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ラブホテル前の1時間半

猛暑の中。
2人はラブホテルの前の車の中にいた。

いつも逢瀬を重ねている相手の自宅にはエアコンがない。
灼熱地獄。
だから今夏は会うならホテル一択だ。

ホテルの看板は満室の赤表示。
みな、同じことを考えるのだろう。

既にロビーには先客がいて、自分たちの待ち順は二番手。
受付の人は「サービスタイム18時までなので何時に空くかわかりません」というが、
「家は暑いしね」
車の中は涼しいのでテレビを見ながら1時間ほど待つことに決めた2人。そんなにsexしたいのかと思われそうだが、家が暑いからだ。どこも暑くて行きたくないからだ。

一台の車がやってきた。
駐車スペースに停めると丁寧にフロントガラスに日よけを設置。
大荷物を抱えた中年カップルが入っていく。食べ物や飲み物だろうか。
「満室だよ」と相手が揶揄したが、その後、出てくることなく時は過ぎる。
スマホでホテルを検索して調べてみると「予約」ができるらしい。初めて知った。予約できるよ、まじか、と相手と話した。

私たちも、さっきドライブスルーしたハンバーグを車の中で食べる。でもマックのポテトが一番おいしいよねと話する。モスはモソモソする。

次にやってきたワンボックスカーは、満室の表示を見て諦めたよう。
すぐにバックで出て行った。運転席には男性。助手席には誰もいない。
後部座席は真っ黒なフルスモークガラス。何となく関係性を邪推してしまう。

次に自転車の若い女性が一人やってきた。けだるそうに。
バイトさんだね、そうだね。
更に数分すると、ホテルの奥のスペースから車が出てきて走り去った。
中年の女性だ。
続けて2台。勤務交代の時間なのだろう。
ここで働く人たちは、どういう理由で職を選んだんだろうか…。
相手と、小説「ホテルローヤル」の話をした。映画の波瑠さんがとても良かった。スマホで検索しながらストーリを思い浮かべる。

次にやって来たのは古い軽自動車。
降りてきたのは、白髪のおじさんと短髪で服装からもおばさんとわかる2人。60~70代くらいか。
相手が「元気だなーおじいちゃん」と言う。
一度はホテルの中に入ったが受付で満室を告げられたのだろう、すぐに出てきて帰っていった。
夫婦なのかな?まさかね。

田舎町はずれで、車じゃないと来れないホテルだから、パパ活などでは使われないだろう。おじさんおばさんの来るところなのかも。

小一時間して、一台のタクシーがやってきた。乗客はいない。
やがて誰かを乗せて帰っていった。空き室ができたのか。

受付のお姉さんが走ってきた。
「あ、呼びに来た?」
と思ったら「空いてはいないんですけど、ロビーが空いたので中でお待ちしますか?」と声をかけに来てくれたのだった。
さっき帰ったのは一番手のカップルだったらしい。
「このまま車の中で待ちます」

相手が予言のように「そろそろお腹が減って出てくる頃だ」と言う。
ホント? 多分ね。

損切の話を思い出す。テレビをボーっと見ながら考える。
ここから何分待つか。何分経ったら諦めるのか。
先に待っていたカップルは諦めてどこへ行ったのか。
特に、時間が惜しいわけでもないが、空くかどうかわからない部屋を待ち続けるメリットは何か…。諦めるタイミングはいつか。

10分ほどして隣の車のエンジンがかかった。
誰か出てくるらしい。
相手が「ほらね」と得意げに笑う。ホントだね。ホッとした。

車が走り去って更に待った。
この時間は「部屋の掃除をしている」と思われる時間だから待つのは苦にならない。「15分くらいだな」と相手が更にポイントを上げようとして宣言する。
予想通り、15分経ってさっきとは違う従業員が呼びに来てくれた。

することはするけど、涼しい部屋でお昼寝タイムが一番贅沢な時間、今年の夏は。

ところで、逆に、
1時間半もラブホテルの前で待つカップルを誰かが見ていたらどう思うのだろうか。
アラカンカップル、元気だねーいつまでsexするの?と笑われそう。

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