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天上の音楽~内田光子さんのリサイタルを聴いて~

子どもの頃、音楽教室をやっていた母の影響で姉も私もピアノを習っていました。そして自宅には色々とピアノのCDがあり、その中には世界的なピアニスト内田光子さんのアルバムもありました。

最近日本人ピアニスト反田恭平さんが、ショパンコンクールで内田光子さん以来となる2位を受賞したことが大きな話題となりました。内田光子さんがショパンコンクールで2位を受賞されたのは50年以上前の1970年。今でも世界の第一線で活躍されているのは本当に素晴らしいことです。

内田光子さんのリサイタル情報を発見!

海外で生活されている内田光子さんのピアノリサイタルが、先日、東京のサントリーホールで3年ぶりに開催されました。

私は、舞台がきっかけで、近年日常の生活でもピアノのCD、特に内田光子さんを好んで聴いていました。そんな折、サントリーホールでの『千住明の世界~コラボレーション・コンサート2021』へ出演が決まり、同ホールのホームページを開いて見ていました。そこには偶然というべきか、必然というべきか内田光子さんの名前が! 彼女のリサイタルが、私が本番を終える一週間後の10月19日とその翌週10月25日と2日あるとの情報でした。

10月19日のプログラムはモーツァルトのピアノソナタ第15番ヘ長調K.533/K.494、ベートーヴェンのディアベッリのワルツによる33の変奏曲ハ長調作品120。10月25日はシューベルトの4つの即興曲D.935より、そしてベートーヴェンのディアベッリのワルツによる33の変奏曲ハ長調作品120。

私は内田光子さんのモーツァルトが大好きで、この機会を逃してはいけない! と妻を誘って19日のコンサートに行くことにしました。生で内田光子さんの演奏を聴くのはこれが初めてです。


天上の音楽を聴く

サントリーホールの入り口を通り座席に着くと、演奏会に出かけることもままならなかったこの1年半分の思いがあふれ、これから始まる生の演奏を聴けるという喜びに浸ってしまいました。

内田光子さんの演奏が始まると、会場を埋めた約2000人の観客が一人のピアニストが奏でる一台のピアノの音色に耳を澄まし、ホール全体が天上の音楽に満たされていきました。以前、内田光子さんのインタビュー映像を拝見したとき、大変知的で、ご自分の哲学を持ち、楽曲の分析はもちろん、一つひとつの曲に真摯に取り組む姿勢に、同じ音楽家としてとても尊敬の念を抱いたのですが、その彼女がまさに今奏でている音楽は、不思議とそんな思いも忘れ、ただただ五感で感じていたい、と思わせてくれるようなものでした。

実際、私はこの天上の音楽が鳴り響く2時間のあいだ、あまり頭で小難しいことを考えることもなく、美味しい食事をしたときに、ただ純粋に体が喜んで栄養素を吸収するかのような感覚になっていたのかもしれません。なので、ここではリサイタルの内容について事細かに評論するようなことは私にはできません。

帰り道、妻がやけに無口で、具合が悪いのかと私は心配していました。もう家に着くというころ、ようやく口を開いた妻が、

「あまりにも素晴らしい音楽、芸術に触れると、表現する言葉が思いつかない」
と。
画家である妻にとっても大きな、それもあまりにも上等な衝撃だったようで、私と同じく、言葉で分析し合うものではない、と感じたようです。

あのような体験、次はいつできるでしょうか。

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