なぜメニューに“やぶきた”1品種しか載せないのか

こんにちは。
名古屋で伊勢茶カフェの店長をしています、松本壮真です。

まず、深緑茶房(名古屋店)のメニューをご覧ください。

図2

実はココに載っているお茶はすべて、同じ品種です。
日本で最も多く育てられている品種、“やぶきた”です。
今日は『なぜ深緑茶房は“やぶきた”1品種しかメニューに載せないのか』にこれについて詳しくお話をしたいと思います。

そもそも“やぶきた”というのは日本茶の一番スタンダードな品種で、全国の茶園面積の75%を占めます。
一番出回っている、“ふつう”のお茶です(もちろん優秀な品種なので一番育てられているわけですが)。
ではでは、なぜ一番出回っている“ふつう”のお茶だけで勝負するのか。
というか、これを通して何を伝えたいのか
これには明確な理由があります。
今回も最終的な結論としては「深緑茶房はお茶農家だから」という着地点になるのですが、そこに行き着くまでのプロセスを詳しくお話ししたいと思います。しばしお付き合いください。

現在の日本茶ブームの特徴

今、東京の日本茶カフェを始めとして「シングルオリジン」という形で「色んな品種の違いを楽しむ」というのがお茶業界の小さなムーブメントだったりします。
※「シングルオリジン」の定義としては「単一農園・単一品種」というものですが、日本茶で「シングルオリジン」と使う場合には「品種による違いを楽しむ」というニュアンスが強いように思います。

実はお茶には色んな品種がありまして、約60品種あると言われています(間違ってたらごめんなさい)。そんな「実は多数ある品種を飲み比べましょう!」というのが今の流れです。
『東京茶寮』『茶茶の間』などが有名どころかと思います。

深緑茶房はその流れに乗らない

深緑茶房はその流れには乗りません。
というか、乗れないですし、乗るべきでもないと思っています。
最初にお伝えしましたが、僕たち深緑茶房は「お茶農家」です。
(美味しい事が前提ですが)「品種をいっぱい持っている方が価値がある」とするのなら、おそらく99%、この『品種集めゲーム』を制するのは「お茶を他者から仕入れる人たち」です。
僕たち深緑茶房がせっせとお茶を作っている間に電話一本入れるだけで、彼らは1品種獲得できてしまいます(ごめんなさい、ちょっと誇張してます)。
深緑茶房は深緑茶房以外のお茶を売りません。全部自分たちで畑からつくったお茶です。なので、そんなハンデのある『品種集めゲーム』で僕たちは戦うべきではないと思っていますし、僕たちが皆様に提供できる価値はそこではないと思っています。
僕たちには僕たちの役割があると考えました。

深緑茶房の果たすべき役割

僕たちが果たすべき役割は「お茶農家として持っている技術」です。
長年培ってきた技術で「お茶の楽しさ」をお伝えしたいと思いました。
日本一の技術を持っているかどうかは分かりません。でも、持っている技術でお伝えしたい事はいっぱいあります

お茶には「栽培」「加工」「焙煎」という段階があり、それぞれに高度な技術が必要になります。
そして、このそれぞれの工程で工夫する事によって、出来上がったお茶は全く違った味わいを楽しんでいただけます。
下の写真の2つのお茶も同じ“やぶきた”です。加工方法を変える事でこのように見た目にも全く違ったお茶に仕上がります。

画像2


「品種の違い」か「方法の違い」か

図1

ちなみにメニューの中で言うと、①「香小町」と「玉緑茶」は「加工方法」が違います。②「千寿」と「深緑」は「栽培方法」が違います。③2つのカテゴリー(左右の急須のメニュー)は、「摘む時期」が違います。
※焙煎の違いは「くきほうじ茶」との比較で表現
※本当はもっと細かく違う点はありますが、分かりやすくするためにザックリお伝えしています

「深さ」を伝えたい

たくさんの品種を揃えるお茶屋さんが「7色の変化球を操るピッチャー」とするなら、深緑茶房はストレート1本で戦うピッチャーです。
「膨大な種類の変化球は投げられないけど、ストレートなら誰にも負けない。」そう言えるようになりたいものです。
「広く浅く」お伝えする事は非常に大事だと思っていて、それがシングルオリジンの楽しみ方かと思います(「浅い」という言葉が入る事によって印象が悪くなる気がしますが、そのような意図はありません)。
深緑茶房としてお伝えするのは、「狭く深く」だと思いました。品種ではなく、同じお茶でも技術によって全然違ったお茶になる「楽しさ」をお伝えしていきたいです。
ここまで、ぎじゅつ、ぎじゅつと言いましたが、僕が本当に皆様にお伝えしたいのはあくまでも「お茶の楽しさ」であって、それを支えているのがお茶をつくる技術という話です。
もちろん品種の違いを楽しむ事を否定しているわけでは全くありません。
色んなお茶の楽しみ方がある中で、深緑茶房が伝えるべきなのは技術で違いを出す事だった、というだけです。

深緑茶房も色んな品種を育てている

ちなみに、そもそも深緑茶房も実は『さえみどり、おくみどり、さやまかおり、べにふうき、サンルージュ』などの品種も育てています。
それでもなお、深緑茶房のメニューに“やぶきた”しか載せないのは、お茶農家としてのプライドです(と言うと、カッコつけすぎでしょうか笑)。
弊社会長から以前「今年はおくみどりの出来がスゴくよかったから、おくみどりもメニューに載せてお客さんに勧めてほしい」と言われた事があります。
でも、断りました(笑)
その軸をブラしたくなかったからです。「つくり方でこんなに違うんだ!」というのを感じて欲しいので、メニューには“やぶきた”しか載せてません。
※「何かたまには新しいお茶を〜」という方はご来店の際「いま季節のお茶ある?」と聞いてみて下さい。その季節のお茶をお出しさせていただきます(またお話をしたいと思いますがお茶は低温で熟成させる事で味が変わっていくので、そのタイミングも見ながら季節限定のお茶をお出ししています)。

話が長くなってしまいましたが、深緑茶房だからこそ皆様にご提供できる価値を、これからも考えて考えて考え尽くしたいと思います。

では今日はここまで!
また次回!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?