連載「私の好きなミニコミ」第三回


 先日、池之端の古書ほうろうに久しぶりに赴いた。調子に乗って10冊以上購入してしまったのだが、中でも面白かったのが「行けない店」(岡本 仁/パピエラボ刊)だ。今回も前回同様、新刊ではなく2012年に発売になった60Pのミニコミを選んでしまったが、今はもう閉店してしまったお気に入りの飲食店について書かれた好エッセイ集である。発行されてから既に10年以上経っているが、今となっては、そこで食べることは永遠に出来ないという事実だけが残るのみだ。
岡本仁という名前を見て、ピンときた方も多いだろう。氏は「BRUTUS」「relax」、「ku:nel」などを担当した元マガジンハウスの編集者だ。2000年代初頭、カフェや古本屋などに「relax」のフリーペーパーが置かれていたが、編集長ながらその執筆から写真撮影まですべて自分でやっていたのが岡本氏である。2016年に一度復刊したときにも、フリーペーパーが作られていたので、ご記憶のある方もいらっしゃるかもしれない。そのフリーペーパーと同じA6サイズの小ぶりな体裁も気に入り、そんな彼がセレクトした店だから興味深いのではと思い、即購入した。
さて早速、中を見てみよう。赤坂、小岩、新橋、銀座、代官山などにかつてあったお気に入りの店が10店掲載されている。グルメ情報としてはまったく役に立たないが、食してみたいメニューが続々と出てくる。その一つが小岩にあった台湾料理・楊州飯店魚醤炒飯だ。隠し味として魚醤を使うという事は聞いたことがあるが、ここまで堂々と銘打った炒飯を他には知らない。しかも氏によると「味は複雑で一口食べるとまた一口欲しくなる」と書いてある。また、ぷりぷりの水餃子も絶品とのこと。なんとメニューは120種類!町中華好きとして体験できないのは返す返すも残念な話だ。
そして、銀座にあったカレー屋えすと。こちらの名物「インデェアン・カレー」は関西でおなじみの「インデアン・カレー」とは異なり、銀座ナイルのムルギランチに似ているという。いや~食べてみたかった。なんだか、グルメ情報みたいな話になってきたが、こういった気分にさせるのは、岡本氏の店への愛情溢れる文体のお陰であろう。
 私にも永遠に通うことのできない店が数多くある。渋谷だと、大盛でお馴染みの中華「仙台や」、とんねるずも通っていた椎茸そばで有名だった「有昌」……。と書いたところで、「有昌」が神泉で営業復活の情報をキャッチ!さて、「行けない店」にしないようにまた、通わねば。

◎「月刊てりとりぃ」復刊2号(令和4年8月27日)より転載。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?