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なぜ温泉でクラスターが発生しないのか?【追記あり】

2020年にコロナ感染が広がってから、ずっと疑問に思っていたことがあります。それは、温泉施設ではクラスターは発生しないのか、という問題です。今回は、コロナと温泉について私見を述べたいと思います。

マスクなしの人が密集するのになぜ?

現在、首都圏を中心にまたもや猛威を振るっている新型コロナウイルス。このぶんだと、数週間後には北海道をはじめ、全国でかつてない規模の感染が広がりそうです。

当然、温泉施設も休業や利用制限など多大な影響を受けます。地方だと「他地域の利用者はお断り」という措置をとる施設も珍しくありません。高齢者の利用者が多い温泉施設ではやむを得ない対応だといえます。

しっかりコロナ対策をしている施設がほとんどとはいえ、温泉施設でクラスターが発生するケースが極端に少なく感じるのは気のせいでしょうか?

仕事柄、コロナ禍の初期から温泉施設での感染リスクについて注目してきましたが、ニュースで「温泉クラスター」が取り上げられることはまれでした。

ネット検索をすれば多少はヒットしますが、カラオケや飲食店、ジムなど他の施設に比べてあきらかに情報が少ない。単発で「従業員が感染」というニュースはあっても、入浴客までを巻き込むような大規模なクラスターまでは発展していないようです。

私の知る限り、最も規模が大きい温泉クラスターは、2020年9月、広島市内のスーパー銭湯の事例で、9人が新型コロナウイルスに感染したとのこと。しかし、感染者はスーパー銭湯で公演していた劇団のメンバーと観客で、どうやら観劇を通じて感染したようです。

2021年5月には群馬県の万座温泉の旅館でクラスターが発生しています。男女従業員7名の感染が確認されましたが、入浴客は濃厚接触者にあたらないとされ、私の知る限りお客の感染者は出ていないようです。

浴室内では密着することはないにしても、マスクをする人はほとんどいませんし、市街地のスーパー銭湯では密といってもいいくらい混雑することもある。湯船で友人・知人と話し込んでいる光景もよく見かけます。それなのに、なぜ?

コロナは水に弱い?

私の見立てでは、要因は2つ。1つは、本当はクラスターが発生しているけれど把握しきれていないという説。

仮に都心の満員電車内でクラスターが発生しても、利用者が多すぎて一人ひとりの行動履歴を追い切れません。それと同じように、利用者が多すぎて把握できていない可能性はあります。

たしかに、1日に何百人、何千人も利用する人気施設であれば、その可能性もありそうですが、ほとんどの温泉はそこまで利用者は多くない。地方に行くほど常連が多くなりますし、もし同時期に同じエリアで複数の感染者が出ていれば、「あの温泉で感染した」と特定できそうなものです。

もうひとつは、温泉施設という独特の環境が影響しているという説。

当たり前ですが、温泉施設は湯や水を大量に使って体を清潔にする場です。仮に感染者のウイルスが浴室内のどこかに付着しても、湯や水で洗い流されてしまうのではないか・・・。また、飛沫が飛んだとしても、湿気が多い環境なので、長時間、空気中を漂っていられず、床に落ちて流されてしまうのではないか・・・。そんな仮説を立てました。

もちろん、私にはウイルスに関する専門的な知識もデータもありません。素人の想像にすぎません。だからといって、温泉とコロナの関係を筋道立てて説明してくれる専門家もこれまでいませんでした。

そんなとき、一冊の本と出合いました。

最も有効なコロナ対策は「換気」

国立病院機構仙台医療センター・ウイルスセンター長である西村秀一さんが執筆した『もうだまされない 新型コロナの大誤解』(幻冬舎)は、これまで抱いてきたコロナ関する疑問を解消してくれる快作でした。

本書で最も注目すべき主張は、感染経路のほとんどは接触感染ではなく、エアロゾル感染(空気感染)であるということ。モノに付着したウイルスが体に入って感染する確率はかなり低く、それよりも空気中に漂っているエアロゾルを吸い込んで感染するパターンがほとんど。そのうえで、最も有効な感染対策は、換気を徹底することだと述べています。

カラオケやスナック、ライブ会場、飲食店、コールセンターなどでクラスターがよく発生するのも納得です。カラオケやコールセンター、ライブ会場は飛沫が飛びやすいうえに、防音のため換気もあまりよくない。地下の店や窓のない小規模な飲食店なども換気を徹底するのは簡単ではありません。

温泉についてはわずか2ページ足らずですが、「露天風呂や温泉は換気の優等生」という項目で触れられています。

露天風呂は屋外にあるので、絶えず風が吹いています。人気の遊園地のプールのように、よほどギュウギュウ詰めなら危険ですが、皆が裸の露天風呂でそんなことはまずないでしょう。また、屋内にある温泉でも、ラーメン店と同じで、何もしないと湯気が充満してしまうので、頑張って換気をしています。(中略)心配があるとしたら脱衣所です。人が少なければ問題ないのですが、混雑した脱衣所の場合は、リスクがあります。その時は人数制限をすることです。ただ脱衣所も、換気には大いに注意した作りになっているのが普通です。そうでないとたいていどこにでも置いてある鏡が曇ります。『もうだまされない 新型コロナの大誤解』(幻冬舎)より

つまり、仮にコロナウイルスがエアロゾルとなって空気中を浮遊していたとしても、風や換気によって除去されるというわけです。この文章を読んだとき、「なるほど!」と膝を打つ心地でした。

ただ、著者も温泉施設で調査をしたわけではないでしょうから、さらなる検証が必要です。しかし、「なぜ温泉でクラスターが発生しにくいのか?」という疑問を説く糸口にはなりそうです。

サウナは大丈夫か?

もうひとつ、「温泉とコロナの関係」について疑問があります。「サウナは大丈夫なのか?」ということです。

私自身はサウナよりも温泉入浴を好むので、ほとんどサウナを利用することはありません。しかし、感染が落ち着いている時期や地域では、コロナ禍でも温泉施設のサウナで汗を流している利用者がたくさんいます。

あんなに狭くて換気の悪い空間で、マスクもせずにいたら感染しそうなものですが、温泉と同じで、不思議とクラスター発生のニュースをほぼ耳にしません。

『もうだまされない 新型コロナの大誤解』ではサウナについては触れられていませんが、ワイドショー『羽鳥慎一のモーニングショー』に出演した著者の西村さんが、コメンテーターの「サウナはどうですか?」という質問に答えていました。

「責任をもって断言はできないが、サウナの高熱によりウイルスが不活性化する可能性はある」といった趣旨の発言をしていました。これも今後の検証が待たれますが、サウナでクラスターが発生しにくいことには、何らかの理由がありそうです。

ニューノーマルの旅のスタイル「ソロ温泉」

温泉は比較的リスクが低いとしても、コロナ禍が収まるまでは、グループでの温泉旅行は避けたほうが安心です。

大勢で出かければ、どうしても会話が弾み、ウイルスが飛散する可能性が高まります。旅先でお酒が入れば、気が大きくなって、感性対策もないがしろにしがちです。特に混雑している脱衣所や休憩所などは他の場所と同様に注意が必要だと言えるでしょう。

もちろん、現状では不要不急の旅を積極的にはおすすめできませんが、コロナ禍が終息するまでは、ひとり旅(ソロ温泉)が安心です。

ひとりなら必然的に会話をする機会はありませんし、人混みを避ける行動もとりやすい。酒で羽目を外すようなこともないでしょう。ソロ温泉は、ニューノーマルの旅のスタイルとなる可能性を秘めています。

ひとりでゆっくり露天風呂に入って、旅館の部屋で静かに過ごす。そんな旅も贅沢な時間の使い方といえるのではないでしょうか。

※コロナに関する見解は、素人のひとつの見方にすぎません。手洗い・消 毒、マスクなど自分でできる感染対策はきちんとしましょう。

【9月16日追記】

9月15日付『西日本新聞』によると、県内の公衆浴場で複数の感染者が出たそうです。

大分県と大分市は、温泉を含む県内の公衆浴場施設439カ所に対し、新型コロナウイルス感染対策の徹底を改めて呼び掛ける通知を出した。県内の公衆浴場では6日、常連客同士がマスクを着けず会話したことが原因と疑われる感染が複数人判明している。通知の発送は8日。全国屈指の「温泉県」の安全を維持するため、施設側も通知を重く受け止めている。

どこの温泉地か、そしてクラスターなのかどうかは不明ですが、温泉の浴場も油断できないことがあらためてわかる記事です。

大分には別府温泉郷のように地元の人が中心に利用する小さな共同浴場が多数存在します。顔見知りと会えば会話を交わすでしょうし、旅人と地元の人の交流も魅力です。

ただ、いくらクラスターが発生しにくいといっても、簡素なつくりの共同浴場は湯船も小さく、換気の設備も十分ではない。飛沫が届く範囲に複数の人がいっしょに入浴して会話を交わせば、感染してもおかしくないのでしょう。

やはり今は、温泉での「黙浴」が感染対策として重要といえそうです。




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