2023年9月25日広島市議会一般質問(『はだしのゲン』の取り扱いに関するやり取りメモ)

昨日、9月25日の広島市議会一般質問では、今年、平和学習用の教材「ひろしま平和ノート」から『はだしのゲン』が削除されたことが話題となりましたが、『はだしのゲン』の教育現場での取り扱いに関して、議員から質問があり、市教育長による答弁もあったので、記録しておきます。

(なお、議員側から、『はだしのゲン』の中の暴力シーンなどが長い時間をかけて列挙されていますが、記録としてそれも残します。)

山路英男議員(東区/市民クラブ):
まずは、『はだしのゲン』についていくつかお尋ねいたします。
広島市教育委員会では、『はだしのゲン』の漫画の一部を平成25年度からひろしま平和ノートという形で平和教育に使ってこられました。しかし、令和5年2月8日の教育委員会議において、『はだしのゲン』を引用していた3年生の教材を含めたひろしま平和ノートの内容を改定することを報告した後、ひろしま平和ノートから『はだしのゲン』削除と報道され、全国で大きな議論を巻き起こしました。

しかし、今度は『はだしのゲン』をはじめ、平和に関する図書24冊を紹介する資料を全市立学校に配布したとの報道があり、再度この『はだしのゲン』についての賛否の意見が湧き上がりました。市教委の対応を巡るこの、このたびの議論に対して賛否どちらの態度であれ立場であれ、現在議論に参加している方々はもちろん10巻全てを読まれていることと思いますが、様々な意見を聞くにつれ、皆さんが本当に全巻読んだ上で、自分たちの考えを述べられているのか甚だ疑問に感じました。

といいますのも、『はだしのゲン』は、私が小学生のときから図書室に置いてありましたので、読んだ記憶がありますがほとんどその記憶は残っていません。もしかしたら10巻まで発刊されていなかったかもしれません、そこで今回『はだしのゲン』という漫画を理解するために、全巻購入し、読んでみました。

私が全巻読んだ感想としては、著者の中沢啓治さんが体験されたことを中心にストーリーが構成されており、特に被爆の実相については、原爆は本当に駄目なことであり、戦争してはいけないと強く印象付けられました。

また話の中で様々な困難にもゲンは立ち向かい、問題を解決したりゲンが光子さんという女性を好きになりますが、その光子さんも原爆症で亡くなるなど、この時代を生きてこられた方の壮絶な体験をこの漫画を通じ私も感じることができました。

その一方で、文字が多かったり、昔の歌の替え歌があったりして、本当に小学生が読んで理解できるのか疑問に感じました。またあらゆるところで暴力的なシーン殺人、レイプ、窃盗など私が親なら子供たちには見せたくないシーンもかなりありました。それがどんなシーンなのかここは丁寧に説明します。

1巻では、ゲンが同級生の指を噛み切る。ゲンと弟の進次が町内会長の指を噛み切る。ゲンの母が町内会長に包丁で切りかかる。小学校の教師が、ゲンの姉にお金を盗んだという疑いをかけ、裸にする。ゲンの父親がゲンの同級生や教師に暴行を加える。ゲンの父親が長男の浩二に暴行を加える。特高警察が浩二に暴行を加える。ゲンとゲンの父親が町内会長に暴行を加える。疎開先でゲンの兄の昭が教師から暴行を受ける。疎開先で昭たちが地元の子供たちから暴行を受ける。昭が父親から平手打ちを食らう。ゲン達家族が警官から暴行を受ける。ゲンが弟の進次とともに学校を休んで、街頭で浪曲の真似事をして小銭を稼ぐ。ゲンと進次が近所の庭に忍び込み、池の鯉を盗む。ばれてその家の方から暴行を受ける。予科練で訓練を受けるゲンの兄の浩二の同僚が上官にしごかれ自殺する。ゲンが近所の人に暴行される。ゲンが父親から暴行を受け吊るされる。

2巻では、ゲンが公衆の面前で切腹するからこれを米を持って来いと言って米をだまし取る。ゲンが子供たちの集団に暴行を受けて気絶する。間借り先の兄弟からゲンがいじめを受け、それに耐え切れず、兄弟に暴行を加える。

3巻ではゲンが噛み付いた野犬に対して虐待する。コソ泥したゲンの弟分隆太を子供数名が木刀や鎌で暴行する。間借り先の祖母からゲン一家は執拗ないじめを受ける。ゲンの母が平手打ちをされる。ゲンが包丁を振り回す。原爆症の政二が棒を持って暴れ回る。亡くなった政二の家族に対して、ゲンがほうきで暴行を加える。隆太が放尿する。同情を誘い食料をだまし取るために、兄が妹に暴行を加える。ゲンは妹に岩で頭を殴られる。

4巻では、間借り先の祖母からゲン一家は執拗ないじめを受ける。それに対してゲンは間借り先の兄弟に馬のフンを食わせ暴行する。復員兵が野犬を殺し、食べる。ゲンと隆太が進駐軍の倉庫で盗みを働く。ゲンがヤクザに暴行を受ける。隆太がヤクザ2人に発砲し殺す。ゲンの同級生の道子の姉が米兵にレイプされる。その後、売春婦となり米兵と付き合う。

5巻ではゲンの弟分の隆太が喫煙する。隆太の仲間のドングリがヤクザに発砲し、殺す。ヤクザがゲンや仲間に対して暴行を加える。それに対して隆太が発砲する。ゲンが飲酒する。酔っ払って倒れる。ゲンが医者に対して自らの分を顔に押し付け、さらには放尿する。子供が原爆死没者の頭蓋骨を集め米兵に売る。

6巻では、朝鮮人が汽車に窓から乗り込み、お前ら戦争に負けた6等国の日本人が生意気に座るとは何事だ、はよどけ、どかんかと叩きのめすぞと言って座席を占領する。隆太が拳銃を持って、賭場強盗をする。ヤクザに発砲する。大金を盗む。戦後期の売春婦の姿。ゲンがヤクザに暴行、逆に暴行される。隆太がヤクザに発砲する。ゲンが仲間とともに造船所から銅を盗む。

7巻では、子供が大人に対して包丁を振り回す。隆太が犬を射殺する。ゲンと仲間が進駐軍に暴行を受け、拘束される。ゲンが仲間とともに米軍のジープ・トラック複数台のガソリンタンクに砂糖を入れてエンジンを故障させる。ゲンが隆太とともに留守宅の便所から黙って人糞をくみ取り盗む。

8巻ではゲンと同級生が互いにナイフを持ち決闘する。ゲンの同級生が右翼に対して投石し、倒していく。それに対して右翼が同級生の頭部を木刀で打ちのめす。ゲンと隆太は右翼の股間に頭突きをしたり、足蹴にしたりする。ゲンが飲酒する。中学校の校長がゲンに暴力を振る。ゲンが隆太とともに大人と乱闘する腹いせに、相手の車を破壊する。

9巻では、平和都市建設の土地収用法に基づき、ゲンたちの家が強制撤去される際、それに抵抗するためゲンと隆太は糞尿をまき散らす透析するドラム缶を落とす。放尿する。くみ取り柄杓で暴行するなどする。占い師が角材でゲンたちに暴行する。逆にゲンは占い師に暴行し、拘束する。ゲンがABCC職員に対して暴行する。ゲンが隆太たちとともにABCCの建物に放尿する。大人たちがゲンたちに対して投石する。ゲンが看板屋の職人と乱闘する。看板屋の社長が職人に対して執拗に暴力を振るう。足蹴にする。坊主が原爆孤児を集め私腹を肥やす、原爆孤児を拷問する。

10巻では、日本軍は中国朝鮮アジアの各国で約3000万人以上の人を残虐に殺してきとるんじゃ。首を面白半分に切り落としたり、銃剣術の的にしたり、妊婦の腹を切り裂いて、中の赤ん坊を引っ張り出したり、女性の性器の中に一升瓶がどれだけ入るか、叩き込んで骨盤を砕いて殺している描写。中学生が卒業式の日に校長をはじめ教師に対して暴行する。さらにゲンと乱闘する。隆太の仲間のムスビが薬物中毒になったあげく死亡する。それに対して隆太は復讐すべくヤクザ相手に発砲し、複数名殺害する。その後、逃亡する。ゲンが好きな光子がヤクザの顔に焼けたお好み焼きをぶちまける。

このように各巻にわたり暴力的なシーン、窃盗シーン、殺人などのシーン、残虐なシーンが見受けられました。

例えば、映画にはR指定というものがあります。映倫が市民一般に向けた映画の観覧に際し必要な情報を事前に提供して、年少者の成長段階に対応した映画の観覧を図るための基準を策定しています。

PG12とは12歳未満の年少者の観覧には、親または保護者の助言指導が必要と規定されており、その基準とは、性、暴力、残酷、麻薬などの描写や未成年役の飲酒、タバコ、自動車運転、ホラー映画など、小学生が真似をする恐れの高い映画が、この区分の対象になるとの記載がありました。

アニメ映画に関しても同様であるとの記載がされています。R15+においては、PG12より刺激が強いものに加え、いじめ描写や暴力も審査の対象になる。また放送禁止用語を使用した作品や、暴力団もの、偽造犯罪を題材にした作品も対象となり、15歳未満は観覧禁止。
まさに『はだしのゲン』の中の描写には、映画でいうR指定やPG指定の内容が多くあり、本当にこの漫画を児童生徒が自由に見ても良いなど良いのだろうかと疑問を感じました。また、よく聞く話ですが、昔『はだしのゲン』を読んだけど、その内容がグロテスクで気分が悪くなって読めなかったという話も聞きますが、まさにそれも納得できます。その他にも、時代考証の誤り、事実誤認もあり、歴史的にも不確定なこと、これからも検証が求められることについて、事実であるかのように描かれていたり、原爆投下を容認しているかのような記述もあります。

例えば、1巻に原爆実験の現場にアインシュタインを彷彿させる科学者が登場しますが、実写、実際にはアインシュタインは原爆の開発製造に関与しておりません。また投下された原子爆弾に落下傘がついている、これも皆さんもご存知の通り実際には落下傘はついていません。4巻には、広島に米軍がいるとありましたが、実際には当時、市を占領していたのはイギリス軍です。その他にも、ゲンの仲間の、勝子のセリフの中で「殺人罪で永久に刑務所に入らんといけんやつは、この日本にはいっぱいいっぱいおるよ。まずは最高の殺人者天皇あいつの戦争命令で、どれだけ多くの日本人、アジア諸国の人間が殺されたか」とあります。またゲンのセリフとしても、「もし広島、長崎の原爆の破壊力と惨状がなかったら戦争狂いの天皇や指導者は完全に負けるとわかっている戦争をやめんかったわい。ここは少し中略しますが、日本人は広島長崎の犠牲者に感謝せんといけんわい、といった原爆投下が、戦争を早く終わらせたんだと連想させるような記述もあります。

これら天皇陛下に対しての記述や、日本の朝鮮半島政策、日本軍についての記述については、調査の著者の考え方であり、これがその他の事実と一緒に描かれていることから、これを読んだ子供たちは、あたかも事実だったと勘違いし、自虐史観や東京裁判史観を植え付けることになりかねません。

(議場から「そうだ!」の声)

また、全巻読んだ感想として、戦前戦中戦後を通じた日本人の全体的な描写が、私の知る日本民族ではなく、何か冷たい冷酷な民族であるかのように感じました。特に戦後の混乱期は生きるか死ぬかの世界の中で、一部そのような方もいらっしゃったと思いますが、この点についてはやはり疑問を感じました。

それは戸坂にも原爆で負傷された多くの市民が逃げ来られ、戸坂のあちこちの家で献身的に、その看病に当たり、婦人会では炊き出しを行い、各家庭に食事を届けていたことなど、私は地域の方々からお聞きしています。当時8歳だったシモダキヨカズさんの話では、自宅で6名の負傷者の世話を行っており、その方たちは長野県出身のおそらく軍人の方で戦後、何度も何度もお礼状が届いたと言われていました。これらのことからもわかるように書かれていることは全て著者の中沢啓治さんの体験や、また思いや考え方であり、これを否定するものではありませんが、被爆の実相や著者が実際に体験したことだけではなく、著者の思いや考え方が混在していることにより、子供たちがそれらを事実だと勘違いする可能性があることから、『はだしのゲン』を用いて、平和学習をするには、事実とそうでない、著者の思いや考え方の部分をしっかり説明した上で、子供たちに読ませないといけないと思いますし、そのためには先生方もちゃんと全巻読み、内容についても本当に勉強しないといけないと思います。

そして、漫画の中では、戦後の混乱期にたくましく生きるゲンの姿が描かれ、その他たくましく生きていく中で、原爆は絶対に駄目なこと、戦争は絶対に駄目なことを教える一方で、生きていくためには、窃盗や暴力、また殺人など、いかなる不道徳なことも許されているとも感じ取れます。私は親から、どんなに貧しくとも人のものを取ったりしては駄目。もちろんどんなつらいことがあっても人を殺めたら駄目と襲われ、教わりました。皆さんもそうだと思います。この矛盾を本当に小学生の児童たちに理解させることができるのでしょうか?そこでお尋ねします。

『はだしのゲン』の中には、天皇への批判や君が代を歌うことを拒否するシーンがありますが、小学校の学習指導要領には、天皇や君が代について、どのように示されているでしょうか?また、児童からそのシーンについて質問が出た場合、どのように指導するのでしょうか、お答えください。

さらに、時代考証の誤り、事実誤認、歴史的にも不確定なことや、これから検証が必要なことも掲載されていると思っていますが、そのことについてどのようにお考えでしょうか、お答えください。

次に被爆の実相をもっと知ってもらうためには、もっとたくさんの原爆に関わるマンガを一緒に置くべきだと思います。例えば、被爆直後に戸坂小学校で被爆者の支援と治療にあたった軍医と広島電鉄家政女学校に入学し、原爆の被害に遭った少女の体験を描いた作品『あの日、ヒロシマで』や広島で被爆し、両親を失った少女と、疎開先で原爆投下を知り孤児となった男の子の人生を描いた作品『生きるんだ』など、今回これらの漫画も一緒に読みましたが、私は涙を流しながら読み、心を打たれました。

このように、『はだしのゲン』の他にもたくさんのあの日の広島を描いた漫画があるのではないでしょうか?それらの漫画も一緒に置くべきだと思いますが、いかがでしょうか、お答えください。

最後に、小学生には『はだしのゲン』を制限付きの図書にするべきだと思いますが、今後も児童が自由に読めるようにするのであれば、どのような対策を講じるのか、お答えください。

教育長:
『はだしのゲン』についてのご質問にお答えをいたします。まず、『はだしのゲン』の中には、天皇への批判や君が代を歌うことを拒否するシーンがあるが、小学校の学習指導要領には、天皇や君が代について同様のように示されているのか。また、児童からそのシーンについて質問が出た場合どのように指導するのか。さらに、時代考証の誤り、事実誤認、歴史的にも不確定なことやこれから検証が必要なことも掲載されていると思っているがそのことについてどう考えているか、についてです。

小学校学習指導要領では、天皇に関する内容として、社会科第6学年の我が国の政治の動きの学習において、天皇の地位について学ぶことになっており、日本国憲法に定める天皇の国事行為の具体例など児童に理解しやすい事項を取り上げ、歴史に関する学習との関連も図りながら、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすることと示されております。

また、君が代については音楽家や特別活動において、それぞれ国歌君が代はいずれの学年においても歌えるよう指導すること。入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする、と示されており、学校においては、これらに基づいた指導を行っています。

『はだしのゲン』の作中に掲載されている事柄や発言等は、作者である中沢啓治さんの被爆体験等をもとに、ゲンをはじめとする様々な境遇にある登場人物のそれぞれの立場からの思いや考え方が描かれたものであると理解しており、議員ご指摘のシーンについて児童から質問等があった場合には、その児童の思いや考えをしっかり聞いた上で当時の時代背景や様々な立場によって様々な考えがあったことを、発達段階において応じて丁寧に説明するなどの対応を行ってまいります。

次に、『はだしのゲン』の他にもたくさんの広島を描いた漫画があり、それらの漫画を一緒に図書館に置くべきだと思うがどうかについてです。

本市においては、次代を担う子供たちが被爆の実相と復興の歩みを確実に理解し、平和に関して自分の考えを持ち、それをもとに行動できる力を育成する平和教育をより一層推進することとしており、そのためには、より多くの被爆した方々の体験や平和への思いに触れることが重要であると考えています。

こうしたことから、本年7月には、原子爆弾投下後や戦中戦後の子供たちの姿を描いた絵本を中心とした24の作品を紹介するリーフレット「読んで考える平和」を作成し、各学校に配布したところです。今後は絵本に限らず、児童生徒にとって身近で手に取りやすいという視点からも、議員ご紹介の原爆を扱った漫画も含めたより多くの広島を描いた作品を学校に紹介する等の取り組みを進めていきたいと考えています。

最後に、小学生には『はだしのゲン』を制限付きの図書にするべきだと思うが、今後も児童が自由に読めるようにするのであれば、どのような対策を講じるのかについてです。

『はだしのゲン』は、作者自身の被爆体験等をもとに、戦時中の人々の暮らしや被爆の惨禍、復興に向けて立ち上がった人々の様子を描いた全国で長年読み継がれてきた作品であり全体を通して見れば二度と戦争を起こしてはならないという強い願いを読者に訴える内容であると考えております。このたびの、ひろしま平和ノートにおける学習素材の見直しは、一定の授業時間内で学習の目標を達成するためにより使いやすいかという観点から実施したものであり、『はだしのゲン』の学校図書館等での取り扱いを変えるものではありません。

一方で、『はだしのゲン』の中に、議員ご指摘のように、今の児童生徒には理解が難しい記載があることは承知しており、先ほどの答弁の繰り返しにはなりますが、児童から質問等があった場合には、児童の思いや考えをしっかりと聞いた上で、発達段階に応じて丁寧に説明するなどの対応を行うよう配慮してまいります。以上です。


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