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『クロール -凶暴領域-』アジャの真面目なワニ映画

『クロール 凶暴領域』2019年
監督:アレクサンドル・アジャ(『ピラニア3D』)
製作:アジャ、サム・ライミ(『死霊のはらわた』『スパイダーマン』シリーズ)、クレイグ・フローレス
脚本:マイケル&ショーン・ラスムッセン
撮影:マキシム・アレクサンドル(『死霊館のシスター』『シャザム!』)
編集:エリオット・グリンバーグ
音楽:マックス・アルジ、ステフェン・スム
キャスト:カヤ・スコデラリオ(『メイズランナー』シリーズ)、バリー・ペッパー(『プライベート・ライアン』)
上映時間:87min
製作費:1350万ドル

味のあるタイトルである。
凶暴領域なんてあたりが何とも言えない。
そんな言葉あるのだろうか?
去年、本作が公開された頃に、ブレッソンやゴダール好きの筋金入り映画オタク(シネフィル)である友人U君が、真剣な顔つきで『クロール -凶暴領域-』ってのが面白いらしいと言っていた。
U君が言うんだからハズレることはないだろうなとは思いつつ、結局劇場まで観に行く勇気はなく、先日ようやくAmazon Primeで楽しんだ。
結果から言えばまあまあ面白いというくらいだろうか。

細部に宿る映画の魂
監督は『ピラニア3D』のアレクサンドル・アジャ(親しみを込めてアジャコングと呼ばせていただく)だからある程度の予算はかけられているし、それ相応の完成度に到達していることは自明だったが、特にハリケーンの描写には驚かされた。
全編通してハリケーンが主人公の住む町を襲うのだが、これがもう冒頭から凄い。
車のフロントガラスにこれでもか雨が打ち付けられ、道路は浸水し始めている。
小生も何度かプロのMVの撮影現場などに手伝いに行ったから、雨を降らせるというのは狭い範囲でも超大変だというのは身に染みて分かっている。
それなのに本作では家全体に雨を降らせているところを見るとやっぱ予算とスケールが違うなと感じる。
視界も悪く、車を運転するのさえ一苦労な状況の中、道路脇にこれみよがしに設置された巨大なワニ園の看板が映りこむ。
この時点で、禍々しさの演出においては笑えるほど十分に不穏な雰囲気がにじみ出ているわけだ。
本当に笑えてくるくらいに雨風が吹き荒れていて、しかもちゃんと怖いのは評価に値する。
いつどんなワニが飛び出してくるのだろうかと楽しみにしていたが、そこはさすがのアジャコング、頭が三つあったり、トルネードと一緒に飛んで襲ってくるような奇想天外なワニは登場しない。
愚直に現実に沿った、あるいは現実よりも現実的なワニを登場させてくれる。
この世には砂中を泳ぐサメや、幽霊ザメが好きな奇人のための珍妙な映画が存在するが、アジャコングはあくまで金をかけたCGでマジワニを出してくる。
アジャコングの真面目さが気持ち良く感じられる。

この手の映画を観るときの大法則として注意していただきたいのは、登場人物達の行動にケチをつけないこと。
彼らがより危険で愚かな道を選んでくれなければスリルは生まれないのだから、家が浸水し始めているのに屋根に避難しようとしないところを突っ込むような無粋なことはしてはいけない。
突っ込むなら突っ込むで優しい愛を持って笑顔で突っ込まなければならない。
ツッコミは愛によって成立するのだから。

今回から僭越ながら100点満点で点数をつけさせていただく。
正直数字で評価するのは気が進まないが、ひとつの指標になればと思って心を鬼にすることとした。
本作は冒頭に書いた通り72点。
小生にはいくつかの特別採点基準があるのだが、本作にはある基準が適用されている。
・犬が登場する(+20点、可愛さによってはさらに加点)
・犬が雑に扱われる(-92点)
今回は72点だから、これだけで犬がどうなるかについてはネタバレになってしまうがご容赦を。
多少グロめのシーンもあるので万人向けでとまでは言えないが、上質な娯楽映画としてお楽しみいただけるはずだ。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!