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#28【芽生えたゴリラ】~妻が不妊だったゴリラ~

私の中のゴリラ

ゆっくりとサボテンにかぶりつき、うまそうに食べている。
周りの様子を気にするそぶりもない。
ガラパゴスゾウガメはそういう奴らだ。

でかく、動きの遅い奴らは寿命も長い。
イメージ通りだ。面白味もない。

奴らの寿命は100年を優に超えるらしい。
真偽の確かめようは無いが、俺の想像をはるかに超えている。

ゴリラの中の私

卵子提供を受けて子供をつくりたい。
最初にはっきりと、妻からそう言われたとき、私は少し驚いた。

卵子提供を受けるという事実に対してではない。
そういう決断を妻がしたことについて驚いた。

私は、妻が「決断が苦手なタイプ」の人間だと思っていた。
その理由は、普段の生活の中でも、私に意見を求めてくることが多いからだ。
それこそ、小さなことから、大きなことまで。

それは、良い、悪い、という話ではない。
そういうタイプの人間というだけだ。

特に、この不妊治療をめぐる話に関しては、私はどちらかというと反対の立場をとっており、その意見を妻にはっきりと述べていた。

「不妊治療を続けてまで子供を欲しいと思っていない」ということを。

しかし、妻は、最終的に私とは反対の立場をとった。

不妊治療は続ける。しかし、今の方法では活路を見出すことが出来ない。
そのため、次の手段として卵子提供を受けて子供をつくることを目指す。
もちろん、卵子提供を受けたから子供ができるなどという保証はない。
費用、時間、メンタル的なリスクがあることを承知の上で、卵子提供を受ける、と。

妻は、私の意見とは違った答えを出した。
しかし私は、それ以上に妻の本心と決意を聞けたことがうれしかった。

私は、妻の意見に同意した。

私は、妻への同意と同時に、自分の中に罪悪感が芽生えたことに気づいた。
私になぜ罪悪感が芽生えたのか。
その時、私はそれを自分でも理解することが出来なかった。

兎に角このことは、私の中では大きな出来事だった。
妻の不妊を知ってから、初めて明確に進むべき道が決まったのだ。

それは8年後のことだった。
妻の不妊を知ってから。

私の中のゴリラ

奴らの寿命の長さは、睡眠時間の長さに関係があるらしい。
一種の冬眠のようなものか。

俺は不思議だった。
冬眠してまで長生きする意味があるのか。
寝ている間は意識も無いだろう。

しかし奴らは俺のことなど気にしていない。
寿命の短い俺の価値観など。



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