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ミダス病になった私

私は毎朝想像する

私にハンドベルの音色を届けてくれた少年の

こめかみが銃でぶち抜かれるのを

 

私は毎朝想像する

あどけない両腕で私を包みこみ愛を伝えてくれた少女が

迷彩服にレイプされるのを

 

私の命など

塵にもならないほどに大切に想う人たちが

自身の命など

存在しないかのように私を護ってくれる人たちが

朝ごとにひとりずつ 殺されてゆく

思いつく限り グロテスクなやり方で

 

鮮明に想像する

どんな声で助けを求めるか

どんな色の血が噴き出るか

どんなふうに眼球が飛び出るか

 

これが私のルーティーンである

謝っては済まないほどの不謹慎を承知の上で

 

 

こうでもしなければ

こうでもしなければ、私は人間でなくなってしまいそうなのだ

私の体はミダス王のように

冷たい金属に蝕まれてしまった

脊髄だけがかろうじて沸きたっている

それを守ることに私は必死なのだ

 

私が「それ」を知ったのは今日が初めてではない

死の直前まで母親を求めた少女の肉声を聞いて

私の鼓動は速くならなかった

私の目頭は熱くならなかった

聞き終わって2秒後にyoutubeでスポーツ観戦を楽しんだ

 

十月七日から数か月の間

イスラエルパレスチナを読んでから十数年の間

私は罪なき人々を見殺しにした

三匹の猿のように滑稽なポーズをとりながら

私はこの人間を 心優しい青年と考えていたらしい

 

家族を殺された苦しみは知らなくても

その百分の一の苦しみは知っていたはずだ

それ以上のことがこの世界で起こっていることも

しかし 私は歩き始めなかった

 

 

私は「もし私の罪が許されるなら」と語った

「しかし希望は確かにあるのだから」とも

どちらも心の余裕が生み出してくれるものだ

 

家族が土砂に埋もれたとき

掻き分ける手は罪も希望も数えない

このときの感覚を

私は二度と忘れてはならない


藤坂一麦(ふじさか ばく)
京都の大学生
ソムードの集いでは会計やシステム管理などの裏方の仕事を中心に行っている




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