🧁志乃のHappyCooking♬
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「今日は〜カップケーキを作りたいと思いまーす。カップケーキは材料を混ぜて型に流し込んで焼くだけの簡単なものですが、特別な日に作るものもあります。焼き上がったらみんなで好きなトッピングをしましょうね〜」
料理が得意な志乃は時々、わんだほうを貸し切りしにして料理教室を開いていた。秋も深まった頃、牧と武川の誕生日が近いということで、それぞれの誕生日用のカップケーキを作ろうという話が持ち上がった。
「なんで本人が自分の誕生日用のケーキを作るんですか」
「だって俺ひとりじゃ出来ないんだもん」
そう言って春田が牧に泣きつき、それなら誕生日が近い武川も誘おうという流れになったのだが、なぜか武川の恋人である高村と、狸穴の姿もあった。
「はじめまして、俺は武川のこ…」
「あーー!コイツは俺の大学時代からの友人で、高村だ。高村陽介」
慌てた様子で高村の言葉を武川が遮る。高村はさも面白いものを見たという風で、笑いを噛み殺していた。
「実は初めましてなのは、牧君のお母さんと春田君だけなんですよ。リニューアル前のわんだほうの常連だったので、その頃に牧君とも面識があります」
「はい、お久しぶりです」
「え?そうなの?」
「ええ、まぁ」
やんわりと言葉を濁し、やわらかく笑う牧に怪訝そうな顔をする春田だったが、その空気を変えるように武川がことさら笑みを浮かべて続ける。
「えー狸穴さんは高村とお知り合いだとか?」
「そうなんですよ。仕事の関係でね。それで、俺の誕生日も近いから一緒にどうですかって誘われて、な?」
「俺は何も言ってませんよ。狸穴さんが勝手について来たんです」
「おい、高村!狸穴さん、大変申し訳ありません。コイツは昔からひねくれ者でして」
「ははは、高村君はなぜか俺には手厳しくてね〜。まぁそう言うなって。俺の誕生日はともかく、子どもたちにカップケーキを作って帰ろうと思ってね。それでついて来ちゃった♡」
「ははは、そうなんですか〜」と愛想笑いを浮かべる武川が狸穴と高村の間に割って入り、やんわりとその場を取り繕う。
高村と狸穴は別に仲が悪いわけではなくその間に重い空気が流れることもなかったが、互いに独特な雰囲気と華やかな空気を纏っているため、周囲からは一目置かれる存在ではあった。それがほんわかとした志乃の料理教室ではことさら異質で、大の男三人が仲良く連んでいる光景はどこか滑稽ですらあった。
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「じゃー始めますよ〜。まずは薄力粉を測って振るいにかけて下さい」
「ぷはっ!ゲホゲホ!」
「創一!顔真っ白!」
「おい春田、どうやったらそんなことになるんだよ」
「うっせ!鉄平兄に言われたかーねーわ!」
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「はーい、それでは〜材料を混ぜて生地にして行きまーす」
「なあ、政宗の生地にはブランデーを入れたらいいんじゃないか?その方が美味い」
「何言ってんだよ、うちの子たちも食べるんだからブランデーなんか入れちゃダメだろー」
「狸穴さんのはあっちでしょう。政宗の分は俺がやります」
「おい、高村!」
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「じゃー生地を型に流し込んで、180℃のオーブンで焼きまーす」
「あっつ!あっつー!」
「あー!もう何やってるんですか」
「おい、春田、壊すんじゃねーぞ」
「なんせ破壊神ですからね」
「凌太ぁぁー」
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「ふわぁ〜うまそうな匂い〜」
「じゃー生地が冷めるまで、生クリームを泡立てて下さいねー」
「なあ、いつまでこれ混ぜるんだよ〜。全然、角立たねーぞ。おい、高村!そのブレンダーどっから出して来た?!」
「さあ〜?」
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「凌太ぁ〜助けて〜」
「あー!なんでそんな所からクリームが出るんですかー」
「つめたっ!おい、春田!クリーム飛ばすなよ!あっこら、高村!生地にブランデー浸すなって!」
「だからこれは政宗の分で、狸穴さんのは自分で作ったらどうですか」
「おい、高村!狸穴さん、本っ当に申し訳ございません!」
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「あらあら〜?こんなにたくさん。高村さんはお菓子作りの経験がおありなの?お上手〜」
「いえ、初めてですけど、手先は器用な方なので」
そこにはメガネの形をしたチョコレートが所狭しと並べられていた。
「心なしか闇を感じる…」
「ですよねー…」
不安そうな武川に春田が賛同する。
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「じゃあー好きなように飾り付けして下さい」
「おい、春田ぁ、ドリアン載せるか?」
「いやいや、いらねーし!早く下げて!」
「なんだよーせっかく新メニューとして採用しようと思ったのによぉ。名付けて『ドリアンと明太子が出会ったら生クリームで仲を取りもってカップケーキの上でハッピーハッピーラーブ♡鉄平スペシャル☆』」
「なげーし!それにそれ、一体なんの罰ゲームだよ!」
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「出来たぁー!」
悪戦苦闘の末、なんとかカップケーキらしきものが出来た。
「凌太、誕生日おめでとー」
「あ、ありがとうございます。ふふ、なんだか照れますね。で、創一、何かやりました?」
「ん?さくらんぼ載っけた♡そうだ!これ、お義父さんにも持って行こう!」
「あら、いいわね〜喜ぶわよぉ〜。じゃあ今夜は唐揚げね!」
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「政宗、おめでとう」
「ああ、ありがとう。なあ、このチョコ、全部メガネ…なんだな」
「俺の自信作だ。そう照れるな。お前のために作ったんだ。全部食べていいぞ」
「あれあれ〜俺にはだぁーれも言ってくれないのかなー」
「狸穴さん、お誕生日おめでとうございます」
「ふふん、やっぱり牧はやさしいな♡」
「凌太がやさしいのは狸穴さんにだけじゃないですからっ!気安く肩を抱かないで下さいっよっ!」
春田は狸穴から牧を引き剥がすと、分かりやすく狸穴を牽制した。それを眺めていた高村が面白そうに笑う。
「そうだ!ちょうど7人居ることだし、この記念すべき日と秘めたる才能を祝して、このチームをCupCakeGenius7と名付けようじゃないか!」
急に何かを思いついたらしい狸穴が、高らかにそう声を上げると、春田と武川が声を潜めて言葉を交わした。
「超ダサくないですか?」
「そうだよな…俺もそれはさすがに…」
「いいですね!そうしましょう!」
「え…?りょ、凌太?」
「牧?」
キラキラした目の牧が狸穴に続く。
「なあ、牧ってそういうキャラだったか?」
「いや…たまに分からなくなる時があります……でも!俺、凌太の夢を応援するって決めたんで!」
「ハハ、なんだ、この茶番」
高村は乾いた笑いを堪え、興味深そうにことの成り行きを見守っていた。
『CupCakeGenius!』
『GeniusCupCake!』
狸穴と牧が先導し、チームCupCakeGenius7は発足した。そしてまた、このメンバーで集まろうということになった。
「でさぁーこれ、誰が片付けてくれんの?」
ヲワル。
🧁 HappyBirthday 💕
なんだかんだと武川さんは苦労人ですね笑。みんな愛すべきポンコツです。牧と高村は青い空と、甘く薫る珈琲(前篇)で会っています。
本当は🧁の立体キーホルダーを作る予定でした。材料まで買い揃えてたんですけどね、前作で燃え尽きてしまいました…🔥
いよいよ次回は最終回。クリスマスの恋人たちに捧げる大作です。私のお気に入りのヤクザモノパロが絡んでいます。お楽しみに♡
©︎ 🌸 Pink Moon Project