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絶景温泉200#7【湯泉地温泉・滝の湯】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

第7回は、湯泉地温泉の滝の湯(奈良県)

国道を通ってたどり着ける温泉地の中で、これほどアクセスが不便な場所がほかにあるだろうか。奈良県の十津川温泉郷である。

村を通る路線バスの走行距離は日本一を誇り、同じ奈良県内にある近鉄大和八木駅からバスに乗ると、なんと6時間半もかかる。東京-新千歳空港間を2往復してなお、おつりが出るほどだ

奈良の市街地から攻めても、三重や和歌山サイドから攻めても、とんでもなく時間がかかる。そういう意味では現代に残された「秘境」といってもいいだろう。

奈良県の最南端に位置する十津川村は、村としては日本一の広さを誇る。面積の96%を森林が占める村内は山、渓流、滝、ダム湖などの大自然が魅力だが、温泉も自然の恵みのひとつ。

十津川⑥

十津川温泉、湯泉地(とうせんじ)温泉、上湯温泉の3つの温泉地で構成される十津川温泉郷は、日本で初めて「源泉かけ流し宣言」をした温泉地である。

すべての温泉施設が湯を循環させず、かけ流しにしているため、新鮮な源泉を堪能できる。

温泉郷内には4つの公衆浴場があり、いずれも自然環境に恵まれてるが、とりわけロケーションに優れているのが湯泉地温泉「滝の湯」である。

十津川②B

560年の歴史をもつ湯泉地温泉は、60℃ある無色透明の単純硫黄泉。硫黄泉特有のゆで卵のような香りと、とろとろとした肌触りが特徴だ。

清潔感のある浴室には内湯もあるが、圧巻は70段の階段を下りた先にある露天風呂。森に囲まれた5~6人が入れそうな湯船だ。約10㍍の落差のある滝が豪快に流れ落ちる。滝との距離が近いので、そのサイズ以上に迫力がある。絶景だ。

もともと山深い土地である。滝が流れ落ちる音を聞きながら湯船につかっていると、日常の喧騒がウソのようにゆっくりと時間が流れていく。

実は、滝の湯以外の公衆浴場も、景色に恵まれたロケーションにある。

二津野ダム湖畔にある十津川温泉「庵の湯」は、江戸時代に炭焼き職人によって発見された温泉で、湖畔の建物まで階段を下りてアクセスする。

しっとりとした透明湯は70℃の源泉で、ナトリウム‐炭酸水素塩・塩化物泉。 あつあつの湯で、すぐに体が芯まで温まる。

内湯のみだが、湯船から見えるダム湖の長閑な風景は、まるで絵葉書のよう。これまた絶景である。

滝の湯と同じ湯泉地温泉にある「泉湯」は、十津川の渓流沿いにある。

十津川⑤B

私が訪ねたときは、台風が近づいていて風雨が強く、内湯に専念するほかなかった。「ほんまは露天から川が見えるんやけど」と気の毒そうに声をかけてくれたのは、湯船でいっしょになった常連の男性。露天風呂から見えるはずのを想像しながら湯を堪能した。

十津川温泉郷には、「滝」「湖」「川」を望む温泉が存在する。しかも、すべて公共の公衆浴場であり、誰でも気軽に入浴できる。温泉地として恐るべきポテンシャルである。

十津川温泉郷は、長い時間をかけて、わざわざ訪ねる価値のある温泉地だといえよう。

※トップの画像は奈良県ビジターズビューローの公式サイトからお借りした

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