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20年後の「バームクーヘン」

2019年6月9日、日曜日の朝早くに目を覚ました。その直前まで見ていた夢の影響か、心臓がどくどくと音を立てている。鼓動がする左胸の上に、右手を重ねた。

見知らぬ町で、夏で、夜だった。

町内会の祭りが開催されている。パイプ椅子と折り畳みテーブルが並び、がやがやとおじさんたちがお酒を飲んだり、たばこを吸ったりしている。テーブルには枝豆や焼きそば、灰皿が雑に置かれている。

前方にはステージ。と言っても高さは30センチほど。次の催しの準備だろうか、黒いTシャツを着た男性が3名ほど、楽器やマイクなどを袖から運び込んでいる。

僕は、今までにないくらい緊張していた。なぜなら、このあとステージで演奏するのは、甲本ヒロトと真島昌利のふたりだったからだ(バンドではなかった。二人で演奏するということだった)。そしてなぜか(なぜか!)、僕は彼らの前座でギター一本で弾き語りをすることになっていた。

一瞬にして、ライブ直前にシーンが切り替わる。

「ヒロトー!」「マーシー!」と会場から叫び声が上がる。みな、ふたりを求めている。がくがくと震える膝。「それでは染谷さん、よろしくお願いします。」とスタッフの声。僕はギターケースを開けて、K-yairiのアコースティックギターを取り出す。そこで、あっと声が出た。6本の弦がすべて、ぶつっと切断されていたのだ。もしかすると、彼らのファンが嫉妬して僕のギターにいたずらをしたのかもしれない。

どうしよう。頭が真っ白になる。「ヒロト―!」「まーーーしーーー!」会場の声はどんどん大きくなる。スタッフからは「早くしてください!」と催促される。どうしよう!


「これ…使っていいよ。」


すっと後ろから、黒いフェンダーストラトキャスターが差し出される。振り向くとそこには、マーシーがいた。「え、いいんですか?」「うん...がんばって」ああ、もうやるしかない。ステージの中央に向かう。マーシャルのアンプ。ゲインを少し絞って調整する。よし。

「ええと、みなさん、こんばんは」


…というところで目が覚めた。

おいおい、なんて夢だ!マーシーからギター借りちゃったよ。うわあ、ドキドキしたなあ。

寝室を出てリビングでぼんやりする。そして、毎朝の日課の日めくりカレンダーを一枚破き捨てると、今日が2019年6月9日であることがわかった。

「ん、まてよ」と記憶をたどる。もしかして、とスマートフォンで検索をする。"ハイロウズ バームクーヘン 発売日"

すると、画面にはこう出てきた。

わあ!20年前のこの日に、ハイロウズの4枚目のアルバム「バームクーヘン」が発売されていたのだった。僕はそのとき、中学一年生で12歳だった。発売日当日に近所のCDショップで、お小遣いで買った。

ハイロウズは1995年に結成された5人組のバンドだ。リンダリンダやトレイントレインなどで知られるブルーハーツ解散後、中心人物だった甲本ヒロトと真島昌利によって結成されたのが、ハイロウズだった。

父や兄の影響で、小学校高学年頃からロックを聴くようになった。そして、彼らがハイロウズというバンドで活動していることを知り、リアルタイムで新譜を購入する、という初めての経験が「バームクーヘン」だった。

このアルバムは、ハイロウズの中でもかなり荒削りで、録音がとても生々しい感じがした。それもそのはず、初のセルフプロデュース、自前のスタジオでの一発録りで録音したという。

特に、三曲目の「二匹のマシンガン」という曲が好きだった。”夜の宝石を化石に変えて笑ってる”という歌詞の意味は分からなかったが、フレーズとして大好きだった。いや20年経った今も意味は分かっていない。

学校では「バームクーヘン」のことを知っている人はほとんどいなかったから、地道に紹介していった。部活終わりの駐輪場で、「なあ、こんなかっこいいバンドがいるんだぜ」と話してまわった。「すげーんだよ、聴いてみてよ!」とまくし立てた。

同じく兄がいるサッカー部のKがハイロウズのことを知っていて、僕たちはすぐに仲良くなった。バスケ部とサッカー部の連中で、夕暮れの駐輪場で「うたおーーハスキーボーイス」と叫んで、笑った。

そのあと、ヘルメットをかぶって自転車で家に帰った。楽しかった。

あれから20年経ち、僕は32歳になった。2019年6月現在、サッカー部のKとはもう10年以上会っていない。なぜ、この日にこんな夢を見て、バームクーヘンのことを思い出したのか、少し考えてみて、そして気づいた。

今週日曜日、6月16日に、僕は自分で企画した全5回のイベントシリーズ「いまの私と散歩する。」の一回目を開催する。

これは、トーク×散歩、その後おやつの時間を通じて、”いまこのとき”を楽しむ、という趣旨のイベントで、第一回目のトークゲストは、アート界隈で幅広くご活躍される豊嶋秀樹さんだ。

豊嶋さんとの打ち合わせは、10年サラリーマンをやってきた自分にとって、「そう!それが言いたかったんです」とか、「ああ、そんな考え方がありますね」という揺さぶりをたくさん含んでいた。

自然とにやにやしてしまう嬉しい時間だった。そして、その話を、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいと思った。

「いまの私と散歩する。」は、誰かにやれと言われたことではなく、僕が好き勝手にはじめたものだ。ああ、そうか、これは、20年後の「バームクーヘン」なんだ。あれから20年後の今も、「なあ、これすげーんだよ!」と駐輪場でみんなを誘い、そして、歌いながら家に帰りたいんだ。

今週日曜日、神保町EDITORYにて、「いまの私と散歩する。」を開催します。もしよかったら、ぜひ遊びに来てください。

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■企画概要・主旨

全5回、神保町で開催する「トーク×散歩」のイベントです。
第一部はゲストとトークやワークショップ。第二部は街を散歩して気分にあった本を見つけたり、トークを振り返るお茶の時間をもちます。

■第一回目のゲスト
豊嶋秀樹さんをお招きして、「外に身を置くこと」「企画のこと」などを伺っていきます。また、「プロジェクトづくりワークショップ」を通じて、”いま・ここにいる人となにができるか"を考えていきます。

豊嶋秀樹(とよしま・ひでき) 
1971年、大阪生まれ。1998年、graf設立に携わる。2009年よりgm projectsのメンバーとして活動。作品制作、展覧会企画、空間構成、ワークショップなど幅広いアプローチで活動している。近年はハイキングをはじめテレマークスキーやクライミングにも傾倒。編著書に『岩木遠足 人と生活をめぐる26人のストーリー』(青幻舎)がある。

■日時
6/16(日)13:00-16:30 
第一部 トーク(45分)/ワークショップ「プロジェクトづくりワークショップ。」(60分)
第二部 散歩(45分)/お茶の時間(45分)  

■定員
30名/3,000円(お茶とおやつ付き)
*申し込みはpeatix (https://imanowatashi.peatix.com)
又はメール imanowatashitosanposuru@gmail.com

■会場
EDITORY神保町 (東京都千代田区神田神保町2-12-3 安富ビル2F)

■主催者プロフィール
染谷拓郎(そめや・たくろう)
1987年茨城県生まれ。2015年よりブックディレクションブランド「YOURS BOOK STORE」のディレクターとして、ブックホテル「箱根本箱」など本のある場所のプロデュースを手掛ける。 連絡先:someyatakuro@gmail.com

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この文章は、発売されたばかりの田中泰延さんの「読みたいことを、書けばいい。」に触発されて書きました。この本、とても面白いし、面白いだけじゃなく、行動したくなります。ぜひこちらも読んでみてください。心からおすすめします。

#日記 #エッセイ #いまの私と散歩する #読みたいことを書けばいい

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