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ウタとは何だったのか

ワンピースの映画「ONE PIECE FILM RED」を見てきました。その作品に登場するメインキャラクターのウタ。私は、このキャラクターが好きになりきれませんでした。それは何故なのか。自分の感情を整理するためにも、今回はウタというキャラクターについて考えていきたいと思います。

ここから先は、作品のネタバレを含むため、映画を鑑賞した方以外は見ないことをおすすめします。また、映画を鑑賞した人に向けて書いていますので、説明がおおいに欠ける部分が出てきますがご了承ください。


 
私の中でウタとはどんな印象のキャラクターだったのか、それを簡潔に述べると「精神的なダメージを受けた際に生まれる自己防衛の為の人格が前面に出ている人」です。

ウタは過去に育ての親であるシャンクスとの壮絶な別れを経験し、精神に大きなダメージを受けます。しばらくは、住民がウタとゴードンの二人だけの島で心を閉ざした様に生活するのですが、電伝虫を偶然手に入れたことで、自分の歌を世界中に配信できる様になり、外の世界とのつながりが生まれます。そこで初めて、海賊をきっかけに生まれている世界の凄惨な現状を知り、ウタは衝撃を受けると同時に、自分を島に置いていったシャンクスへの恨みが増大していきます。次第にウタは、配信の視聴者から救世主ともてはやされ、ウタ自身もその気になってきます。そして、ウタは自分の能力を使い、間違った形で世界の救済を行おうとするのです。それが映画の舞台となる、ウタのライブです。

映画のあらすじは皆さんご存じかと思いますので、ウタがライブを開催するまでの経緯はこの辺にして、ここからは私が何故ウタを好きになりきれないのか、その原因について書いていきます。

ウタのライブには世界中から人が集まり、その中には麦わら海賊団もいました。ライブの中盤でルフィは帰ろうとするのですが、それをウタは引き止めます。それでも、帰ろうとするルフィに対しウタは怒りだし、ついにはルフィの仲間に手を出します。ウタがルフィたちを引き止める理由は、「帰るよりも自分のライブにいた方が幸せでしょ」という価値観の押し付けです。

その後も自分の行動が否定されると、海賊だから悪いとカテゴリーごと避難して自分を正当化、帰ろうとする客を無理やり引き止めもっと楽しければいいんでしょと提案する論点のすり替え、いくら非難されようとみんなの為にやっているという責任転嫁など、現代人及びネット民の嫌なところをかき集めたようなキャラクターに仕上がっています。

ウタが過激派ネット民みたいな性格になってしまっている理由の一つとして、ネズキノコという、食べると眠れなくなり、攻撃性や凶暴性が増し、やがて死に至る、違法薬物の様なキノコを大量に食べてしまったという背景があります。ネズキノコの攻撃性や凶暴性が増すという特性は、映画のだいぶ後半でさらっと説明されるので、作中では基本的に性格に難がある人として描かれています。違法薬物ダメ絶対。

価値観の押し付け、自分を正当化、論点のすり替え、責任転嫁、このどれもが精神的なダメージを受けない為の自己防衛から発生する行動です。ウタは過去に受けた精神的なダメージが癒えないまま成長し、救世主として祭り上げられ、プレッシャーと責任感で思想が歪んでしまったのです。精神を癒す方法を知らないので、これ以上傷つかない様に自分を守るしかない。故に自己防衛の為の人格が前面に出てしまっている。

ウタの歪んだ人格が形成される背景を考えると、他人事とは思えません。多かれ少なかれ、誰しもがウタと共通する部分があると思います。ウタは正義感が強く、自己犠牲の精神も持ち合わせており、周囲の期待を裏切れない、根は優しい人間です。そんな人であれ、人を傷つけ、迷惑をかけてしまう。ウタというキャラクターを通して、現代人の正義感の暴走をこの作品で描いているように思えました。

ウタは作中で「UTA(ユーティーアー)」と観客から呼ばれていましたが、ユティアとはミンク族の言葉で「あなた」という意味があります。これは、「ウタとは、映画を見ているあなたです」というメッセージだと感じました。私がウタを好きになりきれない理由は、自分の嫌な部分と通ずるものを感じてしまい、そんな自分と向き合いたくなかったからなのかもしれません。

ウタは映画の終盤でシャンクスと再会し、正気を取り戻します。精神的なダメージの原因と向き合うことで、長く傷ついていた精神が癒されたのです。自分を癒すことと、自分を守ることは、似ている様で違います。自分を守ろうとする行動は、誰かを傷つけてしまう可能性があることを自覚しなければいけません。心の傷を癒すことは簡単ではありませんが、原因から目を背けないようにしたいと思いました。

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