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ワーケーションの延長線上にある「地方移住」

2021年1月、東京から札幌に移住してから1年が経過した。実は、この札幌移住は「温泉ワーケーション」の延長線上にあったと言っても過言ではない。

近年話題の「地方移住」と「ワーケーション」は、意外と相性がよいかもしれない、という話をしたい。

温泉地に長期間滞在する「温泉ワーケーション」

ご存じの通り、ワーケーションとは、英語のワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた働き方のスタイル。

観光地やリゾート地など普段の職場と異なる場所で仕事と余暇を両立させようというもので、ITを駆使したリモートワークが普及したのをきっかけに注目されている新しい働き方のスタイルである。

ワーケーションという言葉を初めて耳にしたときの私の感想は、次のようなものだった。

「自分がいつも温泉宿でしていることじゃないか!」

私はフリーランスという立場で編集や執筆の仕事をしているので、パソコンが使える環境にあれば、7割の仕事は完結させることができる。だから、温泉地に連泊し、湯治をしながら仕事をすることは当たり前だった。ワーケーションという言葉が普及するずっと前から「温泉ワーケーション」を実践していたのである。

温泉ワーケーションでは、温泉宿でカタカタとキーボードを打ち、疲れたら温泉につかる。眠くなったら昼寝をし、気分転換がしたくなったら周辺を散策する。そして、リフレッシュされた脳で、再び仕事にとりかかる。

もちろん、一日の最後は温泉で締めくくる。夜はぐっすり、目覚めはさっぱり。1日に3~4回温泉につかることで、心身ともに調子がよくなり、仕事もはかどる。

「そんなに温泉に入っていたら仕事をする気がなくなるのでは?」と心配する人もいるかもしれないが、むしろオンとオフのメリハリが効き、仕事に対する集中力がアップし、生産性も維持できている感覚がある。

休息を効果的に組み合わせることで仕事の生産性を上げる。これこそワーケーションがめざしているものである。

仕事にも人生にもメリハリを

移住を決める前、札幌には旅行と出張くらいでしか縁がなかった。トータルで10回ほど来たことがあったが、ほとんどが仕事と寝泊まりをするだけで、雪の季節に訪れたこともなかった。だから、札幌で暮らすことなどまったくイメージしていなかった。

それでも札幌にいきなり移住する決断ができたのは、温泉地でのワーケーションの経験があったから。後づけになるが、今ではそのように考えている。

温泉地で仕事が成立していたのだから、札幌のような都市で仕事ができないわけがない、というわけだ。

リモートワークが定着した結果、私のような自由度の高い仕事は、どこにいてもたいていの作業がこなせるようになった。札幌にいても那覇にいても7割の仕事はこれまでと同じようにできる。札幌を拠点にすることは、リアルな距離の点で不便はあるが、仕事をするうえで致命的な障害とはならない。

さらに、北海道は日本一温泉地が多い都道府県である。札幌を一軒の温泉宿と見立てれば、そこを拠点にさまざま良質な温泉に足を伸ばすことができる。

自然環境もすぐれているし、ごはんもおいしい。QOL(生活の質)が向上するという予感もあった。いわば札幌を舞台に「温泉ワーケーション」を楽しもうというノリだったのだ。

実際、札幌に移住することで、「ワーク」と「バケーション」のメリハリがつくようになった。仕事で疲弊したら、温泉に入り、自然と触れ合い、おいしいものを食べる。そして、エネルギーをチャージしたら再び仕事に取り組む。まさに温泉宿でのワーケーションと同じような好循環が生まれている。

今振り返ると、東京に住んでいたときは、このような「ワーク」と「バケーション」のメリハリが曖昧になっていた。ずっと仕事に追われている緊張感。それを温泉に出かけることで、無理やりリセットしていた感覚である。

理想は、日常生活が「ワーケーション」の状況になること。仕事をしながら遊び(おもに温泉)もバランスよく楽しむ。そのような環境をつくることができれば、仕事で疲弊することも、メンタルが弱ることも少なくなるはずだ。

まだ自分自身も試行錯誤中の身であるが、移住から一年経って実感しているのは、「温泉ワーケーション」の延長線上に札幌移住があったということだ。ワーケーションをすでに経験していたから、地方移住もためらわずに実行できた。

「地方移住」も「ワーケーション」も、新しいスタイルとして注目を集めているが、今後ワーケーションを体験する人が増え、それをきっかけに地方移住を本気で考える人も出てくるのではないだろうか。

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