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2019年11月の記事一覧

紫陽花盗み

紫陽花盗み

 その紫陽花の鉢植えはいつもの通りの右側の端の、建物と建物の間の細長い暗い薄汚れた隙間にポツンと置かれていた。なんの変哲も無い茶色い素焼きの鉢にふたつ、ぼんぼんと薄紫の花をつけていた。

 まるでなんでもない朝だった。なんでもない紫陽花。いつもなら何も思わずに何気なく通り過ぎるはずの道だった。しかし実際にはわたしはその朝、鉢植えの前でふと立ち止まりちょっとしゃがんで、その紫陽花をさっと抱えてなん

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