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絶景温泉200#12【青根温泉・湯元 不忘閣】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

第12回は、青根温泉の湯元 不忘閣(宮城県)

1546年に開湯した青根温泉(宮城県川崎町)は、江戸時代に仙台藩の藩主・伊達家の湯治場だった歴史ある温泉地だ。

伊達政宗公が訪れた際、「この地忘れまじ」という思いから名づけたのが「湯元 不忘閣」である。青根温泉を代表する格式と歴史をもつ老舗宿だ。本館をはじめ、離れ、門、蔵など計7棟が国指定の登録有形文化財。歴史好きになら感慨深いだろう。

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温泉も充実している。貸切風呂を含め、6つの湯船を楽しむことができる。いずれもピュアで透明の単純温泉がかけ流しにされている。

絶景は内湯にある。「大湯 金泉堂」は、歴史を重ねた石組みの大きな湯船に、大きな梁が張り巡らされた木造建築、昔ながらの手法でこしらえられた土壁で構成される。つまり、石・木・土というオール天然素材でつくられた空間である。

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かつて「大湯」は温泉街の共同浴場として親しまれていたが、現在の「じゃっぽの湯」という公衆浴場が新しく建てられ、大湯はお役御免となった。しかし、不忘閣の宿主が「歴史ある大湯を残すべき」と、30人の人夫が2年間かけて敷地内にかつての大湯を再現したそうだ。その際、釘を使わない歴史深い伝統建築を学ぶために若い大工たちも見習いにやってきたという。

目に見えるものだけが絶景のすべてではない。歴史的な背景が感動的な景観をつくり出すこともある。そんな感慨を抱かせる浴室である。

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30人くらいは入浴できそうな大きな湯船に、十分な量の源泉がドボドボと注がれる。ちなみに、かつての大湯の湯船は現在の2倍の大きさがあり、現在も床板の下にもうひとつの湯船が隠れているというから驚く。

湯が落ちる音のみが響く、幻想的な空間である。たまたま一人で貸切状態となり、贅沢な時間に酔いしれることとなった。

大湯以外の湯船もスルーするわけにはいかない。貸切風呂の「蔵湯浴司」は明治初期の土蔵内にある。天井高の広々とした空間にひのきの湯船がぽつねんと横たわっている。

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蔵の中にある湯船などめったにない。唯一無二の空間はまさに絶景の名にふさわしい。おすすめは夜間の入浴である。間接照明の橙色の灯りの中に湯船がぽわんと浮かび上がる。幻想的な空間演出には脱帽だ。

半露天の「亥之輔の湯」は、江戸時代からある石垣の隣に湯船が設えられている。1~2人入ればいっぱいになる小さな湯船だが、歴史に思いを馳せながら入浴できる稀有な浴室である。

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青根温泉は芥川龍之介、川端康成など文人墨客にも愛された。なかでも山本周五郎は、伊達家のお家騒動を描いた歴史小説で、NHK大河ドラマにもなった『樅ノ木は残った』を不忘閣にて執筆した。

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宿泊者は女将の案内で、伊達家ゆかりの「青根御殿」(昭和7年に再現)などを見学できる。高台にある青根御殿からの景色に見とれていると、「あそこの少し背の高い木がモデルになった樅ノ木ですよ」と女将が教えてくれた。

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