あなたの決まった銘柄になりたい

その人はいつも毎回違う銘柄のタバコを吸っていた。

キャスター、パーラメント、マルボロ、ラーク。

数えきれないほど違う。

「飽き性なんだよねぇ」

その人は自分の事をよく分かっているようだ。

毎回色んなタバコを味見してみるが、結局最終的にはメビウスに戻るらしい。

(そんなんだったら味見なんてやめて1つをずっとすい続ければ良いのに)

私はそう思った。

彼とのキスはいつも違う味がする。

苦い、甘い、酸っぱい、色んな味を経験した。

でもたまに幸せな味を感じる時がある。

彼がメビウスを吸った後のキスは、なぜか幸せを感じる。

いつも通りのセックスをする。

優しく、少しSな彼とのセックスは最高に気持ちが良い。

私は知らぬ間に彼に惹かれていた。

馬鹿だなぁと思う。

こんな浮気性な男なんて、なんで好きになったんだろうといつも考える。

そしていつも死にたくなる。

この人は決して私を愛してはくれない。

愛してはいけない人ではない。

きっと私はあなたのタバコの銘柄のように、

味見するだけの存在なのだろう。

(あなたの決まった銘柄になりたい)

こんな馬鹿馬鹿しい事、絶対に彼には言えない。

言えないのではなく、言ってはいけない。

一時の快楽が私の心を穏やかにするが、

その後は苦しくて苦しくて死にたくなる。

馬鹿だなぁと思う。

きっとこの人は愛してくれる人を見つけるのではなく、

自ら愛する人を探す人なんだろうと思う。

彼に溺れて助けを求めても誰も助けてはくれない。

こんな世界、壊れてしまえば良いと思う。

(ねぇ、私はまだあなたの決まった銘柄になれないかな？)

なれないよね。だってきっと、あなたは何も言わずに待ってくれる人を愛すると思うもん。

「あなたの決まった銘柄になりたい」