道の向こう側から

雨の日の外出はちょっと苦手。

片手に傘、もう片方には白杖で大変だね。
なんて言われることは多々あるけれど、個人的にはそれはあまり問題ではない。
荷物を減らせばいいだけのこと。

それよりも、傘に雨粒が当たる音によって、周囲の音が聞こえにくくなってしまうことがきつい。
必要な音が聞こえないと、方向がわからなくなったり、人、自転車、車などが近付いてくる気配も察知しにくくなる。

こんな時、方向を示してくれる点字ブロックや、音の出る信号機はとても強い味方。

先日、大雨の降る中をわたしは駅に向かって歩いていた。
雨音が大きくて周りの状況把握がしずらいので、いつもよりゆっくり注意深く進む。

だけど、立ちはだかる音の出ない信号機。

車が水をはじく音がいろいろな所から反響して聞こえる。
目の前の道に、今車は走っているのか?
止まっているけど、遠くで走っている車の音が聞こえるだけ?

うーん・・

なんとなく、車は来ていない気がする。

行っちゃおう。

わたしは一歩踏み出した。

その時、

「まだだよ!」

道の反対側から声がした。

聞き覚えのある声。

通勤していた頃、毎日のようにここを渡るのを手伝ってくれたおじさんの声だ。

その一言に救われる|so-neco1982
https://note.com/sonec82/n/n53d7c959e08a?magazine_key=ma0ad02b59822

わたしは少し後ろにさがる。

しばらくして、

「いいよ!」

と、声がした。

わたしは前に進む。

おじさんは、今日は自転車に乗っていて、こちら側に渡ってきた。

そして、すれ違いざまに

「行ってらっしゃい」

とだけ言って去って行った。

わたしはおじさんの、こういうサラッとしたところも好きだ。

久しぶりにお会いしたけど、おじさんはまたわたしに安心と安全をくれた。
おまけに、その日を明るい気持ちで過ごすのに十分な量の、なんだかほくほくしたものもチャージしてくれた。

雨の日の外出はちょっと苦手。
でも、悪いことばかりじゃないんだよね。
ありがとう。

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