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【掌編】そばかす姫はそわそわし、竜は撃ち抜かれる

もう20年以上前になるだろうか?
ひとりの女の子に出会った。
とても話の面白い女の子で
会うといつも一緒にくだらない話をして
爆笑していた。
知り合ってしばらくした後
連絡先を交換した僕は嬉しくなって
すぐご飯に誘った。

「今度会った時には手をつなぎたい」

なんでそんな事を事前に言う必要があるのか
分からないが、多分嬉しくてそうメールした。

ご飯はいいが、手をつなぐのはNG。

え?そのぐらいいいじゃんかと思ったが、
なにやら意味深な返事が来たので
会った時に聞こうと思っていた。

その次の週くらいに
その子の知り合いの居酒屋に行った。

一緒に美味しいものを食べたり、
一緒にお酒を飲んだりして
いつもどおり楽しい時間を過ごしていた。

ちょうど良い感じに酔っ払った頃に
そのメールの話題を切り出した。

その子の口から出たのは
予想もしていなかった、
とてもつらく悲しい子供のころの物語だった。

その日の帰り道、
僕はなぜか遠回りして夜道を歩き、
ひとりで泣きながら歩いていた。

悲しいからではなく、
何もできない自分が悔しくて
その子を傷つけたヤツにムカついて
ひとり泣いていた。

しばらくして、良い事を思いついた。
誰にも知られないように
ある人に相談すると言う事だった。

相談した結果はNG。
「手を触れるな」
そんな事を言われた。

結局、僕は誰も救えなかった。あの子も。多分、僕自身も。そしてこれからも。

【終わり】

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