(連続小説)騒音の神様 その5 盛山は朝から一喧嘩
いつものように朝が来た。盛山は朝早く起きて仕事の集合場所へ自転車で向かう。集合場所へ着くと、四、五人が立ち話をしている。そのうちの一人が盛山に向かって「おーい、モリヤマ。今日お前、運転頼むわ」と言った。盛山は「わかりました。現場どこですか」と仕事について一通り話しをする。それから盛山はトラックに乗り込み、他の人員が乗り込んだことを確認すると出発した。
まだ舗装していないでこぼこ道を走る。荷台に乗っている者も含め、みんなが振動にお尻を跳ね上げながら進む。アスファルトの道になると地持ちが良く、盛山のアクセルを踏む足が喜ぶ。力強くミッションのレバーをガコンガコンと入れ替えながら何のトラブルも起きずに現場についた。わりと大きな駐車場で、盛山は車を停めるところを探しながら大きなハンドルを回す。盛山がトラックを停めようと思った場所に来ると、別の乗用車がクラクションをプーーっと鳴らしながら猛スピードで突っ込んで来た。盛山が急ブレーキを踏まないとぶつかる距離だ。いわゆる割り込みで、乗用車は盛山のトラックの前をすり抜けるように車を停めようとする。盛山は少しだけブレーキを踏んだ。相手の車にぶつかることは分かっていた。「ガシャン」
トラックと乗用車が軽くぶつかった。乗用車から、作業員風の男達が降りてくる。「おい、何ぶつけとんじゃ。」「殺す気か、弁償せえよ」とわめいている。盛山はトラックから降りて、目の前でわめく男にヒジ討ちをくらわした。ガツっ。別の男が「おいコラ何しとんじゃぶっ殺すぞ」とわめくがヒジ討ちをガツっ、もう一発ガツっ。あっと言う間に二人が地面に転がった。別の作業員が、車から降りて来ようとする。乗用車の後部座席から出てこようとするところを、盛山がドアをドンと蹴ると男はドアに挟まれ「フガッ」とへんな声を上げた。車内から降りそびれた一人の男に盛山は「おい、はよ車どかせ。」と言った。盛山はトラックに乗っていた男たちがトラックから降りながら「はよどかさんと、車ペシャンコにしてまうど。人間もペシャンコになってまうど。」「相手みて喧嘩売らんかい。現場で一番強いやつに喧嘩うるなドアホ」口々に怒鳴りながらトラックからみんな降りたところで盛山は停めたかった場所にトラックをあらためて停めた。よくある現場のトラブルで、とくに騒ぎにならずに仕事は開始された。工事現場はどこも、元気と力が溢れ返っていた。喧嘩のような揉め事は頻繁にあった。誰もが遠慮している場合ではなかった。
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