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$10 Bio-feedback CV - DIY Eurorack Modular Synthesizer

背景

自作モジュラーシンセの73作品目。
モジュラーシンセには、生体信号を使ったバイオフィードバックモジュールがいくつかある。
特に、キノコを使ったモジュラーシンセの演奏は人気ジャンルの一つだ。
また、モジュラーシンセに限らず生体信号を用いた作曲手法はかねてより存在した。

私が調べる限り、バイオフィードバックには大きく分けて二種類ある。

No1.計装アンプを用いた生体電位増幅装置
生体電位を計装アンプを用いて増幅する。
人体に電極を取り付けた場合は筋電位を出力したり、植物に取り付けた場合は光合成による生体信号を出力できる。

eurorackモジュールではADDAC303がある。

坂本龍一が参加したForest Symphonyというプロジェクトでは、Arduinoと計装アンプを組み合わせたオープンソースの装置で植物の電位を音楽にしている。2012年にNHKでこのプロジェクトの放送がされていた。

「植物生体電位測定をオープンにするプロジェクト」という電子書籍でも植物生体電位の測定装置の情報が公開されている。

No2.表面導電率を用いた電圧ジェネレータ
Instruo SCIONや、そのベースとなったMIDI sproutプロジェクトがある。
私が調べる限り、導電率(抵抗値)を用いているため、生体活動によるフィードバックは応答性が弱いと推察している。
それを補うソフトウェアアルゴリズムが素晴らしく、植物を用いた演奏は多くのインスピレーションを与えてくれる。

今回は、No1の生体電位を増幅するタイプのモジュールを作成する。
理由は、ソフトウェアアルゴリズムによる介入を受けず、アナログ回路のみのCVモジュールを作成したかったため。
また、人体の筋電位を用いた応答性のよいCVモジュールを作成したかったためだ。

制作物のスペック

ユーロラック規格 3U 6HPサイズ
電源:20mA( +12V ),20mA( -12V ),10mA( +5V )

人体に張り付けたTENSパッドの生体電位(筋電位)を増幅してCV出力するモジュール。
パフォーマンスによる応答性を優先した設計をしているため、植物での使用は想定していない。

SLEW pot:スルーリミッター、CV信号に対するローパスフィルタ。
AMP pot:CV信号の増幅。
OFFSET:CV信号のオフセット。
EMG in:TENSパッドの入力端子。3-poleの3.5mmステレオジャック。
CV out:CV出力、バイポーラ。
LEDインジケータ:TENSパッドの信号で点灯する。

ハイパスフィルタ

このモジュールは筋電位の変化を応答性よく出力することを目的としている。CV出力にはハイパスフィルタが挿入されているため、力を入れ続けているとCV出力は元の中間電位(力を入れてない状態)にゆっくりと戻ってくる。
このハイパスフィルタが、人体の動きをCVに応答性良く変換してくれる。
逆に、生体電位の変化が緩やかな植物には不向きのモジュールである。

EMG inの注意点

3.5mmステレオジャックを使用しているが、モジュラーシンセの3.5mmパッチケーブルを挿すことはNGだ。
EMG inの先には、3.3Vで動くICが接続されているため、3.3Vを超える電圧や、0Vを下回る電圧が印加されると、故障する可能性がある。
一応、EMG in接続先のモジュールには100kohm以上の制限抵抗が実装されているので、壊れない気もするが、定格電圧を超えた入力は避けたほうが良い。

ノイズの影響

微弱な電圧を増幅するモジュールのため、ノイズの影響を強く受ける。
もし、CV出力にノイズが乗る場合は、電源をコンデンサで平滑したり、クリーンな電源を用いると改善する。
また、人体を通じて流れ出る50Hzまたは60Hzのコモンモードノイズの影響も強く受ける。人体の周辺環境を変えてみる(靴をはく、靴を脱ぐ、机に触る、モジュラーシンセのラックに触る、椅子に座るなど)をコモンモードノイズが改善するかもしれない。

製作費

総額約$10
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AD8232 module $5
TL074 $0.4
LM2940-3.3 $0.4
可変抵抗 $0.3*3pcs
他(汎用部品は下記リンク先参照)

AD8232module
Aliexpressから$5で買える。心電モニター用のモジュール。TENSパッドが付属する。

ハードウェア

3.3Vレギュレータ

AD8232モジュールは3.3V電源が必要。
Eurorackの5V電源から、LM2940-3.3で降圧して3.3Vを作っている。
消費電力に懸念がないのなら、12Vから降圧しても問題ない。
LM2940-3.3を使った理由は、入手性がよかったから。もっと小型のレギュレータICで代用しても問題ない。

オペアンプ回路

U3Aのオペアンプは、CRローパスフィルタ(Slew)のインピーダンスをリセットするためのオペアンプ。
U3Bはオフセット電圧のインピーダンスをリセットするためのオペアンプ。
U3Cは反転増幅回路。
U3Dは反転回路。U3Cで反転してるので、さらにそれを反転している。

AD8232モジュールの改造

回路図には表記がないが、AD8232モジュールを改造している。

1.LEDの交換
AD8232モジュールにはSMD LEDが実装されている。
フロントパネルのLEDインジケータに置き換えるため、SMD LEDは取り除き、代わりにLEDインジケータのワイヤーを接続している。

2.ハイパスフィルタのコンデンサの追加
AD8232モジュールには、初めから2-poleのCRハイパスフィルタが実装されている。ただ、カットオフ周波数は心電モニター用に設定されているため、このままでは筋電位モニターに流用ができない。

ハイパスフィルタのカットオフ周波数を下げるため、CRフィルタのCの値を大きくする必要がある。
1uFのセラミックコンデンサを、2か所に追加する。すでに実装されているセラミックコンデンサに重ねる形で、並列に接続すればよい。

ノイズ対策

さて、ここからはモジュールの作成とは直接関係ない、設計段階の失敗の話をする。

設計の初期はAD8226ARZという計装アンプを使って、2-pole TENSパッドの出力を増幅する回路を作成した。
この回路では、家庭用AC電源(60Hz or 50Hz)のコモンモードノイズが人体を経由してアンプに流れ込み増幅されたため、CVジェネレータとしての動作が不安定であった。

AD8232モジュール及び、3-pole TENSパッドを使うことでコモンモードノイズは減少した。
ノイズが残るため、Slew回路のローパスフィルタで60Hzのノイズをフィルタできる回路構成としてある。

医療用の心電モニターや、筋電位モニターでも、同じように家庭用AC電源が問題になる。対策としてノッチフィルターを用いることが多いようだ。
今回のモジュールはノッチフィルターは採用していない。理由は部品点数が多くなるため。

コモンモードノイズの検証動画をpatreonにUPしている。
他にも、回路図のPDFや、写真もUPしている。
今後の活動のためにも支援してもらえると嬉しい。

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