「部下の給与を上げるのが上司の仕事」という確信を持つことになった20代の時の私のお話し
ご無沙汰をしております。
今日は20代の頃の話をしてみようと思います。
私が感銘を受けた、あるセールスシニアマネージャーの方のお話を中心にした、ある会社に在籍した時の思い出話が中心です。
はっきり言って長いので、お時間のある時に読んでいただけたら幸いです。
Sさんの話し
私は新卒で入社した会社を4年務めたのち、退職をしました。
時は2002年で日韓W杯の時代。サッカーが好きな自分は引きこもりを決め込んで自宅でテレビ観戦に勤しんでおりました。
そのW杯も終わると流石に何かしなくてはいけないと思い、人生初の転職活動に踏み切るのですが、活動はするもののお金は、ない。
失業保険といっても微々たるものですから、何かして稼ごうと考えてあるアルバイトに応募し、条件の良さげな会社の面接を受けて見事合格となりました。
W杯が終わってすぐ働き始めた感じでした。
何をしている会社かというと、教材販売の会社。
自社開発のITスキルアップ教材を電話一本で売り込むという実に荒っぽい営業でした。
会社から支給されるリストに基づいて電話をします。本人がいなかったらいそうな時間帯を聞き出します。デスクには時間帯ごとに仕切られたフォルダがあり、聞いた時間帯をメモしたリストをフォルダに格納していきます。
リスト、と言ってもA5サイズのメモ書きに会社名・氏名・電話番号が書いてあってターゲット1人につき1枚リストがあるというイメージです。そこに色々と書き込みがなされています。
もし、本人が捕まったら、どうするのか、というと資料送付許可の約束を取り、OKだったら、会社からDMがその方の職場宛に届きます。職場がNGならばご自宅住所を聞くような感じですね。
DMは出す係がありますので、そこに必要事項を記入して郵送のお願いをします。
私は当時アルバイトだったので、郵送費用はタダでしたが、正社員となるとなんと給与から差っ引かれるのです。もちろん、売れば回収出来るので結果オーライなんでしょうが。
DMと言ってもA4サイズ1枚ペラのものです。両面に印刷されているのは教材のラインアップ。それこそ今風で言うならば豪華DVDボックスみたいな装丁の教材が描かれているのです。
価格はなんと無記載(笑)。
そんなDMは当然ですが、無視されます。そもそもDMはゴミ箱行きが多いものです。ましてや商品のPRなのに価格も書いていないんだから怪しさ満点です。
で、その後営業はどうするのか、と言いますと、電話営業を試みます。
DMを発送の1週間後の朝9時に、一気にテレコールを行うのです。
そこで、本人が出てきたら、会社指定の『スクリプト』をそれこそ読むように電話で申し込みを迫るのです。
出だしからテストクロージングまでおおよそ5分程度。電話の向こうの人物は延々と営業の話を聞くことになります。
もちろん、忙しいからと言って切る人もいます。
しかし、聞く人は聞きます。
金額も電話で話をします。カローラの新車が1台買えるくらいの金額と言っても差し支えはないでしょう。(原価は後で知ったのですが、6万円程度だそうです・・・・・。)
この金額を個人で一括で払う人は、まずいません。
なので、分割が効くことをお伝えするのです。月1万円程度で無理なくお支払い頂けるようにこちらも整えました、と言うことで契約を迫ります。
当然、ゴネゴネしますよ。金がない、時間がない、など営業をやっているとほぼ必ず遭遇するであろう相手からのネガティブ要素。これをいわゆる応酬話法で切り崩してクロージング、そして契約まで持ち込みます。
営業としては、相手の住所・氏名・電話番号・生年月日・分割払いか否か、を聞いて、あとは契約担当という方に電話をそのまま転送するまでが仕事なります。
契約担当は大体課長以上の職種の人で自分の場合は、事業部長がその役割を果たしておりました。
と、ここまで読んで、感の良い方はもうお気づきでしょう。
悪徳、とまでは言いませんが、かなりスレスレの営業を行う会社でありました。
当時の勤務先は新宿住友ビルでした。
他にも、野村ビルやセンタービルにも拠点がありました。会社も複数あったようで、社員によっては時々在籍を替えて同じ商材を売っておりました。
私自身モノを見たことはないのですが、苦情が来ないよう、それなりにちゃんと作っていたようです。
Officeソフトの使い方などをDVDで見て学ぶというものです。関数の組み方などを勉強するんです。今から見たらクレイジー極まりない話しですが、2000年前後はまだまだITは一部の限られたものでしかなかった証拠であります。
私が通っていた新宿住友ビルには目視でざっと数えてもワンフロアに200名以上は社員だったりバイトがいたと思います。
そのほとんどが、時間になると一斉に電話するんですね。
朝の9時からDMを送った先の相手に営業を仕掛ける。同じことは昼休み明けにもやるんですね。これを"追求"と表現していましたね・・・。
それが終われば、アポ取りと聞き出し、という作業を行っておりました。
聞き出しはちょっとここでは書けない内容なので、もしご関心があれば、個別に問い合わせしてください。
さて、会社自体は実に見事に仕組みが整っておりました。
アルバイトといえど、私の場合はアポ取りから追求と言われるクロージングまで幅広く対応させて貰いました。
勤務時間は9時〜18時でしたが、基本は居たいだけ居ても構わない社風でしたので、18時以降に追求をする人も大勢おりました。携帯電話の番号が分かっていれば、そこに対してバンバン電話して、何時までも電話で粘るという営業をやっていました。
そこまで頑張る理由はやはりインセンティブが大きかったからでしょう。
確か、1件獲得したら10万円は出ていましたね。
社員の場合30万円からの基本給でスタートし、役職がつけば、役職手当。そしてマネージャークラスになるとチームを率いるので、チームで稼いだ金額の何%かをリーダーシップボーナスという名目で支給されるので、マネージャー以上も俄然部下のためにめちゃくちゃ熱くなって指導したり助太刀したりするのです。
会社としては営業が頑張るための仕組みや仕掛けをしっかり作り上げてきたということになります。よく出来たもので、今でも感心します(笑)。
金髪美女と札束風呂
さて、そろそろ話を主題に戻します。
私が配属されたのはSさんという次長さんが率いるセールスチームでした。バイト含めて10名。私ともう1人が配属されました。
Sさんは当時30代後半で、当時交際している女性と中野に住まわれているとのことでした。
元々バンドマンだったということで、風貌もロン毛+赤髪。
広島のご出身ということで、時折広島弁が交じるのですが、明るくて話も面白い方ですっかり魅了されてしまいました。
また音楽の話もかなりノリノリで好きなギターブランドからアイアンメイデンやジューダスプリーストなどのヘヴィメタル系の話もされているので、個人的には実に楽しく雑談もそして仕事の話もさせて頂いた記憶がございます。
Sさんは私にこう言いました。
「俺、年収4,000万円稼いでんのよ。35過ぎてここで初めて社会人になって営業初めてやって、会社にあるノウハウを吸収していったら、3年ちょっとでこれくらい稼げちゃうのよ。だから夢のある仕事だと思うよ。」
年収4,000万円・・・・・。
新卒で入社した会社の退職時の年収が300万を切っていた私からすると、それこそ金髪美女と札束風呂に入れるんじゃないか!とすら実にレベルの低い想像をしてしまうくらい、全くピンとこない世界での話のように聞こえました。
実は入社手続きの時に、採用担当の人に言われたんです。
「ランチの金額、普通の会社員は1,000円いかないように気をつけて外食したり、家から弁当持ってきて節約する人が多いけど、うちは売れればそんな心配一切必要ないよ。ランチで10,000円なんて当たり前だし、それで懐が痛むような奴は全然いないから」
想像を絶する言葉で、何を言っているのかわからない、というのが正直なところだったのですが、後々インセンティブの話を聞けばそれも納得でした。
1件10万円ですもんね。
それに加えて、毎日営業がやる気になる仕掛けがあったんです。
それが「1番槍」「2番槍」「3番槍」と言って、簡単にいうと、その日、フロアの中で1番最初に受注意思をお客から獲得できた人間には「1番槍」として1万円の現金が支給されます。2番槍、3番槍も確かいくらかお金が出てきたかと思いますが、1番槍は1万円でした。
社員もバイトも一切関係ない。やりたい人間が追求に名乗りをあげて、テストクロージングだろうが応酬話法でバンバン切り返しまくろうが何しようが1番槍が欲しい人は朝の9時からバンバン電話して相手を落としにかかるという営業をやっておりました。
私も回数は覚えておりませんが、何回も獲得しました。
会社には必ず昼礼があって、その際に社長が表彰やフリートークをするのですが、200人以上の人間の目の前で表彰され、拍手される。なかなかない経験でしたが、やはり最初のうちは自分でも嬉しい気持ちでいっぱいになりました。慣れてきたら、嬉しさよりも獲得して当然と言う傲慢さが出てきてしまい、それはそれで困りものですが、なんにせよ、周囲の目が私に全て降り注がれて、良くも悪くもその存在を認められる=ライバル視されると言うのは今ではなかなか味わえない、ゾクゾクする経験でした。
と、また話は脱線してしまいましたが、とにかく稼げる環境にはありましたね。そして当然ですが、やれば金になるんですから、そりゃ頑張ると言うものです。
自分ももしかしたら、本当に金髪美女と札束風呂に入れるかもしれない!と実にバカみたいなことを少しだけリアルに感じ始めたこともあったくらいです(笑)。
それくらい金の魅力というか魔力に魅入られていたんでしょうね。
Sさんの話に戻しますが、Sさんは会社の中でも群を抜くほどの受注記録を保有しているということで、周囲からも一目置かれる存在でした。特に応酬話法の切れ味が抜群で、電話の向こう側の相手の「No」が最後は「Yes」に変わっていく様を私も傍らで見ていて、実に唸るものがありました。
そんなSさんからラッキーなことに私は様々な教えを乞うたのですが、会社内でも突出した能力を持つSさんのアドバイスがなくても、相応の能力があればきちんと成果の出る仕組みが会社にはありました。
それが『スクリプト』なのです。
アポ取りのスクリプト、追求時のスクリプト。
応酬話法に対応するためのマニュアルも当然存在しました。ただ、そこから逸脱するような話になると、あとはアドリブになりますので、結局は頭の回転が速く、地頭の良い人がとんでもない実績を叩き出すようになるわけです。
さて、この『スクリプト』は原則限られた人間以外は修正禁止でした。
全員がこの『スクリプト』に合わせてテレアポから追求まで、1mmたりとてズレることなく徹底してやりこなしておりました。
それこそ、「、」があれば、0.5秒サイレンス。「。」だったら1秒サイレンス、みたいなルールもあるくらいです。
この理由は電話を受けて話を聞いている相手が「はい」と言うために間を開けるというものですが、俗にいうエレファントテクニックというもので、小さいなYes(承認)を貰って、最後に大きなYesをもらうというものなのですが、これの応用ですね。
スクリプト1つ1つに巧妙な仕掛けがあり、その意味を知るほどに営業の奥深さを知ることとなりました。
「俺が君を稼がせてあげる。だから俺を信じて俺の言う通りにやってくれ。」
Sさんから言われたことで忘れられない言葉があります。
「俺が君を稼がせてあげる。だから俺を信じて俺の言う通りにやってくれ。」
痺れました。
入社して1週間も経たない間でのことでした。
他の営業を指導する光景を目の当たりにして、「凄いな〜。」と関心することしきりでしたので、この一言にはかなりグッと来ましたね。
会社でも群を抜く成績を出してきたマネージャーにこんなこと言われたら、言われた部下はどう思いますか?
信じるに決まってますよね。
そもそも営業未経験でとりあえず飛び込んでみた世界ですが、まさかこんなふうに言って貰えるとはつゆにも思いませんでしたから、本気で泣きそうになったことは今でも鮮明に覚えております。
一生忘れられない一言ですし、実はこの言葉があったからこそ、自分がもし部下を持つようになったら同じことを言えるように仕事を頑張ろうという気持ちになった言葉なのです。
「部下の給与を上げるのが上司の仕事」と言う言葉は全くその通りであり、部下の成績が悪くて詰っているだけの上司はただのpoorな奴だと言うことをこの時に学んだと言うことになります。
事実Sさんは、やる気のある人物は間違っても見捨てませんでした。若手だろうがベテランだろうが、バンバンアドバイスをくれました。
凄まじいエピソードがあります。
Sさんの突出して凄いところであるのですが、営業が電話中に相手と何を話をしているのかどうか一切聞いていない(モニタリングするデバイスなんて存在していません)状況で、営業の耳元でフレーズを囁くんです。
営業はもちろん「え???」となります。
でも、Sさんは続けます。「いいから俺の言う通りに言ってやって!1本取らせるから。」
こっちは言うままにやります。当然相手は反応してきます。こっちは「はい、はい。」と頷きます。その合間にまたSさんは耳打ちしてきます。
Sさんに言われたことをそのまま伝えます。一語一句間違えないように、です。その際に声色も当然ですが、指導されます。私がよく言われたのは、声がでかいからトーンを落とせ、でしたね。淡々と伝えろ、とも言われたこともありますし、声を大きくせずに熱意を伝える必要性も学びました。
そんなこんなでSさんの言う通りにやって結果どうなったか、というと体感では7割近く、「相手が落ちました」ね。
Sさんに聞きました。相手が何言っているのか聞こえるんですか?と。
「いや、聞こえないし、相手が何言っているのかも正直言うと分からない。でも、大体相手が何言ってくるのかわかっているから先回りして想像して君に指示しているだけだよ。」
正直びっくりしました。この人の頭の中はいったんどうなっているんだ?と。蓄積されたノウハウのボリュームが凄いというのはわかるのですが、にしても相手が何言っているか、分からないのに相手の心にストレートに刺さるフレーズをピンポイントで言ってくるというのは一体どういう能力なのか、超能力でも使えるのか???と。
後からじっくり聞くと、受注する人間にはある傾向があり、それに基づいて幾つかの言葉を投げかけて相手の反応を見ているんだそうです。相手が何を言ったのか、営業の表情を察していくつもある手札から適切だと思われる1枚をスッと耳元で囁くんだそうです。
参りました。こんな凄い人がいるのか、と。
結局は心理戦なんだよね〜、と笑いながら話すSさん。
営業はとかくマインドゲームだと私は常々から感じておりますが、Sさんのもとで働いていた時ほど、これを強く意識したことはありません。
相手が何を言っているのか分からないのに、相手の心情を読んで、時には先読みして、送り出してくるキラーフレーズの数々。そして、相手が「落ちる」瞬間の私のなんと形容していいのか分からないくらいの驚き。
Sさん本当に半端なく頭が良かった。大学を出てからプロのミュージシャン目指してある年齢まで定職という定職に就かないままここまで生きてきた。いわゆるアカデミックスマートではない、ストリートスマートの凄さをこの時に全身で感じる経験をしたわけです。
しかも決して人を詰らないし、厳しめのことを言っても必ずフォローが入る。そして常に最後は笑顔。完璧に魅了されましたね。時に繰り出す雑談も面白く、みんなでゲラゲラ笑いながら夜遅くまでひたすらに追求しまくっていました。いつ辞めるかもしれないようなバイトなのに分け隔てなくいろんなことを教えてくれたことが実は凄く嬉しかったんですね。
あの人の下でまた働きたい!
ある日、お手洗いで違うチームのマネージャーさんと一緒になりました。その方も1年前まではSさんの下で一緒に営業をしていたそうです。2年間一緒にやっていたそうですが、Sさんのやり方をそのまま完全コピーしたら、2年で5名程度の営業を従えるチームを作ることができた、と言っていました。
その方のチームも常に上位に食い込んでくるチームでしたので、Sさんがいかに優れたプレイヤーでありマネージャーだったか、よくわかると言うものです。
「Sさんのもとでやれて、君も俺も本当にラッキー。最高だね、またSさんのもとで一緒にやりたいくらいだよ!」
こんなことを元部下から言って貰えるSさん、本当に凄い人だな、と思いました。
そのことをSさんに伝えたら照れ笑いしながら、「いやいや、俺は大したことしていなくて、彼が頑張っただけだよ。」と言っていましたが、元部下であるマネージャーさんの言っていること、私には凄く理解が出来ましたね。
その時ですかね、私、物凄く意識したんですね。
優秀なセールスマネージャーはいかにして売れるセールスマンを育てられるか。これに尽きる、と。
売れるノウハウを自ら作り、これを部下に開陳して彼らもまた売れる営業として育て、実績を上げさせる。
セールスマネージャーでなくても、それがジェネラルマネージャークラスでも同じでしょう。
個々人の能力に依存してばかりの営業組織はかねてからダメな営業組織と私は考えております。きちんと売れる仕組みが構築されて初めて役職者はその仕事をしたと言えると思っております。
特にセールスマネジャーが1on1で部下の戦闘能力の引き上げにリソースを取られているならば、セールスマネージャー以上のポジションの人物が仕組みの構築を率先してやらねばならないのです。
売れる部下を何人作るかで、価値が決まる。これがセールスマネージャーの仕事と今でも強く信じて疑わないのはこの経験があるからです。
仕組みがある会社は強い
そしてもう1つ、忘れてはならないのが、この教材販売会社であれば、誰がやってもある一定の成果が出るような仕組みがありました。
それが『スクリプト』にあったのです。
面白いもので、アポ取りの時、対象者に繋がれば、どんなに悪くても1/10の確率でDMの送付許可が出たものでした。平均すれば大体3/10件くらいでしたね。
アポ取りの電話が50件かけたとすれば5件はDMを送ってもいいですよ、というわけですから、DM送付数=追求可能な見込み数となるわけです。
こうしてある一定の成果が出る仕組みが整い、そして数字が上がっていく仕組みが毎日のように出来上がってきたのです。
毎日日報を出していましたが、その数字が全部営業本部で集計されて次の日には全体のアポ効率(1件のアポを取るために何件コールが必要なのか)が皆の前で開示されるのも驚きました。
1/10が平均値なのに、これが1/15になれば効率が悪くなります。
過去のトレンドを見て、たとえば8月など時期的に閑散期でコールする相手も夏休みで不在がちみたいな感じだったら、まだ話も理解できますが、そうではない場合、つまり異常値として捉えられた場合の修正方法は、営業本部でごくごく限られた方々で議論されます。
そこでスクリプトの修正が図られて全員これでやれ、とプリントアウトされたものが配布されたりするわけです。それに沿ってまたテレアポをする。
実に組織立っているな、と感じた次第でもあります。
アルバイトで短期間とはいえ、売れる会社の仕組みづくり、様々な方法があると思いますが、この会社で学んだことは物凄く大きかったです。
上手にマニュアル化され、よほどのクズでもない限りは、ある一定の成果が出せる仕組みを持つ。
例えに出して良いのかどうか、分かりかねますが、「ゾッス!」でお馴染みのあの会社も相当凄い仕組みがあると聞いたことがあります。
基本、法人電話帳をベースに毎日黙々と電話をかけて、コピー機の情報を聞き出すのだそうです。メーカー、型番、いつ買ったのか、リース残がいつまであるのか、などです。
会社内に必ず聞くべき項目をヒアリングシートとして用意し、そこが埋まれて、かつ社内での条件を満たせば初めてアポの日時を切り出すことが出来るんだそうです。
数字が出ないと即座に退場せざるをえないくらいガン詰めされる会社としてその名を馳せますが、人海戦術でとにかくひたすらに日本中の会社に電話してその会社が使っているコピー機の情報を徹底的に収集するわけです。
リースを組んだばかりのところは流石に対象外でしょうが、リース契約が残り1年切っている会社ならば、当然アタックに行くんだと思われます。
現場でどう言うセールストークをしているのか、そこまでは分かりかねるのですが、おそらく相手にNoを言わせない。あるいはNoをYesに変える技術を彼らもまた持っていると思います。
そうじゃないと、大量採用→短期間での大量離職でネットの掲示板で散々叩かれながらも気がつけば東証一部上場、今もプライムで万全の経営体制を敷くほどの会社にはなっていないでしょう。
そう言う意味では、彼らも当然の如く、会社内でうまくいく仕組みを持っている、そして適切なタイミングでチューニングできる人材がいると言うことになりますね。
やはり、仕組みは大事です。他の会社で仕事をした時に、それを痛切に感じることが多々ありました。
「部下の給与を上げるのが上司の仕事」
「部下の給与を上げるのが上司の仕事」
まさにこれをSさんを通じて私は学んだことになります。
もちろん、チーム全体の売り上げの一部がキックバックされる立場でもあったわけなので、マネージャーとしては、部下のアシストに廻るのが必須になるような仕組み・仕掛けだったと思います。
でも、そうでなくても、Sさんは私に断言したんですね。「俺の立場は君らの給料をいかにしてアップさせるか、だから」と。
セールスマネージャーの仕事の内容なんて、セールスマネージャーになったこともなかった立場にあった当時の自分は、「なるほどそうか〜、勉強になるな〜。」と実に素直に捉えたものでした。
なので、転職した先でも、時には部下の前で言い切ったことがありますね。「俺の仕事は君らの給与を上げることだ、それが出来ないならば、俺はいつでもこの会社を去る!」と。
言っていることはめちゃくちゃ格好良いですが、でも言ったからには俺も頑張らないと、という気持ちにもなり、結果的には相応の成果が出せたことは、自分の中でも確かな手応えになりました。
ある年齢になってからは、そんなみんなの前で宣言するような伝え方はしないようになりましたが、それでも、君らの戦闘能力を上げて数字を出すことが私の仕事だからね、と言うことは幾度となく伝えておりますし、俺一人で頑張っても正直厳しいことだらけだから、みんなの力もぜひ貸してね、とは言っていますね。
繰り返しますが、「部下の給与を上げるのが上司の仕事」と言うこの言葉を一点の曇りもなく今でも強く信じています。もちろん、やる気があって前向きに捉えて仕事をしてくれる人限定です。
だから、というわけではないのですが、部下の手柄をかっさらって自分の手柄にして上に良い顔してアピールする人間が心底大嫌いですし、営業の数字が上がらない理由を何でもかんでも一個人の営業に押し付ける考えも大嫌いなんですね。
もちろん、営業のエクスキューズの1つ1つを見ていけば、甘えに過ぎないことを言っているケースも大いにありますから、そこは正す必要性は当然あります。
それでも、言い訳がちな内容であったとしても営業各人から上がってくる日報を見て、会社として営業が数字を上げてくるためにどういう取り組みが必要なのか、ということを管理者〜意思決定層が真摯に向き合って対策を自分たちでも考えないとか、私からすると、ありえない話になるわけです。
日報は毎日読んで理解できないところは翌朝必ず聞いてましたね。そうしてどうすれば売れるのか、ひたすらに考えて、時に議論をして、ゴールへの道筋を部下と共に作ってきました。(上司はたまに、ですね。)
案外いるんですよ。部下の日報を丹念に読まない管理職。
理由を聞くと読むに堪えない内容だと言うので、だったらこっちからこう言う情報が欲しいからそれを細密に書け、と具体的に指示するべきだと。こう言う情報が俺は欲しい、その情報を元に様々な判断を下したいからだ、と言えば普通の営業は面倒くさいと思っていても、素直に対応してくれます。少なくとも私の場合はみんな素直に理解して対応してくれました。
商談の詳細なんて別にセールスフォースでもなんでもいいんで入れてくれればいいわけです。なんなら共有ファイルサーバー内にエクセルでもスプレッドシートでもなんでもいいんで、顧客ごとにシートを作ってそこに商談の詳細を書かせたり、次のフェースではいつまでに何をしなくてはいけないのか、など書いてもらうように、管理者側が仕向けないとダメなんです。
こう書くと、部下が自分の頭で考えなくなる、と言いますが、こっちがこう言う情報が欲しいので、それを書けと言わないからフリーフォーマットでお気持ち表明みたいな日報しか出してこなくなるので、書き直しを何度も命じる、あるいは自分が不機嫌なままになるなど、全然効率的ではないんですよね。だったら先にフォーマット決めてそこに沿って書いてもらえば良いだけの話だと自分は考えております。
突き放すのも大いに結構ですが、がんじがらめにしないまでもある一定のルールや基準をマネージャークラスで作り、それに則って営業を動かした方が動きが見える分、対策も打ちやすいと思いますが、今の時代の若いセールスマネージャーはどう考えているのでしょうか。私の言っていることがずれていたとするならば、そこは平にご容赦いただきたい限りです。
あと、売れる仕組み作りの話ですが、今でこそインサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスと分業化も進んでおりますし、そこで細かくスコープすれば見えてくるところは多々ありますので、これはこれで大いに結構な事だと考えますが、それだけではなく、営業に従事する人間が頑張れる仕組みを作ることも大事だと考えております。
インセンティブはその一例だと思います。個人的には中長期的な組織の構築を考えるとインセンティブセールスがあまり好きではないのですが、営業の人事考課制度をまともに構築できない組織ならいっそのこと売上金額の10%くらい毎月キックバックしたってバチは当たらないとすら思いますし、営業を率いるマネージャークラスにもせめて4半期ごとに、成果に応じて利益を分配するくらいのことをやってもいいと思います。
経営者の勝手気ままな好き嫌いの判断で給与の上下動を決めるくらいならば、その方が営業もやる気が出ますし、少なくとも人事評価で不満続出→大量退職ということは避けられる可能性が高いと考えます。
こういう人の動かし方なども参考になりましたね、ここは後から振り返るとですが、会社内で深夜ウンウンと考え事をしている時に、ふとこの時のことが頭の中に出現しては良いヒントを私にもたらしてくれたことは幾度かありました。
職場を去った理由
学びの多かったこの職場ですが、3ヶ月もいなかったんです。
理由は、シンプルに正社員としての転職先が決まったから。
正社員のお声もかかったんですが、身も蓋もない言い方をすると、やっていることが結構スレスレのことをやっているので、やっていくうちに自分の中で「これって詐欺とは言わないまでもかなり詐欺っぽいよね?」と言う疑念がずっとあったんですね。
そもそもスクリプトをよく読むと、「会社の業務命令の一環で君に連絡をした」と解釈されても仕方がないようなフレーズがあり、追求の際のスクリプトにも半ば業務命令チックで契約を迫るシーンがてんこ盛りだったんです。
もちろん、企業に委託されてやっていたものではありません。自社開発の高額な教材をローン組ませて売るという、今でも手を替え品を替え生き残っている手口でもって営業していただけです。
幸いなことに商品クレームが来たという話は聞いたことはありません。
ですが、営業が頑張って契約の意思表示を取り付け、ローン会社の審査を通した段階で「やはり辞めた」と言う人もいれば金融事故の常連までもいるという有様で、本当の本当に1件ローンを組んで買った人がいるとしても、そこに至るまでに実は20件近くの「やはり辞めた」とか金融事故社に遭遇するんですね。
営業が契約の意思表示をとって、ローン会社に審査を出して問題がない場合、実は契約回収を専門とする営業部隊があったんです。彼らが実は日本全国相手のところに行って契約書を回収するという業務をやっていたんです。
職場でも自宅でも、行っていましたよ。それこそ北海道から沖縄まで。
驚くべきはその回収部隊の旅費を受注した営業マンが月の給与から相殺して払うんです・・・・・。
回収インセンティブも私、払いましたね。1件5,000円くらい持って行かれた記憶があります。
電話版の訪問販売なんだから、営業が他部署の人間の稼働にかかる経費を支払うのは当たり前、と言うイマイチ理解のできない謎ルールがあり、私もそれに従いましたが、こんな謎ルールに縛られて実入りが減るのは嫌だな、と言うのもこの会社で働き続けようと思わなかった理由の1つですね。
退職するとき、みんなとても優しくそして親切な対応でした。
事業部長は寂しいとまで言ってくれました。
「君の追求は最高だった、声が大きいし、力強いから声から伝わる熱波・体波がビンビン伝わってくる実に良い追求だった」と褒められましたね。
余談ですが、事業部長は以前大病を患ってしまったそうですが、健康のために時々追求に参加し、実に力強いお声で、追求していました。曰く、大きな声を出すと血行が良くなる(笑)。
さて、Sさんですが、就職が決まったことを素直に喜んでくれて一緒に選別のランチまで連れて行ってくれました。
1人10,000円とまでは言いませんでしたが、5,000円は軽く超えるランチを共にした記憶があります。
「この仕事ってさ〜、やはりメンタルに来るんだよ。だからさ、そう言う時はとっとこハム太郎のぬいぐるみ抱いてテレアポしたり追求したりしてバランスを取っているんだよ。」とSさんはポツリと語っていたのが印象的でした。
決してキレイな仕事ではないことは、Sさんも重々理解していたんですね。ただ本人は生活のために覚悟を決めて立ち望んだとも仰っておりました。
後がない状況、引くに引けない状況で、人生を賭けて戦ってきた、とも。
良心が痛むとも言っていた記憶があります。
そんなSさん、いつもとっとこハム太郎やピカチューのぬいぐるみ抱いていたんですよね。
ハム太郎を抱きながら、決して声色を1つ変えることなく淡々とこなす追求ではありましたが、だんだん熱を帯びてきて、「あなたの人生を変えたいんだ、今の苦境から好転するためには、この教材を買って学ぶしかないんですよ!」と半ば説教というか、哀願とも受け取れるような追求で見事に落とした光景を見て、ちょっとおかしくなって笑いそうになったんですよね。赤髪のロン毛のアラフォーがハム太郎抱き抱えながら普通営業の電話しませんからね。
とは言いつつも、Sさん本人からしたら、ハム太郎のぬいぐるみを抱えてでも心のバランスをとりたかったのかと思うと、今となってはかなりヘヴィな精神状態ではなかったのか、と推察するようになりました。
「ぬいぐるみってさ、いつも笑顔で人畜無害じゃん。」
確か、そんなこと言っていたな、Sさん。
後年になって、その言葉の意味凄く良く分かるようになりましたが、それはまたいずれの機会に。
Sさんはジョーダン・ベルフォード???
さて、時はかなり先に進みます。
ある時、アカデミー賞を獲得した映画を見る機会がありました。
映画のタイトルは『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』
レオナルド・ディカプリオが主演のこの映画、簡単に紹介をするとウォール街で名を馳せたジョーダン・ベルフォードと言う凄腕セールスマンが立ち上げた「ストラットン・オークモント」と言う会社と共に働いた仲間のお話です。
実話をベースにした映画で、かなり過激、かつお下品で、当然R-18指定もついたけど、アカデミー賞を獲得した映画です。監督がマーティン・スコセッシと言うところも注目を浴びた要因の1つではないかと考えますが、それ以上に凄かったのがディカプリオ演じるジョーダン・ベルフォードと言う男。
言うことやること全て規格外、だからはちゃめちゃに結果を出すわけです。
超低価格のボロ株を高値で売りつけるブローカーとして活躍し、やがては「ストラットン・オークモント」と言う会社を立ち上げ、みるみるうちに急成長を遂げ、ウォール街でもその名を知らないものがいないくらいの規模にまで成長させたわけなのですが、彼の凄い所を見て、思わず、教材販売会社のことを思い出したのです。
それは、
営業経験も全くないドラッグ漬けの連中を一流の営業に仕立て上げた事
ジョーダン・ベルフォードが独自に編み出した「ストレートライン」と言う技法があり、これをマニュアル化して営業に展開し、個々人の営業成績をバンバン上げさせた事
まさに、私が在籍した教材販売会社のそれに酷似しているではないか!
もう映画見た時には、アメリカにもこんな会社があったんだ!と言う驚きと興奮しかなかったですね。
そして、ジョーダン・ベルフォードはこんなこと言うんですよ。
「俺が教えた言葉を話せ、そうすればこの国のどの社長よりも金持ちにしてやる」
端々から聞こえてくる汚い言葉は抜きにしても、本当に自信があるマネージャーはやはりここまではっきり言うんですね。改めて認識しました。
「部下の給与を上げるのが上司の仕事」=「俺が教えた言葉を話せ、そうすればこの国のどの社長よりも金持ちにしてやる」
国は違えど、こういう思いを持って組織を牽引していた人間がアメリカにもいたのかと思うと、やはり「部下の給与を上げるのが上司の仕事」と言う言葉に嘘偽りはないな、と妙に確信してしまいました。
そして、教材販売会社には門外不出の『スクリプト』があり、『マニュアル』があった。そしてストラットン・オークモント社には「ストレートライン」があった。
ジョーダン・ベルフォードは結局はFBIに目をつけられて、収監されてしまいますが、それでも、おそらくではありますが、ストラットン・オークモント社で働き、そして「ストレートライン」を学び、大金を稼いだことを誇りに思う社員がいると思われます。
お縄頂戴になることは流石にダメですが、やはり売れる仕組みやノウハウが社内にしっかり存在するって強いよな、と思ったものでした。これはやはり万国共通だ。
そして、Sさんみたいな人、いたんですね・・・。
最後に
今日のテーマは思い出話を書く予定でしたが、気がついたら、偉そうなタイトルをつけるような話になってしまいました。
精神論というか心構えの話に終始してしまいましたが、それでも私の過去体験してきた今回のお話は、読み手の皆さんにどう伝わったかどうか、分かりかねますが、少なくとも私の中では、当時の懐かしさで気持ちもいっぱいになり、また改めて自身の会社や仕事に対してのスタンスを見直すきっかけにもなりました。
そういう意味では自己の頭の中の整理のようなnoteになってしまいましたが、読んでいただいた方の一助になれば幸いです。
また気が向いたら更新します。最後までお読みいただきありがとうございました。
余談
教材販売会社の事業部長に愛読書としてこれを勧められました。
聞くと過去に職場の同僚だった方が、あの豊田商事に一時期在籍していたことがあったそうで、その時の応酬話法のエッセンスが散りばめられている良書(!)とのことで、この本を勧められたそうです。
悪用厳禁だが、仕事の役には立つので、是非とも読むべしとのことで、頂戴したのがこの本でした・・・。
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