内省の場としての「ソロ温泉」
ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)は、忙しない日常から距離をおき、温泉でゆっくり心身を癒やすのが目的である。
そんな非日常だからこそ、自分自身の内面と向き合うには最高の環境である。
ソロ温泉を「ひとり合宿」と位置づけて、内省する時間にしてみてはいかがだろうか。
温泉に入りながら日常や人生を見つめ直す
忙しない日常では、ただただ考える時間はそう確保できるものではない。温泉に入りながら、将来のことを考えたり、これまで手つかずのままだった人生の課題について熟考したりするのもありだ。
つまり、ソロ温泉は「ひとり合宿」の絶好の機会なのだ。ひとり合宿とは、「日常を離れてひとりで思考を深めたり、日常や人生を見つめ直したりすること」と定義している。
「毎日忙しくて、日々の生活や自らの人生を振り返る時間なんてない」という人には、非日常の空間である温泉宿にこもって強制的に思考する時間をつくってみることをおすすめする。
実は、私も人生の節目節目で、温泉地でひとり合宿をしてきた。私は30歳のときに会社から独立し、趣味である温泉めぐりを究めることを決めた。日本全国3016湯をめぐる旅を思い立ったのだ。この決断をしたときのひとり合宿の舞台は、群馬県にある沢渡《さわたり》温泉だった。
美しく、心地よい「沢渡温泉」の湯船
強酸性の草津温泉で荒れた肌を整える効果があるとされ、「草津温泉の仕上げ湯」として知られる。その美肌効果から「一浴玉の肌」とも称される名湯だ。数軒の宿と共同浴場が並ぶ小さな温泉地で、遊興的な施設はゼロ。ひとり合宿には最適の温泉地といえる。
夏真っ盛りの8月、有休をとった私は3泊4日の予定で沢渡温泉の「まるほん旅館」に投宿。こちらの混浴風呂がすばらしい。床、壁、天井すべて檜づくりの湯小屋には小ぶりの湯船が2つ。
湯船の底にはモザイクタイルが敷かれ、どこか昭和を感じさせるレトロな雰囲気が漂っている。外ではセミがしきりに鳴き、源泉かけ流しの透明湯が窓から差し込む光によってキラキラ輝きを放っていたのを今もよく覚えている。何度入っても飽きない、居心地のいい空間だった。
ただひたすら温泉に入って決断したこと
4日間滞在していた私は、何度、温泉に入っただろうか。朝食前、朝食後、昼下がり、夕食前、就寝前・・・最低でも1日に5回は入っていたはず。温泉に入る以外は、近くを流れる沢渡川の河畔にある公園で、ボーッと川の流れを見つめたり、散歩をしたりした。部屋に戻れば、本を読んだり、昼寝をしたり。ひとりで考える時間はたくさんあった。
ちょうどこのとき「このまま今の会社で仕事を続けるか」「転職するか、独立するか」などと悩んでいた時期だった。そして、温泉に入りながら「独立して好きな温泉を究める道を歩んでみよう」と思い至った。温泉でのひとり合宿の結果、私の人生は大きく舵を切ったのだ。
それから十数年後、2021年に私は東京から札幌に移住した。私にとっても家族にとっても大きな決断となったが、これもまた温泉地でのひとり合宿の結果である。
札幌移住を決断した「ひとり合宿」
このときは、宮城県の青根温泉をひとりで訪ねました。伊達藩ゆかりの歴史ある温泉地。少し熱めのやさしい湯に入りながら、これからの人生を家族とともにどう過ごそうか、ひたすら思考を重ねた。その結果、札幌への移住がベストだという確信がもてたのだ。
もし仕事のこと、人生のこと、将来のことなどゆっくり考える時間が必要なら、ひとりの時間をもてるソロ温泉は絶好の機会となる。思考を深めたいときに、隣りに連れがいたら、おそらく思考は止まってしまうだろう。
「心身が疲れている」「ずっともやもやとした感情を抱えている」という人は、温泉地での「ひとり合宿」に出かけてみてはいかがだろう。
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