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『硫黄島からの手紙』8月は戦争映画を観よう

『硫黄島からの手紙』 2006年
監督:クリント・イーストウッド
脚本:アイリス・ヤマシタ
製作:クリント・イーストウッド、スティーブン・スピルバーグ、ロバート・ロレンツ
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
キャスト:渡辺謙、二宮和也、加瀬亮、中村獅童、伊原剛志
上映時間:141min

あらすじ
硫黄島で太平洋戦争時に残された兵士たちの手紙が見つかった。一人一人の兵士たちにはそれぞれの過去があり、手紙を送るべき誰かがいた。

イーストウッドの戦争映画
本日8/6は広島に原爆が投下された日。
戦争を知らない世代にとって戦争を追体験することを、映像、とりわけ映画は可能にしてくれる。
イーストウッドはこの『硫黄島からの手紙』と、その双子関係にある『父親たちの星条旗』の二つの戦争映画を撮っている。
前者が日本軍の目線で、後者がアメリカ軍の目線から撮られている。
イーストウッドは非常に実直に、真面目に物語のモデルに向き合って映画を作っていく。
アメリカ人とはいえ、日本軍の目線でアメリカ軍と戦うストーリーを描けるのはその生真面目な性格があるからだ。
西洋人がアジア人を描くとなると(最近はアジア人が描くアジア人にも起こりがちだが)、どうしたってエドワード・サイードが唱えたオリエンタリズムによる差別的な視点が含まれることが多い。
こと戦争中の日本を描くとなれば、どうしたって変な日本観を以て、西洋人がこうあってほしいと願うような日本人が描かれる。
イーストウッドの場合は、あくまで集団としての日本軍の狂気をしっかり表しつつも、個人としての日本人は一人の人間として描いてくれていた。
それは特に日本の戦争においては普遍的な事実である。
彩度を極限まで落として、夜のシーンはぎりぎりカラーだと分かるくらいにまでモノクロに近い。
枯れ木が立ち並び、霧が充満する夜に潜む兵士たちから生じる戦場の生々しさがイーストウッドのの演出力の高さを示す。
洞窟の中のシーンなどは照明の明暗がシャープで、昔のフィルム・ノワールのような雰囲気もまた緊張感を高めていた。

8月は戦争映画
日本人にとって、8月は原爆と終戦の月である。
毎年、塚本晋也監督の『野火』が上映されるように、どんな戦争映画でも良いからぜひ8月 中に一本は観ておいていただきたい。
イーストウッドでも良いし、大林宣彦監督の反戦映画でも良い。
今年、世間は終戦記念よりも圧倒的にコロナに目が向かっている。
その一方で香港の民主主義は崩壊し、中国と西側諸国の関係は急激に悪化している。
世界大戦前に中原中也が未来の戦争を予言していたように、今の世界には気づかぬうちに暗雲が立ち込めている。
戦争なんて起こるわけがないと信じ込んでいる今の世代こそ、映画を通して戦争の異常性を学び、戦争のない未来を創らなければならない。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!