【コラム】南チロルの風:9

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ミラノのリストランテ「サドレル」のホスピタリティ

2001年の1月、その日僕と康一兄さんはミラノでタクシーに乗っていました。行き先はミラノ市内の南、ナヴィリオ地区にある康一兄さんの大好きなお店「サドレル」。

ちょっと出だしが遅かったせいもあり、予約の時間になってもまだたどり着けずにいました。その時、康一兄さんの携帯が鳴ります。

「今どちらにいらっしゃいますか?道はお分かりですか?」

とレストランから親切なお電話。

ミラノのタクシー運転手さんも「この場所はわかりにくい」と断言するほど入り組んだ道の奥にあるレストラン。そんな隠れ家のように感じられるような雰囲気のレストランにようやく到着。ドキドキしながらチャイムを鳴らし、遅れたことを御詫びしながらエントランスへ。電話をかけてきたと思われるカメリエーラが笑顔で僕たちを迎え入れてくれました。

かわいらしい内装の、こじんまりとしたお店の雰囲気は独特なものでした。

「ミラノは都会だけあって、雰囲気も華やかだな」

決して広いとは言えないレストランホールには特徴的な調度品や小物などがあるのですが、不思議とまとまりがあるように思えました。都会でありながらまるで小さな我が家に招待してくださったような雰囲気でした。

席に座りホール全体を見渡しながらそのようなことを感じていると、先ほどのカメリエーラがメニューとワインリストを持ってきて「何か食前酒をお持ちしましょうか?」と尋ねてきました。僕と康一さんは目を合わせて、「シャンパーニュを!」と即答です。

前回の話では、そのような場面では必ずと言っていいほど「フランチャコルタ」と綴りましたが、この日は特別です。なんとその日はマサ少年の22回目の誕生日だったのです。そんな特別な日に男二人で食事に出かけて特別なシャンパンを飲む? ちょっとおかしいように見られるかもしれませんが、当時の僕たちは他人の目など気にならずレストランの雰囲気を楽しむことが第一でした。

シャンパンで乾杯をした後はメニューとにらめっこです。その日もアラカルトで4皿くらい食べるぞ!と意気込んでいましたのでお肉料理、お魚料理、コースメニューとくまなく探ります。通常レストランに行く時は直感的に「これが食べたい」と思うものを選ぶようにしていたのですが、この日ばかりはどれも美味しそうで、選ぶのが大変だったことを覚えています。しかしこの日は赤ワインを飲むぞと決めていたので、そのワインに合わせて料理を色々と選んでいきました。

そうこうしていると向こうからコックコートを着た大きなイタリア人のおじさんが僕たちの方へ向かって、「お決まりかな|と注文を聞きにきました。オーナーシェフのクラウディオ・サドレル氏です。
「わー、有名人が僕たちのオーダーを取りにきた」
 当時、「クアトロ・スタジョーネ(四季という意味)」というタイトルの料理本も既に出版されていた有名シェフ。本屋でも彼の本を何度も見ていました。そんな有名シェフを前にのぼせ気味になり、ちょっと緊張気味で注文をします。

結局その日は、家禽系の前菜に魚介のスープ、ビーゴリパスタにメインは牛肉を注文しました。「4皿食べるなら、メインはちょっと小さくするからね」と心温まるサドレル氏の言葉。提供する側はお皿の量をもちろん知っていますし、お客さん側がそれだけたくさんの種類を食べてみたいという意向を叶えたいと思っています。しっかりと御召しいただくために、たとえ1品料理のお皿でも小さいポーションで提供することを惜しみません。もちろんその分お店側にロスが発生することを承知で引き受けてくれているので、本当にありがたい厚意だと僕はそのとき思いました。

今回はサドレルのレストラン全体としてのホスピタリティーについてお伝えしました。次回はワイン注文からある日本人キッチンスタッフさんとの出会いについてお伝えします。

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