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生牡蠣のような感受性

この言葉は茨木のりこさんの言葉だが、
これをみた時僕の心は深く共鳴した。

たったワンフレーズで。

生牡蠣のような感受性。

幼少期、感受性が強く、とても苦労してた僕は、その感受性を受け入れられなくて、感じないように蓋をして、そうでない自分でいようとした。


友達の感情を自分のもののように感じてしまう自分、友人との別れで泣く自分、絵本で泣く自分、クリスマスのタペストリーをみて感傷的になる自分。とにかくその頃の自分には感情が大きくなることが耐えきれずにとても苦しかった。

そのようなこともあって
戦隊モノや、ヒーローに憧れていた僕は
強い感受性が自分にとって、不必要なもの、恥ずべきものだと思っていた。

なので、
ことあるごとに胸が熱くなり感情が踊り狂う自分を捨て去り、どんなことがあっても動じない、鋼の心をもった男であろうとしていた。

実際の自分の感じている感覚に嘘をつき、
感じてないふりをして、思ってもないことを言葉で伝える
そんなことを長いことしていた。必死に自分を取り繕っていた。

ふりをするために必死に思考で自分を見張っていたから感覚よりも思考が強くなっていた。


生牡蠣のような感受性を見破られるのが怖く、常にそうみられないためにありとあらゆる手で覆い隠した。

そうしていくうちに、自分が何を感じているのか、何をしたいのかが全くわからなくなった。

そういう状態から、感動のない無味無臭の日々になっていき、そんな日々から逃れるために強い刺激を欲するようになっていった。

生きている感じがわからなかったから。感覚はすべて閉じてしまったような感じがしていた。

異性関係、友人関係、お金、仕事、生活
ありとあらゆる自分を取り巻く環境を常に刺激で満たさないといてもたってもいられなくなった。

強い刺激は、固まった感受性を取り戻すのに手助けしてくれるように感じていたが、ほんのひと時のまやかしだった。
刺激はすぐに慣れ、更なる刺激を求めるようになり、どんどん強い刺激を求めるために無理が生じいろんなものが破綻していった。

体を壊し、心を壊し、異性関係人間関係を壊し、お金を失い、生活が一変、それまでの僕を取り囲むもの全てが破壊された。

全てがなくなったあと、
自分のことを深く振り返る機会を与えられた。
そうならないと決してそうならなかったから、全てを無くすことはある意味必要な経験だなと思う。

埋めても埋めても埋まらない内側の空虚感の為に、外側のなにかを追い求め埋め合わせをしても、それは藁を掴むようなもので、苦しさだということ。

幼少期に、目を背ける、みないようにしていた自分の感受性を開いていかないと決して満たされることがないこと。違う自分になろうとすることが、苦しみの原因だということ。

生牡蠣のような感受性を大切に、大事にしていくことが今後生きていくために必要なことだと気づいた。

気づいてから、強い刺激が必要でなくなった。
些細なことで感情が動くようになったからだ。
まだまだ完全ではないが
ありのままの自分を徐々に認められるようになったことで、大きく見せる必要がなくなりとても気楽になった。

呼吸が楽になっていった。

元の自分に心を開いていっているこの過程が一番幸せな過程だとなとつくづく思う。

何者かになろうとしない、自分でいることが何より大切なことだと。

繊細さは生きていく上で、時に大変だと感じることもあるけど自分のリズムで、その時々の歩幅で
あるいてゆけばいい。そしてそれは、大きな武器になるから。



生牡蠣のような感受性。
自分の感性は自分で守っていこう。
そして、そんな自分でありがとう。

最後に茨木のりこさんの
文献をのっけておきます。

「大人になるというのは/すれっからしになることだと/思い込んでいた少女の頃/立居振舞の美しい/発音の正確な/素敵な女のひとと会いました/そのひとは私の背のびを見すかしたように/なにげない話に言いました

初々しさが大切なの/人に対しても世の中に対しても/人を人とも思わなくなったとき/堕落が始るのね 堕ちてゆくのを/隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし/そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな/ぎこちない挨拶 醜く赤くなる/失語症 なめらかでないしぐさ/子供の悪態にさえ傷ついてしまう/頼りない生牡蠣のような感受性/それらを鍛える必要は少しもなかったのだな/年老いても咲きたての薔薇 柔らかく/外にむかってひらかれるのこそ難しい/あらゆる仕事/すべてのいい仕事の核には/震える弱いアンテナが隠されている きっと……/わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました/たちかえり/今もときどきその意味を/ひっそり汲むことがあるのです」
(『茨木のり子詩集』(思潮社)より)



ではでは〜






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