見出し画像

天とじ丼と木の葉丼のハーフ&ハーフ

もうなくなってしまったお店の話です。
29歳ぐらいの頃だったと思うので、遥か遠い昔のことですが、その店の丼がとても美味しくて、たぶん、僕の記憶の中ではいろんなところで食べた丼物の中で一番だと思います。

それが、福岡市川端の「仁伊島」の天とじ丼です。

「仁伊島」は今でもお店は続いていてちゃんとあるのですが、なくなったというのは、川端地区は再開発ですっかり様変わりしてしまいまして、現在の福岡リバレインができる前に、川のほとりに古くから続いていた「仁伊島」があったのでした。
再開発のため、移転を余儀なくされ、一旦、アーケードの中に仮移転した後、現在はリバレイン横の再開発ビルにあるようです。

ただし、今回お話するのは、およそ30年ほど前の思い出のお話です。
その頃、僕は福岡の地下鉄大濠公園駅のすぐそばで働いていて、奥さんが川端にある会社に勤めていました。
奥さんがはじめに「仁伊島」を知り、お昼ご飯を食べていたのですが、僕もそこに行きたくて、お昼休みに地下鉄に乗って、奥さんと待ち合わせをして、一緒にお昼を食べに行っていました。地下鉄は、中洲川端までは、赤坂と天神を挟んで3つめ。約10分弱ぐらいをわざわざ電車賃を使ってまで食べに行ったぐらいお気に入りのお店でした。

「仁伊島」は、お蕎麦屋さんです。
ざるそばをはじめ、そばが美味しいお店です。
ですが、お昼の人気は、なんといっても丼物でした。なかでも卵とじの丼が最高に美味しかったのです。
人気のお店でしたのでいつも満員。
川端はビジネス街なので、お昼はビジネスマンやOLで行列が出来ていました。

生の状態があるような半熟ではないのです。絶妙な卵の煮え加減でふわふわでやわらかいく、さすが美味しいお蕎麦屋さんですのでつゆがまた美味しい。

そんな丼物の中で、天とじ丼がいちばんの贅沢。
親子丼でもかつ丼でもないのです。
最初のうちは、親子丼やカツ丼を食べてましたが、一度、頼んでしまったら、天とじ丼には当然どれもかなわないわけで、行けばどうしても食べたくなるのでした。
でも、やっぱり、まだ若かった僕らにとって、お昼ご飯に天とじ丼は、毎回食べるにはちょっと高いわけで、
それで、やり始めたのが、木の葉丼と天とじ丼を1杯ずつ注文して、2尾のえび天を分け合うのです。
これをずっとやってました。

しあわせなお昼ご飯でした。

でもある日、再開発で移転しますの張り紙が出て、それからは、それまで以上に頻繁に通っていましたが、とうとうその日が来まして、最後の日は、いつものようにお昼を食べ、仕事が終わってから、夕方にも食べに行きました。
最後の日は、店で一番高い天ざるを注文し、天とじ丼はひとり一杯ずつ。最後の晩餐を堪能したのでした。
お店の人が、「お昼にも来てくださいましたよね」と覚えていてくださって声をかけてくれたのもうれしかったです。

およそ30年経った今でも、そのときの情景を覚えています。
川のほとりの、橋のたもとの、景色のいい、ほどよい古さの風情のあるいいお店でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?