見出し画像

藍華・田中絣工房さんのこと

12月末のある日、筑後市の藍華・田中絣工房さんに伺いました。

画像2

見学の対応をしてくださったのは田中稔大さん。手織り藍染めの久留米絣を手掛ける織元の3代目です。
初対面の方のところに伺うのはいつも大変緊張するものなのですが、稔大さんの笑顔のやさしさにほっと心が和みます。

画像3

通していただいたお座敷の衣桁には稔大さんの作品がかけられていました。
「笹船のモチーフですか?」とお聞きすると、「風をイメージしているんです」との答え。風や水などの筑後の美しい自然に、デザインのヒントを得ることもに多いのだそうです。

ご自身が図案から織りまでを手掛けて制作される久留米絣。その特徴は、空間を生かしたデザインだと稔大さんは言います。
緻密で細かい柄が好まれることが多い久留米絣の世界で、余白を大きくとったデザインが受け入れられにくいこともあったそうです。それでも、自分の抱いているイメージに沿って制作したいという稔大さんの強い思いを、お話の端々から感じました。

画像4

そして、稔大さんのデザインのもう一つのポイントは手書きの曲線を生かすこと。タテとヨコの糸を直角に組み合わせていくという平織りの性質上、曲線を自在に描くデザインを布の上に再現するには技術が必要になります。ですが、タテ糸を曲線上にずらすなどの工夫を重ねて、思い描いた通りの絣を制作しているのだそうです。

画像3

江戸時代末から筑後地域の広い範囲にわたって作られてきた久留米絣。中でも筑後市は、「絵絣」と呼ばれる大柄の絣が伝統的に生産されてきた地域です。
絵絣の肝となるのはヨコ糸の括り。上の写真の「絵台」という道具でデザインを糸に写し取り、「絵糸」と呼ばれる括りの際のガイドになる特別な糸を作ります。この絵糸の通りにヨコ糸を括って染めると、絵画的な絣を作ることができるのです。

画像7

こちらは、稔大さんのお父さんである寛さんが遺された絣。「ほしくず」というタイトルの通り、絣の中に輝く白の文様がハッとするほど美しく、一面の夜空に広がる星々のきらめきを感じる作品でした。

画像6

いくつも作品を拝見した後、工房の作業場と藍甕が並ぶ染め場を見せていただきました。

「絣はね、こげんして柄が出てくるけん織りよって面白かとよ」と、ヨコ絣を織っている職人さんが話してくれます。作業場で働いている織りや本巻きの職人さんたちは明るい雰囲気の方ばかり。もちろん職人仕事の厳しさはあるのでしょうが、どことなく楽しそうです。

画像9

私は藍の独特のにおいが大好きなので、染め場にお邪魔するとわくわくしてしまいます。田中絣工房さんの藍甕はどれもとても状態が良くて元気なものばかり。〈藍の華〉と呼ばれる、発酵状態が良い時に現れる泡が水面にきらきら光っていました。
こちらの染め場で、藍染め体験や作品や生地を持ち込んでの藍染めなども受け付けているとのことでした。

画像7

筑後の美しい自然のもと、職人さんたちとのなごやかなコミュニケーションを重ねて行く仕事の中から、次はどんな柄が作られるのでしょうか。
代々受け継がれる伝統の技術を生かしながら、のびやかに自身のデザインを追求していく稔大さん。久留米絣の〈これから〉を担う織元さんの一人にお会いできて、心が弾む一日になりました。

藍華・田中絣工房さんでは見学や藍染体験(持込み可)を受け入れています。
また「itoe」(Instagram: @itoe_madeinjapan )という久留米絣の技術を生かしたブランドで、熊本県の「九州 蚤の市」や福岡市の「護国神社蚤の市」にも出店されているそうです。
ぜひ一度、藍華・田中絣工房の久留米絣をご覧になってください。

画像8

藍華・田中絣工房
福岡県筑後市高江442-4

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?