「裸のワーケーション」がイノベーションを生み出す
ワーケーションは会社の組織やチーム単位で行われることが多い。もし温泉を拠点にした「温泉ワーケーション」をチームで実施すれば、どんな効果が得られるだろうか。
メンバー各人が「究極の無防備」の状態になる温泉は、チームの潜在力を最大限に引き出す可能性を秘めている。
あなどれない「裸になる」効果
現時点で企業の枠組みの中で行われるケースが多いワーケーションは、組織の部署やチーム単位で実施されることもある。
また、新プロジェクトのチームビルディングの場として活用されるケースが増えているほか、新しいイノベーションを創出するための機会としても期待されているという。
チームビルディングの促進やイノベーションの創出は、温泉以外のワーケーションでも期待できるかもしれないが、温泉ワーケーションの場合、「裸になる」という特質から、これらの目的を達成する上で特に有効だと考えている。
「究極の無防備」が人間関係の距離を縮める
当たり前だが、入浴するときは誰もが裸になる。若い人もお年寄りも、みんなすっぽんぽん。手元にあるのはタオル一枚だけ。生まれたままの姿でただ湯につかる。
湯船の中では、人は「究極の無防備」の状態である。
いっしょに湯船につかる人が見ず知らずの人なら、相手の社会的な立場や役割を気にする必要もない。役職、収入、資格・・・そんなもので自分を武装しなくてもいい。湯船の中では無防備な姿でいられるのである。
大自然に囲まれた露天風呂につかることを想像してみよう。非日常の開放感から、なおさら無防備な自分になれる。
だからだろうか、湯船の中では見ず知らずの他人と会話が弾むことがある。温泉地では、湯船で誰かといっしょになったとき、「こんにちは」などとあいさつを交わす文化が存在する。登山ですれ違いざまにあいさつをするのと似た感覚だ。
特に小さな温泉宿や共同浴場などでは、他の入浴客との心理的距離が近くなるのか、あいさつをきっかけに「湯の中談義」に花が咲くことがある。
温泉というシチュエーションが人を無防備にさせるのだろう。街中でいきなり話しかけられたら警戒して身構えるが、湯船の中では不思議と心がオープンになってしまう。
かつて私も、話しかけてきたおじいさんに仕事や人間関係の愚痴をこぼしてしまったことがある。ふだんなら親しい友人や家族にも話せないことを見ず知らずの他人に話してしまう・・・。温泉はこんな不思議な力を秘めている。
初対面や苦手な相手とも打ち解ける
このように人を無防備にさせる温泉は、ワーケーションで訪れたチームメンバー間の距離を縮めてくれるはずだ。
たとえば、新プロジェクトのチームビルディング。最初は、ほぼ初対面の人もいるだろう。「あの人、ちょっと苦手だなあ」というメンバーもいるかもしれない。うまくいっしょにやっていけるだろうか・・・と不安な気持ちがよぎる。
そんなとき、温泉が心強い味方となってくれる。先ほど述べたように、温泉は人を無防備にさせる力をもっている。
いっしょに入浴することで、人間関係の距離が縮み、会話が弾むかもしれない。苦手意識をもっていた相手が、「意外と親しみやすいかも」という印象に変わる可能性もある。
温泉は人と人との距離を縮める。少し大げさかもしれないが、温泉でのコミュニケーションがチームの絆を強くする。
フラットに意見を言いやすい
温泉ワーケーションでは、ミーティングの活性化も期待できる。
チーム単位のワーケーションの場合、いつもの職場と異なる環境に身を置くことで、普段は思いつかないようなアイデアや意見が生まれることが期待されている。イノベーション創出や新ビジネスプロジェクトを目的としたワーケーションでは、特に重視される部分だろう。
ちなみに、古代ローマ時代の元老院の議員たちは、ときどき浴場で重要な話し合いや会議を行っていたという。たしかに、無防備な裸姿なら虚勢も張りにくいし、忌憚なく意見を交換できるかもしれない。
湯船の中でなら感情的にならず、建設的な議論ができそうだ。これまで何千回と温泉に入ってきたが、湯船の中で人が揉めたり、声を荒げたりするシーンに出くわすこともほとんどなかった。温泉には人の心を穏やかにし、鎮める効果もある。
さすがに、現代のワーケーションでは湯船の中でミーティングをすることはないだろうが、温泉地にいるというシチュエーションは、仕事のポジションにとらわれない、フラットな意見交換を促すだろう。
温泉がイノベーションを生み出す!?
ハーバード・ビジネススクール教授で、組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、著書『恐れのない組織』(英治出版)の中で、「大きな成果を生むチームをつくるポイントのひとつは心理的安全性」と述べている。
「心理的安全性」とは、職場で誰に何を言っても、どのような指摘をしても、拒絶されることがなく、罰せられる心配もない状態のことをいう。
Googleが次々とイノベーションを生み出せるのも、組織の心理的安全性が確保されているからだ。社内での立場を超えて自由闊達に意見を言い合えるチームが成果を生み出す。
会社で身にまとっているさまざま鎧を脱ぎ捨て、無防備な状態になれる温泉は、メンバーの潜在能力を引き出し、チームの成果を最大化する。そんな可能性を秘めているのではないだろうか。
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