【連続小説】騒音の神様 80 神様セミと話す

毎日が暑い夏のある日、神様は真っ昼間に散歩をしていた。「暑いなあ、暑いなあ。暑いのは大好きや。」そう言いながら歩く。お母さんが小さな子供をだっこしながら、子供の顔の汗を拭いている。「かわいいなあ、美しいなあ。昔もこれからも、きっと変わらんなあ。」神様はなおも歩く。セミの鳴き声が集中的に集まっていそうな、木々の間を歩く。「元気やなあ、セミは。昔からずっと元気やなあ。わしらは、何百回もこうやって夏を過ごしてきたんや、きっと。セミはワシのこと、覚えてへんかなあ。」神様はセミに話しかけるように木々を眺めながら歩く。時折セミが木から飛び出して、青空の下、羽をバタつかせどこかに行く。「忙しいやろなあ、セミ。恋するのは今だけやもんなあ。今しかないもんなあ、セミの恋の時間は。」そう言ってから足を止めてふと考える。「わしも、恋してたのかなあ。大昔に、誰かのことばかり考えたりしてたんかなあ。覚えてへんけど。毎年、この時期にわしはおんなじ事考えてる気がするなあ、セミさんよ。君たちの元気な夏の音、恋する音を聴いてたらわしも考えるんや、セミさんよ。ワシも恋してたんかなあ。誰か教えてくれへんやろか。人間はしらんでも、セミ達、教えてくれへんやろか。」セミは相変わらず元気にジージーだとかミンミンだとかシャーシャーと奏でながら、神様にはわかるらしい恋の雰囲気を撒き散らしていた。

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夏の思い出

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