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私たちはまったく別の個体—35過ぎて私の思うこと。

 親しい年下女性から「何回言っても忘れる夫にイライラする」という話を聞いた。たとえば、「Aはこの位置にこんなふうに置いておこう」とふたりで決め、夫がそのやり方を忘れているものだから、幾度となく「こう置いてね」と言っても、すぐさま忘れてしまい、変な置き方をするのが常なのだとか。

「夫が『何回も言われるのがイヤ』と不貞腐れるのもイラッとする。今日もそんなふうに不機嫌に返されて、『え? なんであなたがキレ気味なの?』ってなった。簡単なことなのに、何回言ってもできない方がどうかと思う」。彼女はイライラを隠しきれない様子だった。

 彼女がむかつくのも理解できる。7〜8年前の私なら彼女側にいて、自分の夫にプリプリしていただろう。でも、今は違う。そんなことでイライラしない。

「あなたの言ってることもわかるけど、彼は身のまわりのモノに関心がないのよ。だから、目の前にあるモノが見えてないの。私たちは気づく方だし、かなり目配りしている方なの。でもさ、ふたりで暮らす時間のなかで、イライラするときよりも、楽しいときの方が圧倒的に多いでしょう? だから個体差があるもの同士、なんだかんだやっていけるんだと思うの。それに、あなたの夫はあなたのこと大好き人間じゃない。清潔感があるし、真面目だし、いいところが多い。夫市場において上位層に入るのは間違いないわ」

 そこまで一気に言うと、彼女は「そう言われると、そうなのかなあ」とすこし落ち着いた様子だった。彼女とその夫と食事をしたことがあるけれど、夫は彼女に温かい眼差しを向けて、ああ、本当に彼は彼女のことを愛おしいと思っているのねと、わかりやすく感じたのだった。実際、ふたりでいる時間は彼女に対し、出会ってから月日が経っても「今日もかわいい」「あっ、美人がいる」などと褒め言葉のシャワーを浴びせつづけ、仕事の日は寄り道もせずに帰宅し、休日も行動を共にしたがるなど、とにかく彼女への愛が深い。

「あふれんばかりの愛があるのよ、あなたの夫には」。私がそう言うと彼女は「確かに、愛はある」と笑ってこうつづけた。「『個体差!』と言い聞かせて、気持ちを鎮めようっと。付き合ってる人に、こんな感じで腹が立つことはないの?」

 そう聞かれて私は「ないなあ」と答える。相手は自分とは違う人間だから。私にとってたやすいこと・得意なことが、相手は上手くできないとしても、それは自然なことだし、育ってきた環境も違うから、あらゆる事象に対する感覚も異なる。「私とパートナーの“やり方”に同一のものはない。何を面白いと感じ、そうでないと感じるのかといった感性にもズレがある。何もかもすべて違う。私たちはまったく別の個体なんだから」。この発想を前提にしていれば、相手の行動に苛立つことは少なくなる。「どうしてそんなことを?」と疑問に感じることは数あれど、あくまで首を傾げるだけであり、イライラには結びつかない。いい大人になった今は、「それを見なかったことにする」という対処法すら持っている。

 すべての人間には個体差がある——パートナーシップに限らず、あらゆる人間関係において、社会生活において生かせる考え方だと思っている。

このコラムは最近読んで感銘を受けた『40過ぎてパリジェンヌの思うこと』の日本版を作りたいと思い立って書き始めたシリーズものです。



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