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午前2時、扇風機前、そろそろ服着ないと風邪引く頃

『出会った日の僕らの前にはただ美しい予感があって 
それを信じたまま 甘い恋をしていられた 
そして今 音もたてず忍び寄る 
この別れの予感を 信じたくなくて 光を探している』
(Mr.Children・未来)

突然寒くなった。
もう少し情緒のある言葉を選びたいが、むしろこれぐらいはっきり言った方が、この突き放すような温度変化の表現としてふさわしい。

今年の夏も暑かった。
暑さには強い方だが、さすがに堪えた。エアコンの真下にベッドを置いているせいで、冷風が直撃と完全回避のニ択なのだが、もちろん直撃していただくしか道はなかった。その結果体が冷えすぎて、朝起きたらほんのりだるい日々だった。

それでも湯に浸かることは辞めなかった。座りっぱなし、寝不足、偏った食事で散々自分を痛めつけているのは分かっているから、せめて湯船には浸かってあげたい。入るだけで何もしなくていいしね。
ジップロックに入ったスマホと、水で満タンのピッチャーを持ち込んで、YouTubeを見る。熱くて耐えられなくなるまで。そのおかげで、お風呂上がりは全く汗がひかない。ドライヤーで髪を乾かすが、乾いた頃には体全体がベタベタになっている。盛夏の折は、服を着ることも耐えられず、全裸で扇風機の前に20分ほど座り続けていた。あたかも燃え尽きた矢吹丈のように。

ある暑い土曜日、かなりひどい一週間を乗り切った私は、昼の11時に目が覚めた。そして近くのパン屋に行って、メロンパンとクリームパンと明太フランスとチョコクロワッサンを買った。休日は自分の好きなものしか選ばないと決めている。家に帰り、全て食べた。13時ごろになっていたが、なんのやる気も出なくて、とりあえずベッドに座った。無意識のうちに寝ていたようで、気がついたら午前1時だった。冬眠しかけの熊のような生活。12時間も寝ていたことに衝撃を受けた私は、とりあえずよろよろと風呂へ向かった。こんな不摂生な一日でも、風呂に浸かればすべてが許されると思っているからだ。

湯が溜まるまでの15分弱、歯を磨いた。寝すぎて正常な思考力を失っている人間は、15分間歯を磨き続けることができるらしい。風呂に浸かる。あまりにも頭がぼーっとするので、YouTubeすら見れなかった。脳内では、「せっかくの休日を寝て過ごすなんて」と悲しむ自分が「どうせ予定もないんだから、一番必要なことができて有意義でしょ」と言い放つ自分に慰められていた。暑くなってきたので浴槽を出て、髪を洗い、体を洗い、顔を洗った。メイクはしていなかったが、クレンジングはした。クレンジングをすることで、「メイクをした」というフラグを立てます。これが人生RTA。

風呂を出た。暑すぎる、水分不足なのかくらくらするし、寝過ぎた頭は全然覚醒しない。とりあえず扇風機の前に行って、座る。風を受ける。扇風機が首を振る。私は動かない。扇風機が首を振る。私は動かない。体が冷えてきたのを感じる。そろそろ服を着ないと風邪をひく、とは分かっているのだが、
「もう少しこのままでいさせて」
なんて?
びっくりした。完全に目が覚めた。今誰が何を言った?この私の口から、「もう少しこのままでいさせて」なんてセリフが無意識に飛び出したって?しかもパン屋のレジ以来の発声だったため、声が切なげに掠れていて、余計にぞっとした。私の耳に入る甘い言葉は、桜井和寿から発せられたものだけで十分。

暴食ののち、12時間昼寝した独身女性も、「もう少しこのままでいさせて」と発言する権利はあるらしい。一生言わない言葉だと思っていたが、人生は案外、想像とは違う方向へ進むようだ。
とりあえず、今年の異常な暑さが引き起こしたホラーということにして、このまま秋になってくれることを願うばかり。

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