マガジンのカバー画像

散文集

23
運営しているクリエイター

記事一覧

散文集#23 中毒についての私見と自己分析

 活字中毒という単語が存在する。小説、評論、論文、百科事典など、内容は問わず活字でできているものを定期的に摂取しないと落ち着かないという状態、あるいは性質を指す。
 「活字」を求めて中毒症状を起こすから「活字中毒」なのだとするならば、私は「芸術中毒」と定義できるだろう。
 「芸術」とは書いたが、何も高尚な趣味を持っているわけじゃあない。もちろんクラシックコンサートに行くことや美術館に行って鑑賞する

もっとみる

散文集#22 未発見の手記

あなたにはわかるはずもない

それを理解してしまえば。あなたはこちら側に来てしまう
そうなってしまえばもう戻ることはできない

この地獄で生きていくのはとても難しい

だから、こちらに来ようなんて思わないことだ

来てしまえば後悔するだろうから

それを求めていたのは私ではない
それを欲していたのは私でなく、しかしあなたでもない

かの幻想が紡ぐは、かつての夢と願い。
散っていった者たちが夢見たど

もっとみる

散文集#21 最後の手記

誰かがそう言ったのだったか、僕がそう名付けて読んでいたのだったか、そんなことを忘れてしまうくらい昔の話だ。

何時かの僕が欲しかったものは何だったのか、何処かに置いてきてしまった願いはどんなものだったか。誰かに会いたかった気もするのに、何をしたかったのかが思い出せない。

僕はなにも忘れていないのに、すべてに対する感情をなくしてしまっていた。確かにそれまでの記憶があるのに、そこにあったはずの感情が

もっとみる

散文集#20 正しい

「正しいこと」は確かに正しい
 が、「正しい」という理由だけで常に正しい行動をとれる人間がいったい何人いる?

正しい行動をとれなければ間違っているなんて誰が言った?

お前は「正しい」というだけで大切なものを手放せるのか?

散文集#19 誰かの言葉

「目に見えるものの意味は、すでに己が知っている。」
「ん?どういう意味だ?」
「僕らは、常に見たいものを見たいようにしか見ていないということだ。」

ーーーーーーーーーーーー

「ふんっ!ついに人間ではないものまで生み出したか。
 醜いにもほどがあるぞ!
 そのうえ手に負えなくなったら捨てる!?
 さきにおまえらが滅ぶだろ?!」

ーーーーーーーーーーーーー

「届かない」
 ゲームの前で 嘆く君

もっとみる

散文集#18 気狂いの言葉

殺せ、お前が生きるために。
殺せ、お前がお前を許すために。
殺せ、お前が強くなるために。
殺せ、お前が前を向くために。

そうすれば、俺は「普通」でいられる。

散文集#17 平等

すべての可能性は平等に存在する。
「平等ではない可能性」を含めて平等に、ね。

            放蕩者〇△$%の独弁

散文集#16 白の勇者

調査報告書 2008/5/20

 日本国内の森林部にある小さな村には、とある風習がある。
 「30年に一度、白の勇者が南の魔王を倒しに行く」というものだ。
 この風習は戦前から始まり、今もなお続いているそうだ。
 しかし、私は研究所でこの噂を耳にするまでそんな風習は聞いたことがなかった。私は東京で生まれ育ったためにそんな話とは無縁だっただけかもしれないが…。
 いま、くだんの村である黒井村の民家

もっとみる

散文集#15 呪い

 右の手のひらを開いてみる。
「ますかけ線」というのがあるらしい。かの有名な将軍、徳川家康にもあったという、成功する人に多い手相だそうだ。
 手のひらを横一文字にひかれた線は、静かにその存在を主張している。
 刹那、その横線を引き裂くようにナイフが突き立てられる。銀の刃は赤い布をまといながら静かに佇んでいる。

・・・・・・目を伏せ、息を吐きだす。
 これは呪いだ。自分でかけてしまった、呪いだ。

もっとみる

散文集#14 殺せない殺意

「ふう。」
 一つ息を吐く。目を閉じ、心を落ち着ける。
――ドギュンッ
 刹那、こめかみを銃弾が貫く。
――ザシュッ
 驚く間もなくナイフが喉を切り裂く。
――ビシュンッ
 追い打ちをかけるように横から斧が飛んでくる。
――ぐちゅり
 生々しい音を立てて首が飛んでいく。
――ぶちょり
 極めつけにとぽっかり空いた軌道に拳ほどの太さの釘がささる。
――めりぐしゃごちょり
 ダメ押しとばかりに鉄くぎが

もっとみる

散文集#13 吸血鬼と下僕

 少年は苦悩していた。目の前の少女を助けるべきか否か。
 少年の腕の中で抱かれる少女の息はか細く、その命の灯はすぐにでも消えてしまいそうだった。助けを呼ぼうにも今は深夜だ。それに加えて、ここは人々が寝静まった住宅街の真ん中である。人影を探している間に少女が息絶えるのは目に見えている。
 かといってこの場で自分の命より大事な少女を何もせずに失うことはできない。
 人っ子一人いない夜道で、少年は孤独に

もっとみる

散文集#12 音楽を失う

「なんでそんな汚い音なの!?もっと集中してよ!」
耳に刺さる言葉に思わず顔を向けると、3人のトランペットと向かい合う女子生徒がいた。
「あの人、有名な人だよね?『七色の音』とか言われてた!」
「う、うん。雑誌で特集されてた人だ。少し前に事故にあってから不調らしいけど。」
困り顔で立ち尽くす後輩3人をよそに、件の女子生徒はやけに絶望的な表情だ。
「どうして?どうしてそんな汚い音なの?どうしてそんな汚

もっとみる

散文集#11 眠りのS

「殺し屋だよ。」
耳から飛び込んできた言葉に、思考が固まる。
「えっ?」
「あいつの職業。殺し屋。・・・通り名は、眠りのS。」
「ねむりの、えす・・・?」
「ターゲットを苦しまずに眠らせるように殺すから、眠りのS。」
「眠りの、S。」
その名を、私は知っている。
大切な人を殺した、仇の名。
こんなことなら、正体なんて知りたくなかった。

散文集#10 風来の又兵衛

「やっと見つけたよ、お嬢さん。」
「貴方は、そんなまさか・・・、又兵衛さん?」
「おうよ!風の向くまま気の向くまま、風来の又兵衛とは俺のことよ!」
「ずっと、探してくださっていたのですね?母との約束を守るために。」
「そりゃあな。親友に泣きつかれちゃあ守らないわけにもいかねえ。」