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あらためて「温泉ワーケーション」を定義する

温泉に入りながら仕事もこなす。そんな「温泉ワーケーション」について私のnoteでは発信しているが、イメージ先行で、明確な定義が一般に定着しているわけではない。そこで、私なりにあらためて定義しておきたい。

「テレワークが絶対」ではない

近年「ワーケーション」という言葉を、さまざまなメディアで見聞きするようになった。

ご存じのとおり、ワーケーションとは、英語のワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語である。『デジタル大辞泉』では次のように定義している。

休暇中、特に旅行先でテレワークを行うこと。

なるほど、シンプルな説明である。だが、「テレワークを行うこと」と限定するのには違和感を覚える。もちろん、会社の制度の一環でワーケーションを行うのであれば、ネット環境が整った場所でテレワークを行うことになるだろう。

だが、私のようなフリーランスだと、あえてPCが使いにくい環境を求めてワーケーションに出かけることもある。情報過多の日常から離れて思考する時間を確保するのに、温泉地はうってつけだからである。

私の知り合いの経営者は、スマホやPCの電源を切る時間をあえてつくって、将来の戦略を練ったり、課題解決に取り組んだりするという。ネットから距離を置き、非日常の環境に身を置くことも、温泉地でのワーケーションのひとつの形ではないだろうか。

「会社員」に限定されない

百科事典の『知恵蔵』では、このように定義している。こちらのほうが私にはしっくりくる。

「ワーク」(仕事)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、会社員などが、休暇などで滞在している観光地や帰省先などで働くこと。仕事と休暇を両立させる働き方として注目されている。

では、「温泉ワーケション」の定義はどうなるだろう。上記の定義を踏まえれば、「会社員などが、休暇などで滞在している温泉地などで働くこと」ということになる。

ざっくりと説明するなら、これで十分かもしれないが、私のイメージする温泉ワーケーションの定義と照らし合わせると、こぼれ落ちているものが多い。

まず、「会社員」に限定する必要はない。ワーケーションは、一般的に所属する会社にそれらの制度が整っている会社員を想定したコンセプトだが、私のようなフリーランスや自営業者、そして比較的自由のきく経営者や起業家、投資家なども当然、ワーケーションの実践者になり得る。

現実には、会社員よりもしがらみの少ないフリーランスや経営者のほうがワーケーションは実行に移しやすい。そういう意味では、ビジネスに関わる人すべてが、温泉ワーケーションの対象となるだろう。

温泉ワーケーションとは「湯治」である

また、先の定義では「休暇などで滞在している温泉地などで働くこと」としているが、字面だけを追うと、仕事がメインで、温泉はおまけのような印象を受ける。「仕事の息抜きに温泉に入る」というイメージだろうか。

だが、私のイメージする「温泉ワーケーション」は、仕事と温泉は同等の扱いである。むしろ目的によっては、仕事よりも温泉がメインになってもいいと考えている。

温泉ワーケーションでは、温泉をテコにして、日常から離れた着想を得たり、心身をリフレッシュさせることを目的とする。その結果、仕事の生産性も上がる。だから、温泉ワーケーションでは、レジャーを楽しむという側面より、湯とじっくり向き合うイメージが強い。言い方を換えれば、「湯治」である。

温泉地に長期間(少なくとも1週間以上)滞留して特定の疾病の温泉療養を行う行為である。日帰りや数泊で疲労回復の目的や物見遊山的に行う温泉旅行とは、本来区別すべきである(Wikipediaより)

本来、温泉は現在のようなレジャーではなく、湯治の側面が強かった。物見遊山の観光は一部にすぎず、温泉地に長期間(少なくとも1週間以上)逗留して温泉療養を行うのがおもな目的だった。

百姓や漁師など日頃、重労働で肉体を酷使している人たちは、農閑期などに温泉地で心身を休めた。しかも数週間、あるいは月単位で逗留するのが通例だった。湯治に訪れた人にとって温泉といえば、ひたすら湯と向き合うことによって、心身を回復させ、英気を養う場であった。湯治では、日がな一日温泉にただつかって休むこと、それが主要な目的だったのである。

もちろん、ワーケションで温泉地に行くなら仕事も重要だ。「温泉だけ入っていればいい」というわけにもいかない。だが、仕事をしているとき以外は、できるかぎり温泉で骨を休めることに時間を使いたい(もちろん、温泉以外のレジャーを否定するものではない)。

温泉地という非日常の場で、非日常的な過ごし方を満喫できるのが、温泉ワーケーションの魅力のひとつであると考えている。

温泉地に着いたら、湯とじっくり向き合う。そのニュアンスを伝えためにも、あえて「湯治」という言葉を使いたい。

「連泊」が絶対条件

湯治である以上、期間的には連泊がふさわしい。日帰りや一泊二日の滞在では、ほぼ移動で終わってしまう。仕事と温泉、両方とも中途半端に終わるのであればワーケーションをする意味がない。「移動中も仕事ばかりで疲れて帰ってきただけ」ということになりかねない。

そういう意味では、温泉ワーケーションは連泊が最低条件となる。理想は1週間以上、できれば3~4泊以上は滞在したい。

重要なのは「自律的であるかどうか」

最後に付け加えておきたいのは、温泉ワーケーションを行う以上は、「自律的」であることが重要だ。

Airbnb Japanの執行役員である長田英和氏は、『ワーケーションの教科書』という著書の中で、「ワーケーションの3つの特性」について述べている。

①場所的特性(非日常の場にあること)、②時間的特性(勤務時間中に滞在すること)とともに、③心理的特性(社員が自発的に選択すること)を挙げている。

とくに注目したいのが、③心理的特性である。長田氏は次のように述べている。

企業によってはワーケーションを認める一方、行き先やコワーキングオフィスをあらかじめ指定して、その場所以外でのワーケションを認めないとする場合もあります。しかし、会社の命令でパリに出張したとしても休暇とは言えないように、会社に指定されたワーケーション先に行くことが、本人の自発的意思によるものではないならば、それは出張に類するものと考えるべきです。

自分の自由意思の働かないワーケーションには、バケーション(余暇)の要素がほとんどない。社員旅行が経営幹部の自己満足で終わってしまいがちなのと同様に、ワーケーションも会社の自己満足のツールにすぎなくなってしまう。

自分自身の選択権がない状態で温泉地に行っても、「やらされている感」はぬぐえず、仕事も余暇も満足いくものとはならないだろう。

温泉ワーケーションでは、個人が自発的、そして自律的に実践することが重要である。ワーケーションの目的を踏まえて、自分と相性のよい温泉地を選ぶ。それが担保されて初めて、温泉ワーケーションはプラスの効果をもたらすのではないだろうか。

「温泉ワーケーション」の定義

以上をまとめると、温泉ワーケーションの定義はこうなる。

「ビジネスに関わる人が、非日常の温泉地で、自律的に連泊して仕事と湯治に励むこと」

まだ私自身、温泉ワーケーションのコンセプトについて煮詰まっていない部分もあるが、「温泉ワーケーションとは何か?」という問いに対する、現時点での私の回答である。


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