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ベルモンド一周忌

ジャン=ポール・ベルモンドが88歳で亡くなって今日でちょうど1年。
noteを手探りで始めて7日目、誰からも読まれていないこの時も書いたけれど…

英語やフランス語だと「死んでから1年のアニバーサリー」みたいな軽い表現しかないので、今回も仏教用語を拝借。

出演VHS、DVDや関連グッズをできる限り買うとか本人に関することを調べまくるとか、長年にわたってファンなのはベルモンド以外にいない。
というわけで、一周忌に故人を偲びつつ勝手にベルモンド祭り。

 2020年に日本各地の映画館で始まった「ベルモンド傑作選」、第2弾まではベルモンドもまだ存命だった。1回目の時は「ベルモンドにファンレターを書いたら本人にもれなく届けます」キャンペーンもあり、40年来のファンです。元気で長生きしてね的な事を専用カードに書いて、私も劇場の特設ポストに投函したのだった。

傑作選ではDVD化されていなかった作品もいくつかあり、リピートも含めて何度も映画館に足を運んだ。
そこで改めて思ったのは、私が好きなベルモンドは60年代までだなということ。
1970年の『ボルサリーノ』以降は脂がのってマッチョになりすぎた感じ。ジャッキー・チェンも参考にしたというスタント無しで体を張ったシーンはすごいけれど、ちょっと重厚感が出始めて、ルパン三世のモデルと言われていた、あのひらりと軽い身のこなしがあまり見られない。私が好きな路線からどんどん離れていってしまう。

『華麗なる大泥棒』1971
傑作選3フライヤーより。
この辺から、もう何か違うかなと…


ところで、ルパン三世の他に寺沢武一の『コブラ』もベルモンドがモデルだと言われているが、一番そのまんま感があるのはこれだと思う。

アニメ映画『千夜一夜物語』
1969年 虫プロダクション

手塚治虫の虫プロが、千夜一夜物語のアラビアンナイトを換骨奪胎というか大胆解釈というか、かなり自由にアレンジしたお話。
主人公アラジン、じゃなくてアルディンの造形や性格はどう見てもベルモンド。キャラクターデザインは『アンパンマン』のやなせたかし!『大頭脳』や『カジノロワイヤル』でベルモンドと共演したデビッド・ニーブンのそっくりさんも出てくる。

 大人向けアニメなので「えぇっ!そこまで⁈」という際どいシーンがたくさん。中東が舞台なのに、なぜか女護ヶ島とか出てくるし。
 声優はアルディンに青島幸男(すごくハマり役!)、恋人役に岸田今日子、芥川比呂志、加藤治子、橋爪功など錚々たる顔ぶれ。
その他にも遠藤周作、北杜夫、筒井康隆、吉行淳之介などの大御所作家連や大宅壮一、立川談志、大橋巨泉などびっくりするような人たちが、それぞれほんのチョイ役で友情出演。
お色気満載のとんでもないストーリーだが、みんなすごく楽しんで関わっているんだなーというのが伝わってくる映画だった。映像にも遊びがいっぱい。
音楽担当は冨田勲、テーマ音楽はザ・ヘルプフル・ソウルのめちゃくちゃカッコいいロック。
ボーカルは、ルパン三世のテーマで「ルパン・ザ・サード」を歌っているチャーリー・コーセイ。

『リオの男』を彷彿とさせるジャケット

 若きベルモンドの顔や動きや性格は、当時の日本のアニメーターたちに「そう、この感じ!」って思わせる何かがあったのだろうな。

ルパン三世が女性をくどいたりする時にペラペラしゃべりまくるのも、ゴダールが撮った短編映画『シャルロットと彼女のジュール』の若きベルモンドを見てあー、そっくりだと思った。

『シャルロットと彼女のジュール』1958年
音楽もファッションも楽しい。
おもちゃのような作品


心変わりした恋人を必死に引き留めようと、ベルモンドがかきくどいたり非難したり、全編13分しゃべり倒す。彼女はその間ほとんど話さずアイスクリームを呑気に食べていたかと思うと窓からポンと放り投げ、最後に「歯ブラシ取りにきただけなの」と言って去っていき、残されたベルモンドはガックリ。という、狭いアパルトマンの一室で起きる何てことない小品なのだけれど、落ち着きなく動いてしゃべり続けるひょろっとしたベルモンドは、ほぼルパンだ。特に最後、万策尽きて顔に手をやる仕草はアニメみたい。
この映画、ベルモンドがしゃべる音声はゴダールが吹き替えている。撮り終えてすぐにベルモンドが兵役に出てしまったためだそうだが、ゴダールもがんばって映像に合わせて早口でアフレコしたのね。
1958年、『勝手にしやがれ』前夜の作品。

 生でベルモンドを見たのは、1992年の舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』。

当時のパンフレット

 新宿の厚生年金会館大ホールで。
この時ベルモンドは60歳。声には張りがあり、舞台の端から端までよく動き回っていた。最後の挨拶の去り際に、シラノの付け鼻をむしり取って腕をぶんぶん振り回し客席にポーンと放り投げたのが、いかにもベルモンドだったが「あぁ、おじいさんになったなー」としみじみ思ってしまった。

 何十年も前に、ワタリウム美術館のカードコーナーでベルモンドのポストカードを見つけて、迷わずラックにある分残らず全て掴んでレジへ。
「全部買い占めてやったぜ、ヘッヘッヘッ」とほくそ笑んでいたら、店員がすぐにまた同じカードを補充して拍子抜け。
おかげで目が覚め独占欲がシュルシュルと萎んだ。


ベルモンドのポストカードなんて、もらっても嬉しい人なんてそういないとわかっていながら友人たちに無理やり送ったけれど、

まだこんなに残っている…

出張の夫に頼んで買ってきてもらった映画ポスターやスチール写真も沢山あるのだが、家に飾ってあるのは『モラン神父』一枚だけで、あとは仕舞い込んだまま。

『モラン神父』1961年

そのうち自分の終活で身辺整理が必要になった時に、娘に「ベルモンド関連の物は捨てちゃダメ!」とか言わないように気をつけよう。

「ベルモンド傑作選」第3弾、東京では9/2から新宿武蔵野館で既に始まっている。今回は新たに7作品の上映。
まだ実家滞在中だが、東京に戻ったら1961年の『勝負をつけろ』を真っ先に観に行きたい。
武蔵野館の座席は私には鬼門だけれど。




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