて、洗濯機を置いたはいいが、洗濯機用の排水口がない……。大家さんに聞いてみると、
「おじいさん(※)、お洗濯はされてたみたいよ」(木村注:件の男性)
とのこと。
では、どこに排水していたのか? 試案の結果、排水のホースを、洗濯の都度風呂場に流すやり方を試みました。何度か試してみると、どうやらこの方法が正しかったようで、問題は解決したかのように見えました。

しかし、人間慣れてきた頃が一番危ない。当然、入浴をするときはこのホースを風呂場から抜いて、洗濯時にまた風呂場にホースを伸ばす、という作業が必要になるのですが、あるときホースを風呂場に伸ばすことを忘れて洗濯してしまったのです。しかも、この家は全ての部屋が畳敷きの和室!洗濯機が設置されている脱衣所も畳なので、洗濯の排水が全て畳に放流され、気付いたら泡だらけになっていました。ため息をつきながら畳を上げ、しばらく乾かしました。そしてその後も懲りずに数回にわたり同じ事件を繰り返したのでした。おかげで畳を上げるのが上手になったかもしれません。

その②ご挨拶事件


私の住んだ家は、密集した住宅街にあり、表は小さな路地に面していました。引っ越しをしてすぐ、主に路地に面したお家には、歌の練習について承諾を得るためにも、ごあいさつ回りをしました。特に斜向かいのAさんのお家は、お嬢様が音楽をされているそうで、
「うちにもピアノがあるから、たまには弾きに来てくださいね」
と好意的に迎えてくださいました。皆さんの承諾を得て、さて、これで心置きなく歌の練習ができる! 当時は時間もありましたし、とにかくよく練習をしていました。

数日後Aさんから声を掛けられ、
「あなた、裏の家に挨拶しなかったでしょう? 歌声が聴こえてきてびっくりして、うちに聞きにいらっしゃいましたよ! 女の人の歌声が聴こえるって。説明しておきましたから(笑)」
と。

この手の逸話は山ほどあるのですが、各方面目のご挨拶は大事だな、と学びました。
つづく

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