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「好きな仕事を続けたいからこそ、代替可能な人でいる」産後、二度の転職でつかんだ希望どおりのキャリア

子育てと自分のやりたいことを両立している人は、どうしても“スーパーウーマン”に見えてしまいがち。とくにインタビュー記事では、そのすごさばかりに目がいってしまいます。でも、100%スーパーウーマンな人なんて、きっといません。いろんな方の物語を聞きながら、自分に合った「子育て×自己実現」のヒントを探してみませんか?

第4回に登場するのは、35歳で出産後、これからのキャリアを考えてニ度の転職をした広瀬絢子さん(仮名)。最初の職場では産休育休の経験者がおらず、夜間休日に働けなくなったことで「仕事を選り好みしている」と思われたそうです。

大好きな仕事をうまく続けるため、広瀬さんが取ったキャリアの戦略とは?

取材+文:菅原さくら


産後に働き方を変えたら、仕事を選り好みしていると思われた

――まずは、産前の働き方を教えてください。子どもを持つことやキャリアについて、どのように考えていましたか?

小さいメディアの記者をしていたため、新卒入社から10年ほどは、朝から晩まで仕事だけをしているような生活でした。でも、30歳を過ぎたころから体力的に厳しくなってきたのも感じていたし、今後どう働いていけばいいのか、ぼんやり不安があったように思います。とはいえ「35歳転職限界説」みたいなものを踏まえると、このままこの会社で勤め続けていくんだろうな、と考えていました。

結婚したのは33歳で、35歳で出産。卵子が老化するなどの情報は知っていたから、高齢出産を迎えるまでには一人くらい産みたいと考えていたんです。産めるのなら子どもを産んでみたい、という純粋な興味がありました。

――忙しく働いているなか、産後のお仕事はどう調整されたのでしょうか。

産後も変わらず仕事は頑張りたかったので、産休前に直属の上司にかけあって、リモートワークの許可をもらいました。世の中的にも少しずつそういう働き方が出てきたころだったし、小さな会社だから組織の承認もスムーズでしたね。ただ、急な取材に出かけられなくなることが、子どもがいない独身男性ばかりの職場でどれだけ受け入れられるだろうか? という不安はぬぐえませんでした。

――育休を終え、実際に復職してからはいかがでしたか?

事前に準備をしていたとおり、リモートワークはさせてもらえました。でも、周りは出社している人ばかりだったため、情報が全然入ってこなくて……結局会社に行かないとわからないことが多く、自分の環境だけ整えてもダメなんだということを思い知りましたね。

また、危惧していたように、周りのメンバーとの関係がなかなかうまくいきませんでした。動きが鈍くなったことを、仕事を選り好みしていると受け取られてしまったんです。「あの人ばっかり夜や休日の取材を避けてずるい」「リモートワークも自分が楽したいだけだ」と思われ……休日出勤できないぶんはほかの仕事で埋め合わせていたのですが、それをうまく周りに伝えることができず、だんだん仕事から干されていきました。

――つらい……! でも、広瀬さんの状況や担当タスクを共有し、周りとの関係を良くしていくのは、マネジメント側の仕事でもあるのではないかと思います。

たしかに、上司が間に入ってくれたらいいのになと感じることはありました。でも、私も自分の状況を、もうちょっと周りに共有すればよかったなとも思います。子どもの話なんて興味がないだろうしわかってもらえないと自己完結して全然話さなかったけれど、「夜間授乳で眠れない」とか「平日の夕方はこんな感じなんだ」とか、フランクなノリで伝えておけばよかったです。仕事場にいなくてもただ休んでいるわけじゃないとわかってもらえていたら、もうちょっと状況が違った気もします。

でも、自分がマイノリティである以上、会社の空気を変えていくにも自分だけが頑張らないといけなくて、通常業務をしながらそこまでやるのは無理だったんですよね……。だから結局、自分が居場所を変えるほうがいいと考えて、復職から1年ちょっとで転職を決めました。

――出産以前は「35歳転職限界説」なども頭をよぎっていましたが、幼児連れ39歳の転職はいかがでしたか?

最初の職場がニッチな業界だったこともあり「ここでの経験がどれだけ外で通用するんだろう」「子どももいるのに採用してもらえるかな」という不安感は強かったですね。でも、やらざるを得なかった。ここで苦しみ続けるより場所を変えて、未来につながるしんどさと向き合うほうがいい、と思ったんです。

子どもが小学校に入る少し前までには、ある程度長期的なキャリアビジョンが描ける会社に入りたい。だから、最初の転職は自分に足りないものを身に着ける準備期間だととらえて、多少負荷がかかっても頑張ろうと決めました。現職と子育てと転職活動を並行するのも大変だったので、受けた会社は、絞りに絞った1社だけです。効率重視でしたが、自分のやりたいこととマッチする会社がちゃんと選べたと思います。

――どんなキャリアプランを描いて、どんな転職をされたんですか?

最初の職場でタイアップコンテンツを制作していたので、今度は広告代理店に入ってマーケティング視点を身に着けることで、タイアップ周りのスキルをより強化しようと考えました。

ただ、さすが広告代理店というものは、前職に輪をかけて忙しかったですね。ある程度期間を区切った修業期間ととらえてはいたものの、大変でした。子どもを寝かしつけたあと明け方まで働き、ふらふらになりながら朝起きるような生活で、子どもにもイライラをぶつけてしまって。当時4歳になる息子から「ママ、もう働かないでいいよ」と泣かれたときは、この子にも心労をかけてしまっているのだと本当につらかったです。

夫は家事育児を分担してくれるし、休日に子どもを一日連れ出したりもしてくれました。でも、なんせ彼も激務だったから、協力体制を敷くだけではどうにもならない場面もたくさんあったなと思います。

戦略的な転職を2回。マミートラックに乗らないために

――そして、予定どおり広告代理店でスキルアップしたあと、二度目の転職。いまは大手メディアにお勤めと伺っています。これまでの経験は活かせていますか?

そうですね。広告代理店ではロジカルに考える力や、情報を整理しながらいろんなステークホルダーと仕事を進めていくスキルを鍛えられ、いまの職場でもそこを重宝してもらえていると感じます。現在の職場は歴史のあるメディアという組織柄、昔ながらの空気も残っていますが、働き方は少しずつ変わってきているところ。これからの働き方を一緒につくっていく一員として、さまざまな仕事を任せてもらえているとも思います。

――子育てと仕事の両立も、しやすくなりましたか?

はい。多様な人が働いている大企業なので、子育てや介護をしながら働いている人もたくさんいます。キャリアアップと働きやすさの2軸で転職活動をしてきて、本当によかったです。ただ、会社の差だけでなく社会全体でも、子育てを始めたばかりの5年前と比べれば、理解が進んできているように思います。

――働くうえで、いま広瀬さんが心がけていることはありますか?

仕事では「代替可能な人であること」を心がけています。じつはずっと、マミートラックに乗らないためには、自分しかできないことを作らなきゃだめだと思い込んでいました。でも、子どものことで突発的に休んだときに大きな穴をあけてしまう人材って、マネジメントしづらいと思うんです。だからいまは、万が一自分が抜けても大丈夫なように、情報共有をこまめにしておく。余裕があるときはほかの人の仕事を巻き取るけれど、自分だけでは抱え込まない。そんなふうにしていたら、やらせてもらえる仕事が逆に増えたと感じています。

――それは目からうろこです……! 「自分しかできない仕事で居場所を確保しないと」って、つい思ってしまっていました。広瀬さんは、どうしてそう考えるようになったのでしょうか?

新卒から産後すぐまで勤めていた会社では、まさに「自分の立ち位置を示さなきゃいけない」と思いすぎていたからうまくいかなかったのかなぁ、って思うんです。次の広告代理店は入れ替わりが激しい会社だったから、誰が抜けてもちゃんと回る仕組みが整備されていて、こっちのほうが働きやすいと思ったのもあります。子育てをしていなくたって、病気やいろんな事情によって働けない瞬間は誰にでも出てくるもの。そういうとき、いつでも誰かが代わりになれるシステムのほうが優しいなって思いました。

それに、自分のやっていることを開示したり共有したりしながら働けるのは、スキルのひとつと言えるのではないでしょうか。雇用の流動性が上がっていく時代において、いつ誰でもできるようにタスクを整えられる能力は、これからもっと評価されるポイントになるんじゃないかなとも思います。

――でも、コンテンツをつくるお仕事をされていると「自分ならではのものをつくりたい」「自分だけの仕事がやりたい」というジレンマもありませんか?

以前はありました。でも、いまはアウトプットされたものが最終的にいい形であれば、それでいいと思っています。記事を書いたり現場に行ったりするのが自分でなくても、方向性を決めたり、あがってきたものを適切にディレクションすることも大事な仕事だなと。職種や年次が変わったことによって、やりがいや視点が変わってきたのかもしれません。

――年齢や経験を重ねるにつれて、また違った仕事との向き合い方が見つけられたら、すごくいいなと思います。子育てと仕事のバランスは、いまはいかがですか?

つい仕事に比重を置いてしまいがちなところは課題だなと思っています。独身時代は自分と仕事のことだけ考えていればよかったけれど、いまはいろんなことがわかってきた子どものメンタルや幸せも無視しちゃいけない。仕事も子どもも大事で、板挟みになっているのは変わりません。

ただ、仕事は他の人に代替可能な部分があるし、自分なりに一生懸命頑張っていれば次のチャンスももらえるけれど、子育てはそうはいかない気がしていて……子どもとの関係が一度こじれて信頼してもらえなくなったら、簡単には取り戻せないと思うんです。だから、どちらかで迷ったときはちゃんと子どもを選ぶべきだと考えています。

――いまは転職を頑張ってキャリアの土台をつくる時期。これからしばらくは子どものケアにもちゃんと力を入れる時期……そんなふうに先のことまで見通して、戦略的に進めているのがすばらしいなと思います。

想定したとおり、子どもが就学するまでにいまの職場に落ちつけたのはよかったですね。会社が大きいから、何か新しいことにチャレンジしたくなったとしても、部署移動でまかなえる幅が広いと思います。それに、転職を2度したことで「いまいる会社に縛られなくても、いい環境があるかもしれない」という選択肢が持てるようになり、視野が広がりました。

子育ては、悩むくらいでちょうどいいのかも

――来年からはお子さんが小学生。就学準備もあり、本当に忙しいことと思います。日々を乗り越えるための工夫はありますか?

日々乗り越えられているのか……? という感じです(笑)。家が多少散らかっていても、毎日ごはんをつくらなくてもOKということにしているけれど「こんなに家が汚くていいのかな?」「手作りのごはんで野菜を食べさせなくて大丈夫かな?(出しても食べないけど)」と、迷ったり悩んだりしまくりです。まぁ、変に自信満々よりも、悩みながら試行錯誤していくほうが健全かもしれない……と、自分に言い聞かせています

――すごく素敵なマインドだと思います!

子育て初期のころはもっとネガティブだったし、こんなに悩んでいるのは自分だけかもと思っていました。でも、保育園に通いはじめていろんな保護者の方とお話するようになってから「みんな悩んでる」「自分だけじゃないんだ」と思えるようになったんです。それから、夫の存在も大きいです。もともと育児をしたいタイプで心が広いし、私がだめなぶん夫がちゃんとしていることで、本当に助けられています。

――パートナーとぶつかりあうことはありますか?

不満はこまめにぶつけ合うので、大きく衝突することはありません。先日は、夫にばかり家事の負担が偏っていて「僕ばっかりやってるんだけど」とクレームがつきました。ただ、私は鈍感で、言ってもらわないとそういうことに気づけないんです……。なので「大変申し訳ございません。私にできることは何でしょうか」と平謝りしました。夫が言わずに貯め込むタイプだったら大変でした。言ってくれる人で本当によかったです。

――では最後に、自分のやりたいことをあきらめず、子育ても納得いく関わり方をするために、どんなことが必要だと思いますか?

自分だけで抱え込まないことと、やりたいことを「やりたい」と言うことです。子育てを経て、家庭でも仕事でも、自分の状況や感情を言語化して共有することがすごく大切だなと思うようになりました。自分じゃ無理だと思ったら、人を頼ることも必要です。

それは子どもに対してもそうで、息子の前でも完璧でなくていいと思っています。だめなところを隠さず、失敗したときは「ごめんね」って謝れる姿を見せていきたい。息子にとって「失敗してもまぁ生きていけるし、なんとかなるんだよ」というサンプルの一人になれたらいいなと思っています。




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