【コラム】南チロルの風:7

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僕が働いてたレストランの街とは・・・ 

ブレッシア県のコンチェジオ村、幹線道路の通る人里離れたこの場所にリストランテ・ミラモンティ・ラルトロはあります。
 ブレッシア市内からは10kmほど離れた位置にあり、車がない場合の行き来には唯一バスしか交通手段はありません。そんなバスも来る時と来ない時がありますし、乗車するためのチケットが売っているタバッキ(通常タバコ屋さんですがバスの回数券やチケット、新聞・雑誌などを販売し、日本で言う宝くじのようなものも購入できるお店の総称です)もお昼休みと夕方7時以降は閉まってしまいます。大きなスーパーも5km以上行かないとありませんし、日用品は近くのサルメリア(主にサラミやチーズを売っているお店ですが、田舎ともなるとティッシュペーパーやシャンプーなど日用品も売っている日本で言うコンビニのようなお店です)で事足りますが、こちらは夕方5時半には閉まり土日はお休みです。近くには馬の飼育所があり野性味たっぷりな雰囲気です。はっきり言って「ど」がつくほど不便な田舎なのですが住めば都、そんな生活にもだんだんと慣れていったわけです。
 そんな環境なのに不思議だったことは、
「なんでこんな田舎なのにお店はこんな忙しいんだろう、どこからこんなにたくさんの人が来るんだろう」
ということでした。
 結局イタリア人は美味しいもののため、至福の時間を大切な人と過ごすために、そのような不便な街でも車を飛ばして来るのです。日本の都会ではちょっと考えにくいことですが、これが文化の違いなのですね。

ルームメイトのお兄さん

 そんな辺境生活で唯一と言ってもいいほどの楽しみは、月曜日。お店の定休日です。ほぼ毎週と言っていいほど僕はこのコンチェジオ村から離れていました。行き先はブレッシア市内・・・しかないのですが、CDや本を探したり、昼間からお酒を飲んでみたりと自由気ままに過ごしていました。
 そしていつも一緒にいたのは、北海道出身で職人性もあり人間性も豊かなコックさん・康一兄さんでした。当時一緒に住んでいたベルギー人が退社した後、代わりに彼が入ってきたので、彼とは同じルームメイトの仲でもありました。彼は大酒飲みで大食いで、それでいてスリムな体型をしている気の優しいお兄さんです。僕が仕事から帰ってくると、先にシャワーを浴びてすっきりした顔でビールを美味しそうに飲んでいるのです。「まさくんもやりなよ!」といつものようにビールを頂戴し夜な夜な遅くまで語り合うのでした。彼は美味しいものや楽しい遊びを色々知っていて、そんな話を聞くのが楽しみでもありました。海や川で釣った魚を食べた話、どこどこのレストランで何を食べたという話、クレジットカードが切れなくなるほどヴェネチアで豪遊した話などなど、笑いを含めた楽しいものばかりです。毎日毎晩そんな話を含め、次の休みはどこへ行くだの何をするだのと話をするのが彼と僕の日課でもありました。行き先はブレッシア市内なんですけどね・・・。でもそれほど僕らにとって週に1度の大切な月曜日だったのです。

休日の過ごし方 

住んでいるところにキッチンがなかったので、そんな休みの日は「食べる」ために街場のトラットリアやリストランテへ行くことが習慣でした。そうした場所へ行くと決まって二人とも地元のワインでもあるフランチャコルタのスプマンテで乾杯をします。フランチャコルタは僕らにとって思い出の場所でもあります。それは唯一の休みの月曜日に現地のカンティーナへ2・3度ケータリングに駆り出されたことがあったからです。朝早くに出勤して荷物を運び出し、会場で夕食のセッティング。昼食休憩の後、夕方のアペリティフから食後の後片付けまでほぼ1日中動きっぱなしで家に帰ってくるのは夜中の3時4時。で、もちろん次の日は通常通りに10時出勤ですので、実質2週間働きっぱなしという過酷な経験をしたことがあったのでした。しかしその中でもカンティナの中を見学することができたり、食中に出たワインを試飲させてもらったりと自分なりに得たこともありました。
 そんな辛かったけど楽しかった思い出と共に乾杯をした後は、前菜・パスタ・メイン・チーズ・ドルチェと食べに食べて、白ワイン1本、赤ワイン1本、と飲みあさったこともありました。食後のエスプレッソコーヒーと共に食後酒のグラッパも欠かさず、今思えばよく飲んで良く食べたなと感心するほどです。当時、二人がよく注文して食べていたのは、牛肉のタリアータ、ルッコラ添えでした。熱いお皿にスライスされた牛肉とルッコラが乗っていて、オリーブオイルと塩・胡椒で食べる至ってシンプルなお皿です。こちらをレアーで頂くのですが、これが翌日からまた1週間働くための血となり肉となるわけです。
「来週もこの肉、喰ってやる!」
と思わせてくれるほど、毎回楽しみにしていた料理でした。

次回は外食をお客さんという立場で楽しみながら得た経験についてお伝えしたいと思います。どうぞお楽しみに。

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