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『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』事実の集積=真実とは限らない

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』 2015年

監督:マイケル・ムーア
製作:マイケル・ムーア、ティア・レッシン、カール・ディール
撮影:リック・ロウリー、ジェイミー・ロイ
編集:パブロ・プロエンザ、T・ウッディ・リッチマン、タイラー・H・ウォーク
上映時間:119min

あらすじ
突如ペンタゴンに呼び出された(らしい)マイケル・ムーア。各軍の長たちは、ムーアにアメリカの世界侵略戦略を考えろというのだ。ムーアはアメリカ国旗を片手に空母に乗り込み、欧州に渡るのだった。

欧州から盗む
よく「欧米」という言葉が使われるとき、欧州と米国をひとまとめにできる感じがするが、その歴史、人口構成、政治の仕組みまで何もかもが違う。
違うのはそういう大枠だけでなく、ディテールも全く違うぜというのがこの映画では延々に語られる。
イタリアでは有給休暇の日数がけた違いに多いし、12月に13月の給料(ボーナス)が支給される。
フランスでは学校の給食に専属のシェフがつき、栄養・味ともにピカイチに仕上げられる。
アイスランドでは女性の管理職やトップマネジメントが多く、しかも非常に優秀な成績を残している。
フィンランドでは更生のための開放型刑務所が受け入れられているし、チュニジアでは積極的な民主制獲得デモが成功した。
各国の良いところについてインタビューをした後に、アメリカの現状をかなり批判的に映し出す。
有給休暇は少ないし、学校の給食は刑務所の食事みたいだとフランスの小学生に指摘され、刑務所では当たり前に暴力が振るわれている。
左翼なムーアだからこその、アメリカ批判的な映像構成が嫌味と偏向的な思想を備えながらも面白い。

気を付けて
ムーアはあくまでドキュメンタリー監督だから、映画に使う映像は全て事実の記録映像である。
世界のどこかでいつか起こった何かを記録した映像を活用して、自らの編集によって構成することである意味で洗脳的な映画に仕上げていく。
映像というものは事実を映しながらも、それがあまりにも意図的に切り取られている場合、そこから伝わる感情や考え方は虚構になり得る。
つまり、ムーアの思想を観客に正しいものとして伝播させるためにドキュメント映像をその担保として利用しているわけだ。
そこに映るものは事実、されど映画はフィクションであるということを常に注意して観るべきかもしれない。
特にマイケル・ムーアの映画に関しては。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!