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「温泉に入ると病気にならない」は本当か?

先日、たいへん興味深い研究結果が発表された。「温泉には特定の病気のリスクを下げる」と、温泉の免疫効果を別府市などと実証研究している九州大学が報告した。

同研究では、人の腸内に住む膨大な種類の細菌、いわゆる「腸内細菌」に着目。治験者40人が別府の温泉に毎日入浴し、各種数値を計ったところ、次のような結果が得られたという。

①単純温泉に入った男性グループは痛風と過敏性腸症候群のリスクが、硫黄 泉だと肝臓病のリスクがそれぞれ1割以上減った            ②単純温泉に入った女性らはぜんそく、肥満のリスクが1割以上減った   ③塩化物泉、炭酸水素塩泉に入ったグループも別の複数の病気のリスクが減ったが、1割には届かなかった。

泉質や男女の違いによって、腸内細菌の増減の傾向の違いが数値にあらわれたことから、温泉が健康や病気に影響を及ぼすことが実証されたことになる。

ちなみに、人の腸内には細菌が1000種類、100兆個も生息していることが知られている。

腸内細菌は、「善玉菌」と「悪玉菌」、そのどちらでもない「中間の菌」と、大きく分けて3グループで構成されるが、ざっくり言うと、健康を保つためには、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」が占める割合を増やし、健康を害する原因となる「悪玉菌」の割合を減らすことが重要になる。

厚生労働省の情報サイトによると、「悪玉菌」は病気と大きく関係しているという。

悪玉菌は、たんぱく質や脂質が中心の食事・不規則な生活・各種のストレス・便秘などが原因で腸内に増えていく。腸内細菌は肥満、糖尿病、大腸がん、動脈硬化症、炎症性腸疾患などの疾患と密接な関係があり、これらの患者の腸内細菌は健常者と比べて著しく変化していることが知られている。

九州大の研究は、入浴前と入浴後で、腸内細菌の増減を調べることで、病気のリスクを計ろうというものだ。

温泉入浴と腸内細菌の関係性から温泉効果に迫った研究は画期的といえる。これまで「温泉と健康」というテーマに関しては、温泉地に伝わる湯治客の個人的経験に負うところが大きかった。「あの温泉に入って〇〇の病気がよくなった」といった類いの体験談である。

古くから「温泉に入ると健康になる」と言われ、「そんな気がする」と湯治客は温泉の効能を信じてきた。しかし、それが明確なデータや数値によって十分に研究・検証されてきたとはいえない。散発的・局地的な研究はあっても、「温泉に入れば健康になる」と言い切れる研究結果はなかった。

これは想像の域を出ないが、西洋医学がメインストリームである日本の医療界では、温泉療法は「伝承医療」と位置づけられ、軽視されてきたからではないだろうか。要は、効くかどうかわからない温泉療法よりも、もっと直接的に病気を治せる先進医療に研究資源が割かれてきた結果なのかもしれない。

そういう意味でも、腸内細菌と温泉効果の関係性にスポットを当てた今回の研究は、「娯楽・癒やしとしての温泉」から「健康のための温泉」へと人々の見方を変えるかもしれない。つまり、湯治文化が見直されるきっかけになる可能性もある

「1週間、湯治をすれば〇〇の病気のリスクが下がる」ということがデータで裏付けられれば、「1週間休みをとって湯治をする」という人も増えるだろう。ビジネスパーソンが「温泉ワーケーション」で長逗留するという新しいスタイルも生まれるかもしれない

今回の研究結果で興味深いのは、「単純温泉」という泉質の湯に入ったグループで「痛風、過敏性腸症候群、ぜんそく、肥満のリスクが1割以上減った」ことである。単純温泉は温泉に含まれる成分が比較的少ないことを意味するが、それでも効果が明確にあらわれたということは、温泉の潜在力を示唆している。

今回はあくまで中間報告であり、治験者はまだ40人である。2022年春までに計100例を集め、国際的な学術誌へ論文を発表する計画だという。次の報告では、どんな研究結果が示されるだろうか。期待しながら報告を待ちたい。

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