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新卒一年目で出産を決めた。子どもとキャリアを同時並行で育てていくために、考えたこと

出産のタイミングとキャリア形成は、働きながら子育てしたいと思う女性にとって切り離せない問題です。

今回登場いただくりすぽんさんは、新卒一年目の11月、23歳で妊娠。パートナーとは結婚を前提にお付き合いしていたものの、出産や育児とキャリアの両立に、まず不安を抱いてしまったといいます。また、コロナ禍での妊娠・出産という特殊な状況は、彼女にとってプラスもマイナスもあったようです。

それでも、りすぽんさんは子どもと仕事をあきらめませんでした。若くして産む環境をどのように整え、どのようにキャリアを切り拓いているのか、お話を伺います。


すべての条件が「GO」になるときはたぶん来ない

――新卒一年目の秋に思いがけない妊娠がわかるまで、りすぽんさんはどんなキャリアやライフプランを考えていたのでしょうか。

大学卒業後は、広告と映像制作を手がけるベンチャー企業に就職。いずれ映像プロデューサーとして自立できるように、最初の5年くらいは修行期間だと考えていました。着実に下積みをやっていったら落ち着くのは30歳くらいだろうから、結婚や出産はきっとその後。いつかは子どもを持ちたいと思っていたし、共働き家庭育ちだから働き続けるつもりだったけれど、まだまだ先という感覚でしたね。

美大に通っていたため、就職しないで制作活動を続ける友達も多く、このタイミングで将来の妊娠・出産まで考えている人は周りにほとんどいなかったと思います。新卒一年目の秋なんて、まだ仕事に慣れるのに精いっぱいだったから、予想よりもずっと早い妊娠に衝撃がありました。

――その衝撃は、ありありと想像できます……!

身体の変化から妊娠しているような気はしていたけれど、いざ検査薬で陽性が出ているのを見たときは、とっさに「仕事はどうしよう?」と思いましたね。明日から出張だし、ようやくちょっとずつ仕事を任せてもらえるようになってきたタイミングなのに……と。

ただ、そもそもお付き合いをする人とはいつも結婚を前提としてきたし、いつか来ると思っていた“その日”がちょっと早く来ただけなのかな、とは思えました。

――とはいえ、悩ましいことはたくさんあったと思います。出産にあたって、りすぽんさんが当時感じていた課題はどんなことでしたか?

課題は3つあって、まずはこれからのキャリアを踏まえたとき、子育てにリソースをどれだけ割けるのか? ということ。二つ目はお金で、三つ目は健康な赤ちゃんを健康に産み育てられるのか? ということでした。でも、私が思い描いていたとおり30歳くらいで妊娠したからといって、その3つがすべてクリアになるわけじゃありません。産みたくても産めない状況はいつ誰に起こるかわからないし、健康リスクがゼロになることは絶対にない。だったら、いまこのお腹にいてくれる赤ちゃんを守っていきたい、と思ったんです。いま振り返ると、使命感にも似ていたような気がします。

当時パートナーは大学院への進学を考えていたので、彼のキャリアは変わってしまうしお金の心配もありました。でも、幸い彼も私と一緒に子どもを育てたいと感じてくれて。そこからは、二人でいろんな不安を少しでも減らしていくために必要な情報を調べたり、対策を打ったりしていく方向に舵を切りました。

――広告×映像制作のベンチャーといったら、きっとりすぽんさん自身のお仕事もお忙しかったと思います。出産までの調整はスムーズでしたか?

直属の上司がとてもいい方で、報告したとき最初に「おめでとう!」と言ってくださったのが、本当に救いになりました。「急に呼び出されたから辞めるのかと思ったよ~!」「それはおめでたいことだね!」と明るく受け止めてくださり、現場で身体を動かさないといけないような案件を外して、仕事も調整してくれました。

育休は、0歳児4月入園に合わせて8ヶ月間を予定。産休と合わせても一年足らずの、ほぼ最短コースです。保活は実家の近くやそのとき一人暮らししていた場所では難しそうだったけれど、両実家から近い豊島区では入園しやすいと聞いて、引っ越しもしました。

状況や思いを明確に共有することで、キャリアを切り拓く

――若くしての妊娠・出産では、情報や同世代の仲間が少なかったり、キャリアや家計が不安定だったりすることも少なくないのではないかと思います。産前産後、どのようなことが不安でしたか?

2019年から2020年にかけての妊娠だったため、コロナへの不安がまず大きかったです。産休を目前に控えた5月は、ちょうど緊急事態宣言の真っただ中。会社から持ち帰る荷物を抱えてスーパーに寄ったら、品物が全然ないうえに長蛇の列で……。妊婦への影響がまだよくわかっていない時期だったため「コロナになったら死ぬかもしれない」という恐怖があり、もう家から一歩も出ちゃいけないような気さえしていました。

でも、コロナによる周囲との断絶は、ふつうに働いている友人たちも同じように苦労していて……「みんなと違う人生のルートに入った」「私だけみんなと遊べない」みたいな孤立を感じる場面は、逆にほとんどなかったように思います。

――確かにコロナの時期でなければ、周囲と違うライフステージに入った不安や孤独をもっと感じてしまったかもしれませんね……。

ただ、やっぱり年齢にも関係する情報不足には困りました。夫婦そろって妊娠の経過やマイナートラブルを全然知らないし、身近に産休育休明けで働いている人もいない。生の声を知るために、たくさんのX(旧Twitter)やnoteを読み漁りました。それでも自分と似た境遇で出産している例はほとんど見つけられなくて、気持ちの面で支えになる情報がなかったのはつらかったですね。

――そうした不安は、どのように乗り越えましたか?

「みんなどうにかしてるんだから、生まれてみたらなんとかなるんだろう」と思えるときもあれば「完璧に準備している家庭もあるのに私は何もできてない」と落ち込んでしまうときもあって、なかなかコントロールは難しかったですね。正直、乗り越える前に生まれてきたような感覚です。

出産時は、病院に行ってから「まだ時間がかかりそうだしいったん帰ってください」と言われるのだけは嫌だったので、陣痛の間隔がだいぶ短くなるまで自宅で我慢したため、到着後4時間のスピード出産。産むまでが本当にバタバタしていたから、これまでの道のりが一段落したんだなぁという達成感がありました。妊娠がわかったときはいろいろ悩んだけれど「こうして我が子に出会う瞬間のために頑張ってきたんだ」「本当に産んでよかった」と思えましたね。

――育児の滑り出しはいかがでしたか?

彼が就職したてで育休を取れるような状況じゃなかったため、平日の昼間はほぼワンオペで過ごしました。だからいろんな活動をしようとはせず、粛々と生活をしている感じでしたね。慣れないリモートワークをしていたり、仕事がなくなったりした友達の話もたくさん聞こえてきたし「みんなそれぞれに闘っている」という事実が、私の支えにもなっていたと思います。

仕事のほうは休んでいる間に大きな事業転換があり、もともといた広告の部署を閉じることになって、戻る場所がなくなってしまいました。できるだけ早く戻ってキャリアを積もうと思っていたのに、復帰して何をするのかわからない状態。広告をやり続けるには転職すべきか? など、育休中はぐるぐると悩んでいましたね。でも結局は、子育てと仕事を両立するだけでもチャレンジングだし、元の会社でまずはしっかり頑張ろうと決めて復帰。SaaSの新規事業開発をする部署に配属してもらいました。

――産休前とまったく違う部署での仕事は、いかがでしたか?

学べたことがすごく多くて、結果的にいい転機になったと思います。産休前は一動画プロデューサーとしてのキャリアしか積めていなかったけれど、新しい部署では営業やCSの経験もさせてもらい、今後の選択肢がぐっと広がりました。就活時から抱いていた「将来的にはアーティストを支援する仕事がしたい」という気持ちもより明確になり、復帰から2年ほどが経ったこの夏に転職。子育てと両立しながらも、自分の想いと会社のミッションがマッチすることを一番のフィルターにして候補を探し、希望どおりの会社に移ることができました。いまは、個人クリエイターやブランド・企業向けに課金型コミュニティプラットフォームを開発・提供するオシロ株式会社で働いています。

ただ、育児中の転職活動はやっぱりいろいろありましたね。ある会社では「旦那さんは協力的ですか?」と聞かれたり、開口一番「うちの職場は深夜を回って稼働することもあるけど大丈夫?」と尋ねられて一分でカジュアル面談が終わったり……。でも、後者の会社は最初にそう言ってくれるぶん、ある意味誠実だなとも思いました(笑)。

――そうした視線を向けられることもあるなかで、いま職場とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

できるだけ正直に状況をシェアすることでしょうか。それは、日ごろから担当している仕事の進捗や子育てと両立するための工夫もそうだし、キャリアへの想いもそうです。「がっつり共働きで子育てしています」「でも、早く出産したからこそきっちりキャリアも積んでいきたいと切実に考えています」「ずっとフルタイムのビジネスパーソンとしてやっていくつもりです」とか……悲しいかな、はっきり言っておかないと「子育て中の女性」というタグによって、誤解が生まれかねないんですよね。前の会社もいまの会社もワーキングマザーがいないので、職場側も私のような社員に慣れていない部分があるし。だからこそ、自分がしたいと思っていることや覚悟をちゃんと伝えておくのが大切だなと思うんです。

子どもも、夫婦のキャリアも、一緒に育ててゆく

――「まずはキャリアの土台を築いてから出産」「仕事が面白くなると産むタイミングがないまま高齢に」など、出産タイミングとキャリアの問題は深刻です。若くして産んだりすぽんさんの立場から、ぜひ所感を聞かせてください。

結果的には早く産んでよかったし、後半のキャリアにかなり余裕が持てると感じています。ただ、この数年は正念場。子育てばかりを優先するのではなく、夫婦ともにキャリアを築きながら子どもが育つことを目指していく必要があります。いわば、3人で育つ期間です。キャリア形成が落ち着いてから出産する方とは違った大変さはあると思いますが、自分が30代後半で子どもが中高生、40代で大学生くらいの年齢になってくれるというメリットもあります。だから、そのタイミングで思いきり仕事ができるように、いまはそれまでに得ておきたい仕事上の経験を地道に重ねたいと考えています。

――「3人で育つ」、素敵な考え方ですね。

もちろん、せめぎあいの日々ではあります。あと一時間早く帰れたらもっと家庭のことができるのにな、と日々思うし。自分も夫も仕事に邁進しているから、3人で過ごす時間が減ってしまったり、スケジュールの取り合いになってしまったり……。もっとうまく調整したいなと思いつつ、やっぱり日々ギリギリで回していますよね。

タスクの分担自体はちゃんとできているんですが、それぞれ終わったあとに自分がどんなに大変だったかわかってほしいモードになってしまって、お互いに褒め合うのが難しかったりもします。仕事で疲弊しているとケンカも増えちゃうし。たぶん、すべてを自分たちで回そうとせず、もう少し外に頼る量を増やさないといけないんでしょうね。

――外に頼るのは苦手ですか? 

たとえ自分の母親でも遠慮します。「いまサポートがあったらすごく助かるけど……実家という奥の手を発動するほどの状況か!?」って、すごく考えてしまうんです。子育ては夫婦二人のプロジェクトであって、勝手に複数人のプロジェクトにするのは違うんじゃないか、と思ったり。

――その責任感はすばらしいし、できることなら人の手をわずらわせたくない気持ちもすごくわかります。ただ、子育てを経験することで「人に頼れるようになった」とおっしゃる人も少なくありませんよね。

周りへの上手な頼り方や自分たちの仕組みづくりについては、夫婦で話し合って、少しずつアップデートしていけたらなと思っています。日々を回しながらキャリアも実現していこうとすると、気持ちの問題だけではなんとかならないですもんね。

――でも、そうしたリアルな課題や状況をりすぽんさんが開示してくれることも、あとに続く人たちの道しるべになるんじゃないかなと思います。

子育てってネガティブな情報が先行しがちだから、できるだけ「大変だけどギリギリ楽しく生きてるよ!」というポジティブな情報を伝えていけたらいいですよね。私は若くして産んだことで、どことなく「道を外れちゃったんじゃないか」みたいな気持ちがあったんです。でも、若いうちに産むメリットもたくさんあるし、産んだから仕事を諦める必要もない。私が職場でいろいろとつまびらかに話しているのも、周りに「ああいう生き方もアリなんだな」「子育てしていても別にやっていけるんだ」と思ってもらえたらうれしいからです。早く子どもを持っても後ろめたくなく、育児と並行して仕事も頑張れるんだってことを、生き方からにじみ出せたらいいなと思っています。





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