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香港電影鑑賞記:『九龍城寨之圍城 Twilight of the Warriors: Walled In』(2024)

基本的に動作片は絶対に観る。しかもこれは Soi Cheng 鄭保瑞執導、谷垣健治武術指導、John Ching 莊澄/Wilson Yip 葉偉信監製ときたら観ないわけがない。

当然ながら実にクオリティの高いアクションを観せてくれている。さすが谷垣さん。なんだけれど私、アクションの現場に入り過ぎているせいか、いちいち「あ、このアクション、ここで切ってCG入れてるのかな」「あ、この武師、誰それかな」「この紙巾という技はどこでカットして繋いでるのかな」などと変な風に気が散ってしまって、そういう細かい所に集中しすぎて全体が見えなくなってしまう。

それと、ああ、このカットもう少しフレーム数増やしてもうちょっとだけ長く見せてほしいな、とかあったのはもう私の動体視力が低下しているせいなのか。やはりアクション映画は何度か観ないとダメね。

しかし、俳優陣が凄いキャスティングなので順にちょっとずつ感想を書いてみよう。

「大哥大」Sammo Hung 洪金寶。言うこと無し。既にだいぶ体重絞ってから演じているけれど、身体中あちこち大変なはず。もちろんどこで替身使ってるかわかってるけれど、それでもよくぞここまで動きました。

Louis Koo 古天樂はアクション得意じゃないので期待していなかったのだけれど、これは谷垣さんが上手い。下手にボロ出ない動きをさせてカッコ良く決められるよう作っている。ちょっと漫画チックなアングルが巧妙。

特別出演の Aaron Kwok 郭富城。アクション自体は綺麗に纏めてくるからいいんだけど、先だって観た『臨時劫案 Rob N Roll』(2024) のキャラが強烈過ぎて、本作のキャラはサラッとし過ぎた感じ。これは《臨時劫案》が悪い。いや、悪くないんだけど、あれは凄過ぎた。面白過ぎた。

Kenny Wong 黃德斌はいつもキャラ立てが良い感じに薄いのよね。《潛行 I Did It My Way》(2023) の Philip Keung 姜皓文みたいに声枯らしてきちんとしたキャラを立てているけれど、それが他の人のキャラを邪魔しない薄さなのが良い。実は先だって中環站と香港站の間の長い通路を歩いている時に見かけたのよ。ところが私は自動人行道に乗ってて、黃德斌は反対方向に向かって通路を歩いていたので、自動人行道から降りられない私は見送るだけになってしまったのよね。残念だったわ。

Richie Jen 任賢齊もアクションやらせたら案外きっちりキメてくれるから、観ていて安心。怖い顔の迫力が良いのでアクションやら怒りのシーンは高得点。

そしてやっとこさの Raymond Lam 林峯。主役なのに、ごめん、全く知らなかった。これまで私が観てきた作品に出ていないので、ホンマにこの人の事知らんかった。全くの先入観無しで観たから、いや観たせいでか、最初から最後まで《追捕 Man Hunt》(2018) の張涵予にしか見えんかった。すまん。いや、張涵予より全然アクションできてまっせ。でも、すまん、最後まで張涵予と区別つかんかった。ごめん。

張涵予、じゃなくて洛軍の林峯と無二の親友になる Terrence Lau 劉俊謙。もとから完全に優男。今回は時間をかけてアクションの訓練をしたそうで、時々ちょっと緩いアクションもまだあるけれど、それでもそれなりに良い感じに仕上がっている。それにしても「信一」という名前が日本人にまあある名前なので「九龍城寨やのにシンイチって・・・」と字幕にこの字面が上がるたびに引っかかって仕方なかった。まぁこれは劉俊謙のせいではないので仕方なし。芝居は断然良かったよ。これからはアクションもっと頑張ったら役者としての幅も広がって良いと思うよ。

もう一人の相棒、Tony Wu 胡子彤はキャラがぴったりで良かった。《遺愛 Elisa's Day》(2021) とか芝居は良いんだが、見た目的にキャラとしてちょっとしんどかったので、今回はぴったりで良かった。

そしてもう一人の仲間、四仔。実は《誤判》の現場で「あ、この人めっちゃ好み~」と目がハートになっていた私。皆が German としか呼ばないので、今回初めて中文名が張文傑だと知った。このキャラもまたピッタリで良き。ただ、顔が私の好みなので、ほとんどずっと『変態仮面』みたいだったのが残念過ぎた。

そして何よりもうれしかったのがこの Philip Ng 伍允龍でございますよ。《惡戰 Once Upon A Time In Shanghai》(2014) で初めて観た時に「こいつは凄い!本物!」と思ってファンになったのよ。相手はあの Andy On 安志傑だよ。二人で実際に当てて闘ってるんだよ(これは監督が実際に当てろって言ったからだけど)。物凄く仲良しの二人が手加減せずに闘うってなかなか大変なことよ。だからこそあのクオリティのアクション・シーンが出来上がったわけだけれども。

Philip は本物よ。お父様がシカゴで伍家國術會という道場を開いている武術家、小さい頃からお父様に武術を習い、16歳で香港に戻り、龍哥の師兄である黃淳樑師傅に弟子入りしている。最近になって李小龍會の昔のイベントの写真を観たら、90年代の時のイベントに Wong Shun-Leung黃淳樑師傅に引っ付いて来てたのを見つけてびっくりしている。

《惡戰》で「凄い奴出て来たよ!」と思ったのに、そこからなかなか芽が出ず。《龍之誕生 Birth of The Dragon》(2016) も題材に反感持つ人がいたり、版権だかなんだかでケチがついたりしてイマイチ宣伝や上映が上手くいかなかったりだった。実は私はまだ観られていないのだけれど、ずっと観たいとは思っている。長い間、様々な作品にチョイ役でアクション少な目の出演はあったのだけれど、鳴かず飛ばずがずっと続いてきたのよ。

それが!本作では!やっとこさ!本領発揮よ!いやー、感慨深い。しかも戲份重(=出番が多い)!ポスターにしっかり載ってはいるものの、これまで戲份少な役ばかりだったから、今回もそこまで期待していなかっただけに!あんなに長いアクション・シーンもらってると思っていなかっただけに!アクションやりながら、いつやられるんだ?いつ死ぬんだ?もうすぐ出番終わりじゃ?ってずっとハラハラしてたのよ。ところが。「佢用硬氣功!」ということで不死身の設定なのよ。剣で攻撃しても斬れないし刺さらない。ここまで不死身だったらアクション終わらなくて映画終わらないんじゃ?と今度は逆方向の心配をしてしまったわよ。まあ落としどころはここだよね、って感じで終わったわけだけれども。

この作品、入場者にはポスト・カードをくれることになっていて、最初に渡されたのが「シンイチ」だったので「ポスト・カード、選べないんですか?」って言っちゃった。いや、シンイチというか劉俊謙大好きだよ。だけどポスターの柄だと思っていたのでちょっと意外過ぎて。そしたらスタッフが一掴みのポスト・カードを裏返してどさっと私の目の前に突き出して「揀一張!=一枚選んで!」と言う。え?裏返し?つまり図柄見て選べないってこと?って思ったのだけれど、いつになく物凄い数の人がチケット購入に並んでいたので、更に交渉して図柄を選ばせてもらうのは申し訳ないからと、一枚引いた。そしたら!なんと!私のPhilip じゃないのさ!ポスターか大哥大がいいなと思っていたのだけれど、Philip 出ちゃったらしょうがない。私には Philip しかないってことじゃん!ということで貰ったのがこのポスト・カード。

この作品は絶対に日本公開するはずなのでネタバレしちゃいかんと思い、中身にはほとんど触れません。でも観る機会があったら絶対に観て欲しい。

脚本も良く練られているし、アクションは言わずもがな。ただ、ちょっと気になったのは果欄のシーンのカラーリングがちょっと明るすぎる気がした。それとセットの小物が時々新しくて綺麗すぎるものがあったこと。それでも鄭保瑞らしい作品に仕上がっていてよろし。

高先電影院にて鑑賞。★★★★

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